第3話 そういえばポーションって貴重品だった
アーク兄さんとの模擬戦後、少しは何か変わるかと思ったが、屋敷の人間の態度が変わることはなかった。
父上は相変わらずで、アーク兄さんは以前に増して俺を馬鹿にするようになり、メアリー以外のメイドや執事は俺を白い目で見ている。
貴族の無属性魔法の評価、どれだけ低いのだろうか。
そんなこんなで冷遇されながらも、俺は負けずに努力を続けていた。
そんな俺は今、菜園に来ている。
菜園には色々な種類の薬草が増え、場所を拡張した。
増えたものは、
《魔癒草》:魔力回復、体力回復
《万能草》:状態異常回復
《ハイパー草》:疲労回復、体力回復
《イポズンリーフ》:毒状態付与
《ラパライズリーフ》:麻痺状態付与
《スプーリーフ》:睡眠状態付与
このように効果を組み合わせたものと、新たな効果をもつ薬草を錬成した。
そしてポーションを保管できるように、菜園の横に小さな木造の家を建築した。
家の中にある棚にはポーションが置かれている。
ポーションの容器になる小瓶だが、どうしても錬成が追いつかなくなった。
そこで俺は複製を利用することにした。
複製は同じものを組成し、魔力で再現する錬金術だ。
だが、全く同じというわけではなく、複製した物の品質は低下する。
小瓶ぐらいなら品質が落ちても構わないため、複製で大量生産をしている。
だが、ポーションの味を良くし、よく自分で飲むようになったため、保管されている数は少ない。
もう少し薬草の成長を早め、ポーションを多く錬成出来るようにしたいところだ。
そこで俺は、菜園の環境を更に良くするために領地へ赴いた。
農作業をしていた20代後半ぐらいの男性に声をかける。
「農作業をしているところ申し訳ないのですが、少しお時間よろしいでしょうか」
「大丈夫ですよ、ケミスト様」
「助かります」
領民は、俺が落ちこぼれだということを知らないため、普通に接してくれている。
中には知っている者もいるかもしれないが、貴族と平民では無属性魔法に対する認識が違う。
優秀な遺伝子を受け継いだ貴族には、属性魔法しか適性を持たない者が少ないだけで、平民には割といる。
だから変わらず接してくれるだろう。
「実は農作業に使っている肥料を頂きたいのですが」
「そういうことでしたか。良いですよ」
「本当ですか!?」
「ははは、肥料ぐらいでそんなに喜んで頂けるならいくらでも差し上げますよ」
「ありがとうございます。お礼に粗末な物ですが、受け取ってください」
俺はポーションを3個取り出した。
効果は疲労回復。
「何です? これは」
「ポーションです」
「ポ、ポーション!? そんな物貰っちゃっていいんですか!?」
あ、しまった。
質の悪い薬草で作った疲労回復のポーションだから要らないな、と思って持ってきたのだが、ポーションって割と貴重品だった。
錬金術を始めてから少し感覚が麻痺しているかもしれない。
「ええっと……大量に余っているので、そちらがよろしければ是非。疲労回復の効果があるので、農作業の助けになれば幸いです」
「……ケミスト様、あんためちゃくちゃ良い子だなぁ。ウチの領主は性格が悪いとばかり思ってたが、捨てたものじゃ──あっ、すみません! 今言ったことは忘れてください!」
ふむ、どうやら父上の評判は領民の間で悪いようだ。
「大丈夫ですよ。父上には何があっても言いません安心してください」
「すみません……。で、でもちゃんとこの領地で満足していますよ!」
「そう言ってくれると僕も嬉しいです」
「ははは……。あ、こちらが肥料になります」
男性は麻袋に肥料を入れて渡してくれた。
「ありがとうございます」
「……それと本当にポーションを貰っちゃっても良いんですかね?」
「はい。本当、気持ちだけなので」
男性は少し警戒しながらもポーションを受け取ってくれた。
確かに、俺も受け取った本人なら、うまい話すぎて裏があるのか疑っちゃいそうだ。
でも、本当にそんなものはなく、感謝の気持ちとしてあげただけなので安心してほしい。
肥料を手に入れ、菜園に戻ってきた俺は早速錬金術に取りかかる。
対象は、もちろん貰ってきた肥料だ。
目指す効果は、品質・成長速度の上昇。
薬草の成長を促進させる成分は、ナトリウム、ケイ素、セレン、コバルト、アルミニウム、バナジウム。
それらの成分を濃縮させる。
そして薬草の品質上げるには、魔力密度が重要になってくるため、肥料に魔力を帯びさせる。
魔力水と併用することで品質は更に上がってくれるはずだ。
「よし、完成だ」
菜園の薬草を全て収穫し、種を植え、肥料をまいた。
これで翌日どこまで育っているかを見る。
どうなるのか楽しみだ。
◇
翌日、菜園に行ってみると、植えた薬草が全て収穫可能状態まで成長していた。
「良い具合に機能しているようだな。どれどれ──うん、品質もちゃんと上がっているな」
これでポーションの錬成量が増えるぞ。
売りに出せば一儲け、いや巨額の富を築けるかもしれない。
「ま、それは後だな」
まずは持ち運びを便利にするために、ある道具を作るのが先決だ。
小型でとてつもない容量を誇る、あのアイテムは錬金術師にとって欠かせない。
しかし素材が足りない。
上質な魔物の皮が必要だ。
「魔物の討伐、か。それも低級な魔物ではなく、Aランクに指定されるような魔物を倒さなくては」
たしか、この領地の東に《火竜の谷》と呼ばれる竜種が住まう谷がある。
今の魔力量ならAランクの竜相手でも何とか戦えるはずだ。
あくまでもそれは俺が何も準備をせず、無防備な状態のときの話だが。
錬金術師の戦闘は、始まった瞬間にもう決着がつく。
それぐらい準備が必要な職業なのだ。
「ふっ、Aランクの火竜程度、赤子の手をひねるようなものだ」
そう言い切ってしまうぐらいの秘策が俺にはあった。
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