5日目・執行猶予30分間

「残念だったな、トンスケ……しかし、《念仏鐘》。只今の実地試験運用をもって、武器特許登録を正式に完了した。これで王国の歴史にトンスケ、お前の名がまた一つ刻まれた」

「ヤマモトさん……奴隷販売会の日には有給とって夜明け前から並んで、絶対に買ってあげますウサ!」


 特許庁の人や、御主人様(予定)の声が心に沁みるなぁ。


 そんな2人を後目しりめに僕を引っ立てた衛兵さんは、僕の隣でゴフゴフと音を漏らす鉄塊を見て首を傾げていた。


「しかし、この……鐘? これは武器か? こんな物、見たことがないが」

「はい、これは僕の作ったオリジナル武器です……」

「こんなものを5日で造ったのか? それはそれで凄い技術だな」


 何を言っているんだろう、この人は。今度は僕が首を傾げた。


「5日? いえ、一晩です」


 こんな糞武器作るのに5日もかけてたら、流石に作ってる途中で気付くでしょ。


 これ糞武器だよって。


「は? 俺だって鍛冶に詳しい訳じゃないが、これだけの物が一晩で造れるものか?」

「いえ、企画やら設計やらで時間がかかりましたけど、形にするのは装飾含めて15分くらいですし」

「は?」

「何だと?」

「ウサッ!?」


 衛兵さんの質問に答えた僕の言葉に、何故か困惑する3人。


 んん?


 僕はそのリアクションに、逆に戸惑ってしまう。


「言われてみれば、個人がこのペースで武器を造り続けるのは、確かにおかしい……」

「そういえばヤマモトさん、毎日ぜんぜん違う武器使ってたウサ……!」


 えええ。今更何を。


 そりゃ、元の世界でそんなことを言われたら、僕も何言ってんだこいつ、って思うけど。


 でも、ここはでしょ。


 僕は《念仏鐘》を片手で掴み、、と摘まみ上げた。


「こう、《金術》魔法で大雑把に形を整えてですね」


 と実演を始めた所で、


「ちょっと待てトンスケ・ヤマモト! 貴様《金術》使いなのか!? なら冒険者ギルドの試験なんか一発合格だろう!」


 唾を飛ばして叫ぶ衛兵さん。


 そして、顔中に疑問符を浮かべて固まる御主人様(予定)と特許庁の人。


 ああ、そうか。僕が《金術》の魔法を使えるって話は、仮登録申請の時とかにも伝えてなかったもんな。


 最初に魔法が使えることに気付いた時にはちょっと興奮したけど、この国の特許法の話を聞いた時点で、このの活用は諦めてたし。


「一応金属を操る魔法は使えるんですけど、お金が無くて武器の特許使用料が払えないんで、冒険者やるには意味がないんですよ」

「は?」

「槍系の武器とか、刃物系の武器とか、礫系の武器とか、どんな形にしても特許に抵触しちゃうんで。これで攻撃すると金貨10枚くらい徴収されるんですよね……」

「はあ?」


 僕の説明に、今度は衛兵さんが固まってしまった。


 入れ替わるように特許庁の人が再起動する。


「……トンスケ。すまん」


 そして、神妙な顔でそう言った。


「いえ、あれだけ良くしていただいて、結局ギルドの試験に通ることもできず……」

「そうではない。すまん、私の確認不足だった」


 んんん?


「? 何がです」

「それだけの魔法が使えるなら、武器に頼らずとも、その魔法で普通にゴブリンを殺せば良かったんだ」

「でも、鉄塊のままでぶつけても《鉄塊礫》の特許に抵触しますよね?」


 聞き返す僕に、特許庁の人はこう告げた。


「魔法攻撃に武器特許は関係ないんだ。例えば、《水術》や《土術》と同様、《金術》で《剣》の形を作って攻撃しても、武器特許の使用料を支払う必要はない。武器ではなく、魔法攻撃だからな」


 んん。


 んんんん?


「すみませんウサ、私も確認不足だったウサ……その《金術》魔法で直接、鉄を操り、ゴブリンを殺せたら、ギルドの試験は合格になりますウサ……」


 蒼白になった御主人様(予定)、もとい受付嬢の人の言葉を聞いて。


 僕は。


 《念仏鐘》を液状に戻し。


 空中で分厚い鉄板の形に固めて。


 疲労困憊の中、突如明るくなった視界に混乱しているゴブリンを、全力で叩き潰した。






 滑り込みでギリギリ冒険者登録を完了した僕は、その後、冒険者としてそれなりの活動を続けた。


 受付嬢の人とは主人と奴隷ではなく、受付嬢と冒険者として、普通に仲良くさせてもらっているけれど、特許庁の人は人事異動でギルドからいなくなってしまった。

 今ではたまに市場や酒場で会って、挨拶をする程度だ。


 元の世界に変える方法は、それほど真面目に探しているわけでもないので、まだ見つかっていない。


 あの執行猶予5日間の中で僕の作った5種の武器は、この国での特許使用料が不要な武器として、それなりに知られることとなる。

 

 あんな武器でも、適した使い手が、ハマる相手に使えば使えるんだ。


 《鎖鎌オブナインテイル》は剛腕の狂戦士が振るえば、魔物の群れを容易く蹴散らす。


 《ドリル鞭》は多少の改良を加え、爆弾亀とかいう、硬くて気軽に爆発する魔物に有効とされるらしい。


 《殺人トンボ》は特許庁の人も言っていたように、植物系の魔物に効果的だ。


 《エレクトリック・ツインファング》は一部の魔法耐性のある機械式のゴーレムに使えると聞いた。


 《念仏鐘》は僧職の人が使えばアンデッドの捕獲や浄化に役立つそうだ。


 これらの武器は、材料費と人件費だけで購入できる分、資金に余裕のない駆け出し冒険者にとって、とりあえず選択肢に挙げられる程度の知名度を持つようになった。

 まあ、いくら売れても僕には銅貨1枚も入ってこないわけだけど。



 僕の戦闘スタイルは、基本的に魔法を使った全距離型オールレンジだけど、時には武器を使うこともある。


 そんな時はどうしても、手にした武器を振るいつつ、あの5日間のことを思い出すのだ。


「やっぱり《剣》ってめちゃめちゃ使いやすいわ」


 なんて、当たり前のことを思いながら。







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※ 後記 ※

これにて本作は完結となります。

短編サイズの分量とはなりましたが、ご愛読ありがとうございました。

★評価をいただけたり、他作品をお読みいただけたりすると、とても嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/users/Ponderingrove/works

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屑鉄生産工房 ~武器特許権に縛られた異世界でオリジナル武器を作る~ ポンデ林 順三郎 @Ponderingrove

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