第19話 虚無的なイデオロギー
まず、諸君に伝えなければならぬことがある。
諸君に対する賞賛だ。
国民として、諸君が生きてくれていることに、皇帝として、私は最大の感謝と敬意を表す。
諸君は、生きているだけで、我が寵愛を受けるに値する特別な存在であるからだ。
我が高祖がこの大帝国を築き上げ、幾星霜、帝国もずいぶんと成長した。
人を寄せ付けぬ北の霊峰をはじめ、肥沃なる南の密林、そして大陸を貫く大草原の果てまでも、今や我々の手中にある。
帝国は、古来より誰もが手にすることのなかった強大な一つの家となったのだ。
かつて北の海を支配した漁夫も、草原で馬を駆る遊牧民も、森に暮らす亜人でさえ、今や帝国という一つの血族、同胞である。
それを為し得たもの、それは過去との決別である。
100年前、我々の祖先は、大きな痛みと引き換えに今の「平和」を手にしたのだ!
しかし、100年を経て、我が父ディオは、人々に麻酔薬を与えた。「過去」という甘い薬だ。
過去の王が諸君を救うか?
過去の暮らしが諸君を満たすか?
否。過去は現在の解決となることはない。
痛みを抑えたとしても、傷は傷のままである。
父はそれに気が付かなかった。
結果、帝国は4つに割れ、各地で「過去」に囚われた者たちの事件がいくつか出てきている。
私はそれらを否定しない。
人が人として生きる中で、過去に縋りたくなる気持ちを十分に理解できるからだ。
しかし、諸君。親愛なる帝国民諸君。
諸君の目が前に着いているのは何故だ?
未来を見る為だ!人は常に前進する生物だからだ。
過去は過去のままである。
振り向いてはならぬ。過去に斃れた数多の死骸、それらが築いた今に立つのが我々だ。
で、あるならば、我々の未来とは何か。
平和と博愛に満ちた一つの世界である。他者が手を取り合う世界である。
帝国には、もはや、アモルも、ノヴも、アイシャも、バルパも存在しない。
一つの「帝国」として、我々は再び!固く手を取り合わねばならない!
そして、この平和を大陸全土に伝導する責務がある!
諸君!親愛なる帝国民諸君!
我が帝国軍はこれより西方へと、平和の為の歩みを進める!
赴くのは十万の強兵だ。
しかし、団結した騎士の軍勢が、単純な数以上の力を発揮することを私は知っている!
痛みを伴わずして成長は望めない!全ては平和と博愛の世を広める為である!
親愛なる帝国民諸君!
偉大なる帝国の未来の為に、力を貸してくれ給え!
~帝都にて 皇帝イシュによる
ばくぼく! 日曜日夕 @elizabeta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ばくぼく!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます