告白
翌日。
私は、呼び出されて屋上にいた――学校の。
拓人。
「どうしたの――」
「オレも思ってた。助けてあげたいって――」
「……それって、もしかして美智子ちゃんのこと……」
「うん……」
我慢強く待っていた。私、拓人が何を言うのかを。
これ見て、と拓人が差し出したスマホ。
古い、受信日付が三年前だ。
あられもないショートメールが並んでた。
『どうしよう。おっぱいがはれてきた』
『むねのところがごろごろして、いたい。病気かな』
『したぎ、まっ茶色。これって、何? こわいよ拓人』
『ボクはどうして女なのかな』
小学生の告白文に、胸が悪くなった。
見たくもないものばかりだった。
ううん、自分が体験してきたものばかり。随分と前のを除けば。
「これ、最近のになると、どうして自分は男なんだろう、に変わる」
私は差出人の名前を確かめた。
川辺美智子――とある。
(どうして自分は、男なんだろうって?)
「オレたち、オレとミッちゃんは、幼馴染だったんだ」
「そうだったんだ……」
「かわいそうに――悩んでた。どうして自分は女になれないのかって……」
「え? ちょっと待って。美智子ちゃんは女の子でしょ。ちゃんと……」
「オレも見た。女だった。昔から――」
「じゃあ……」
「こういうの、なんていうんだろう。大人は思春期の迷いだとか、言うのかな。だけど、ミッちゃんは……オレも、真剣だった」
私は、はっと思い当たる言葉があった。
「トランスジェンダー、とかいう……」
拓人はうなずいた。
「今はそういうよね。残念ながら、オレたちが小学生の頃は知られていなかった。ミッちゃん、そのへんのこと、調べたらしいんだよ。このまま大人になったら、どうなるのか、とか」
大人になったら、なんて。
「彼女はもう、大人になれないんだね……」
「そうだね。もう、オレも、どうやったら男が女になれるのか、なんて、考えなくて済むわけだ」
「……拓人」
「ん……」
「あのね……」
「うん……」
「拓人は、どっちなの」
「……どう見える。セーコの目には」
私は目をつぶった。
かたくかたく、ぎゅうっと。
涙がにじむくらいに。
考えようとしても、考えられない。
確かなことなんてわからない。
でも――。
「愛しい人に、見えるよ――」
目を開いたら、拓人は風に吹かれて泣いていた。
「オレ、馬鹿だな……なんで、そう……なんで、セーコみたいに……言ってやれなかったんだろう」
私はメイクのはげた拓人の顔を、抱きしめた。
今、今――泣きじゃくる拓人の熱を感じて、胸の奥がキュウっと苦しくなった。
「オレ、オレ。馬鹿だから、言っちゃったんだ。ミッちゃんに……おまえは女に生まれて、すっげえ得してんだぞって。女だから周りに大事にしてもらえるんだって……そんなの、ミッちゃんは……望んでなんか……っ」
拓人はわっと叫んで。
死んでしまいたいと――死んで彼女にわびたい、とさえ言った。
私は、他に言葉も見つからなくて。
で、拓人の長い髪をかきやりながら、そっと言った。
「外は寒いね。中、入ろ……」
「セーコ……セーコォォ……!」
「ねえ、拓人……ミッちゃんは、好きな人が、いたのかな――」
「……っく、う……?」
「好きな人がいたから、自分の性別について、真剣に悩んだんじゃないのかな」
「……ごめん、それだけは言えない」
「どうして。……好きよ、タッくん」
私は再び告白した。
拓人は、ぎゅうっと私を抱きしめてそっとキスした。
「セーコはわたさねぇ。だれにも、死んでも……わたさねぇ!」
そう、真剣に言ってくれた。――ありがと。
キュン死したわ――。
END
ビターガール~キュン死したいのに、彼氏が萌え系美少女男の娘でキュンキュンできない件~ れなれな(水木レナ) @rena-rena
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