RT企画・お題「お酒・クリップ・柿の種」より。
柿の種と、近所で買った安酒。ビニール袋を鳴らしながら、浮ついた気分で自宅に帰る。なんせ明日は日曜日。誰がなんと言おうと、今晩あたしは飲んで飲んで飲みまくってやる。柿の種はピーナッツを先に食べてから柿の種の方(?)を食べるのがあたしのやり方だ。
「ただいま帰りましたー!」
「おう、えらい遅かったなあ」
「エッ」
どさっとビニール袋を玄関に落とした。何故なら、あたしの家の中に、あいつが居るから。
その男はあたしよりも落としたビニール袋を気にかけ、どたばたと近づいてきてはそれを取り上げる。中身を心配し、ちろりとあたしに視線を移した。
「あかんわ、缶ビール凹んでしもてる」
「は〜? あんたの方が"あかん"だよ"あかん"! なんで居るのよ!」
「ご機嫌ななめかいな、寿命縮んでまうで」
「答えろっつーのっ!」
あたしが憤慨しても、こいつは全く動じない。あははと呑気に笑って、右手で顎を撫でた。無駄に綺麗な顔なのがまたムカつく。
「そら、久々にこっち来たんやし。ちょっくら君の顔見たろと思って」
「だってあんた、鍵持ってないんじゃ」
「普通に開いてたで」
「まじか」
あたし疲れてるんだな……。
口を半開きにして唖然とするあたしを置いて、ビニール袋を持ったままあいつは手を叩く。
「んなことより! 旧友との再会やろ〜? 酒盛りしようや! なあ!?」
「あたしの酒とつまみでかいな」
態度だけは社長級。どうせ今日はここに泊まる気だろう。仕方ないと割り切って、一旦あたしは荷物を置きに自室へ向かう。その後洗面所で化粧を落とし、ラフな恰好に着替えた。女っ気のないそれに、あいつは予想通りの返しをする。
「流石、モテる女はちゃいますなあ」
「嫌味を言うなこれがあたしだ」
せやな、とケタケタ笑ったそいつは、徐にテレビを付けた。最新の文房具を紹介する番組が、淡々と流れている。カラフルなだけのクリップに、女タレントが「可愛いですね」とありがちな感想を吐くのを観た。
早速缶ビールを開け、二人で小さく乾杯をした。喉を鳴らして酒を胃に送ると、すぐに冷えていた身体が温まってくる。あたしは安酒で十分なクチだ。
「クリップなんて普通に百均のでよくない? なんで可愛さが必要なん」
「それがわかってへんから女っ気がないんやと思う」
「ほざけ阿呆」
当たり障りのない会話を選んだらこれだ。せっかく酒を恵んでいるというのに。
すると、今度はあいつの方から唇を割った。少し酔いが回っているのか、滑舌はよくない。
「お前、コレはおらんの?」
「コレって何」
「コレっちゅーたら一つしか無いやんけ。恋人♡」
「♡付けんなや気持ち悪い」
へっへーと笑ってくるあいつには殺意しか沸かない。ふん、と鼻を鳴らしてテレビの方を向けば、缶に口を付けながら呟く。
「別に男なんて欲しくないもん」
「嘘付け〜。中学時代にあんなに叫んどったやん。誰でもええから付き合いたいとかなんとか」
「そんなんただの黒歴史や……言わんといて……」
あたしもだいぶ酔ってきた。身体が火照る。三本目の缶ビールを一気に飲み干して、机にうつ伏せた。もう眠い。
「なんや寝るんか」
「飲み終わったら部屋の電気消して……ベッドはあっちの部屋……」
「あっち言いながら天井指すなや、空中浮遊して寝てまう」
その言葉を皮切りに、あたしの意識はここで途絶えた。
○
翌朝になると、頭痛が酷い。
ガンガンと鳴り響く何かに必死に耐えつつ、玄関であいつを見送る。靴のつま先をとんとんと鳴らして履くのは、今も昔も変わらないみたいだ。
「次はいつ来るん」
「んー、再来月にこっちに用事できそう。また寄るわ」
わかった、とおざなりに頷くあたしを見て、そいつはちょっと黙り込む。いきなり真顔になるものだからびっくりしていると、今度はニコーッと笑みを浮かべた。
「ほな、108本バラ抱えて来たる」
だから待ちや。とあいつは言って、帰って行った。
最後のアレは、よくわからないボケだった。
【短編集】恋と愛の色んなお話。 小鳩 @kobato_poppo
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