11-4
あのあと僕は、急いで部屋に帰り
時計の裏蓋をこじ開けてみようか・・・いや、でもさすがに素人がそんなことをするのは・・・ってあれ・・・?
時計の側面部分を見ていたときにあることに気が付いた。これまでただのギザギザの模様が文字盤の側面をぐるっと囲っているのだと思っていたのだが、よく見るとそれは数字の羅列だったのだ。
『35.676322, 139.744993』
時計の側面にはそう書かれていた。
この数字はなんだ?円周率?いや、さすがに違うか・・・。
僕は涼平と佐藤さんとの3人のグループメッセージで聞いてみることにした。
『2人とも、これ何の数字がわかる?』
––––ブーッブーッブーッブーッ
「えっ・・・」
メッセージを送った直後、なんと佐藤さんから電話がかかってきた。
「もしもし・・・?」
『水野、あんた、今日の今日でよくあんな普通の感じのメッセージできるよね』
「えっ・・・あ・・・」
すっかり忘れていたが、今日佐藤さんの話を聞いたばかりだった。柳さんと話したことで頭が完全にそっちに持っていかれていた。
『えっじゃないでしょ?』
「ごめん・・・つい・・・」
『はあ・・・いいよもう。あたしもそういうあんただからあんな話できたんだし』
「そうなの?」
『うん、じゃあ、それだけだから』
「えっ?」
『この話はおわり』
「あ、うん」
そのまま電話は切れてしまった。佐藤さんは嵐のようだった。
***
涼平『陸久、この数字どうしたの?』
陸久『話すと長くなるから省くけど、たぶんこれが櫻木さんの手掛かりになりそうなんだよね』
涼平『まじか!』
陸久『うん、でも全然意味が分からなくて・・・』
涼平『うーん、たしかに語呂合わせとかでもなさそうだしなあ・・・』
翔子『あんたたち馬鹿なの?』
涼平『ほんとに翔子は口が悪いなあ。わかったなら素直に教えてよ』
翔子『この程度のこともわからないようだから馬鹿って言ってんの。これ、どう見たって緯度と経度を表してるじゃん』
陸久『緯度と経度?』
涼平『お、なんかそれ昔習ったな!』
翔子『まったく・・・。緯度と経度っていうのは、簡単に言うとある地点を表すのに使われる数値のこと』
涼平『お、さすが地理選択!』
陸久『ってことはこれが表す場所って』
翔子『たぶん
涼平『まじか!』
陸久『こんなことって・・・』
涼平『陸久、翔子の言う通りだよ。場所調べたらそれっぽいところが出た。マップ送るよ』
陸久『ありがとう涼平。佐藤さんも、お陰で助かったよ。あとはなんとかする』
翔子『ちょっと、1人でやるつもり?』
陸久『えっ?』
涼平『そうだぞ、陸久。抜け駆けするなよ』
陸久『抜け駆けって・・・』
翔子『あたしたちにも手伝わせなさいよ。小鞠はあたしたち全員にとって大切な存在なんだから』
陸久『2人とも・・・ありがとう』
涼平『じゃあ明日決行な!』
陸久『えっ、何を』
涼平『櫻木家に乗り込むんだろ?』
翔子『ちょっと、無計画すぎるでしょ!作戦たてないと。それに明日は授業だってあるのに』
涼平『作戦なんて無意味だって。そのときの勢いが大事だよ。それに授業の遅れは後でも取り返せるけど櫻木さんはもう取り返せなくなるかもしれない。そうだろ?』
陸久『僕も、早いほうがいいと思う・・・明日行こう』
翔子『ほんとに、これだから男子は』
涼平『いやいや翔子、男子で一括りにするなよー』
翔子『もうわかった・・・明日行く。授業もサボる。それでOK?』
涼平『お、翔子の口から授業サボる発言は貴重だなー』
翔子『もう、うるさい!じゃあ明日は小鞠の家の最寄り駅集合でいい?3人で集まっていくより効率的だし』
涼平『効率的ね。わかった。じゃあ明日9時に集合で』
陸久『2人とも、本当にありがとう』
翔子『別にあんたのためじゃなくて、あたしは自分がしたいことをしてるだけなんだから。勘違いしないでよね』
陸久『うん・・・じゃあ、また明日』
***
その夜、僕は眠りにつくことができなかった。明日のことを考えると心臓が激しく脈打つ。櫻木さんの家に乗り込むとは言ったが、そもそも乗り込んだところで家の中に入れてもらえるんだろうか。もしも入れてもらえなかったら?櫻木さんに会うことができなかったら?僕たちが乗り込んだことでますます櫻木さんの立場が悪くなってしまったら?
僕は何度寝返りを打っても落ち着くことができず、気が付けば窓の外がぼんやりと明るくなってきていた。
決戦の朝がやってきた。
お嬢様は家出中 ゆありん @rurumaruruma
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