第34話 小林、神様と会う その2

 持ち時間は一分もある。

 私は手元にある手帳のダジャレを次々と読んでいった。もう、早口言葉を次々と言っていくように高速で。

 力が貰えるなら、多く貰った方が良いに決まっている。


「え! ちょ、ちょっと待った待った! 小林さん!」


 が、三十秒くらい経過したところで神様が私のダジャレの朗読を急に止めた。


「な、何でしょうか?」


 ルール違反なんかしてないだろ。悦に浸ってたのに、神様でも止めて良い権利はないはずだ。


「いや、今までにこんなダジャレをいっぱい言った人、初めてだよ。だからビックリしちゃって。すいません」

「え? そうなんですか?」

「普通、みんな、悩んで。多くて五個か六個くらいだよ。アナタ、そこに何個、書いてるのよ!」

「何個って、もう数えられないほど、ビッシリです」


 私は神様にネタ帳を見せた。

 あまりにも小さい字でびっちりとダジャレが埋まっている様に、さすがの神様も「写経! 写経!」と驚きの声をあげた。しかも、全部、つまらない。


「ひゃー、驚いた。アナタ、そんなにダジャレを書いてたんだ」

「これと同じ手帳がまだ家に五十冊ほどありますが」

「ご、50冊!」


 それから急遽、「その手帳見せてよ」と神様が言うもんだから。

 私と神様は夢の中の私の自宅へと向かい、私が書斎の引き出しに隠してあるダジャレ手帳を神様に見せた。夢だと言うのに、家の形から机の中まで細かく完璧に作られている事に私は驚いた。


「いやあ、驚いた。本当に五十冊以上あるよ」


 神様はそれ以上に、私のダジャレの日々の積み重ねを見て驚いていらした。毎日、コツコツやっていたら知らない間に遠くまで行っていた。それが名人ってものだ。


「よし! 決めた!」

「は?」

「アナタには特別にこの五十冊に書いたダジャレ、全物使わせてあげる!」

「ええええ! これ全部ですか!」

「いや、こんな大量にダジャレを考えてくれてるなんて、普通いないですからね。日頃の感謝を込めて、特別っすよ! それにストップウォッチを俺が止めちゃって悪いし」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫。このずば抜けた力で、もう、小林さんがオヤジギャんグの神様になっちゃってよ。期待してますよ」

「オヤジギャんグ?」


 何やら良くわからないが、私は神様からダジャレを具現化する能力を授かった。しかもノートにびっちり五十冊だから、多分、数万個のダジャレだ。


 てか、オヤジギャんグってなんだ?


「じゃあ、これからオヤジギャんグのルールを説明するよ」


 神様はそれからオヤジギャんグという遊びとスポーツの合いの子みたいなオッサン向けゲームのルールを説明した。

 だが、どうせ夢だし、あまりやる気のない私は、ボーッと右から左に聞き流していた。こんなの真面目に聞く人はいるのだろうか?


「じゃあ、ルールの方はわかった?」

「え! ああ、はい」

「もう、暇してる世のオヤジさん達が胸躍る遊びを考えたからさ! 小林さんも頑張ってよ! そんだけずば抜けた能力持ってるんだから、もしかしたら日本のオヤジの頂点に立てるかもよ!」


 私は苦笑いを浮かべて、テンションが上っている神様のノリに付き合った。

 神様には悪いが、そんな物、なりたくもない。


「でも、本当に使えるんですか? ダジャレ」


 私は夢の中なのに、無意味な質問をしてしまった。そんなの使えるはずがないだろうに……


「じゃあ、試しにそこの布団をダジャレで動かしてみなよ。布団が吹っ飛んだ。って」


 ベタなダジャレ。

 まぁ、最初の頃のダジャレにはそんなベタなのが多かった気がする。年を重ねるにつれて、私もダジャレの真髄に目覚め、そんなベタなヤツは言わなくなったけど。


「では……失礼して」


 私はどうせ夢なのに、右手を布団にかざして、呪文を唱えるように大声で叫んだ。


「布団が吹っ飛んだ!」


 その瞬間、布団が浮き上がり、壁にドシーンという音をたてて吹っ飛んで行った。

 その大きな音にビックリした拍子に、私は目を覚ました。









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オヤジギャんグ ポテろんぐ @gahatan

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