エピローグ
「……ここ、は」
目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。
白い天井に白いカーテン、白い白熱電球……もしかして病室かしら?
そっと上体を起こしてまず視界に入るのは自身の腕に巻かれた包帯と、そこから伸びる点滴の管……本当に病室みたいね。
「あれ、なんでこんな所に……」
頭が痛くならない様に慎重に記憶を探っていく。
確か、私は魔境でクレルと再会して……彼と一緒にそこから脱出するべく管理人の出した課題として魔人の卵を倒して……それから──
「……それから、
なんとなく、なんとなく仄かに温かい気がする彼から貰った左腕を、同じく貰った胸に押し付けながら握り込む。
私には魔力なんて上手く感じ取る事は無理だけれど、そこに確かにクレルが居るような気がして……彼を探し出そうとして焦って切羽詰まった私は、もう何処にも居なかった。
「──あっ! アリシア准尉殿が目覚めているでありますよ!」
「シーラ少尉?」
大きな声に振り返ってみれば、久しぶりに会った様な気がするシーラ少尉に……後ろにはガイウス中尉にヴェロニカ大尉も居るわね。
とするとここは病院の一室というよりも、バルバトス本部の病室かしら。
「うおっー! やっと目覚めたでありますかぁー! 心配したでありますよぉー!」
「そ、それは心配を掛けたわね……」
「そうですよー! 私が居ればゴミ共を駆逐できたと言うのにー!」
……シーラ少尉は相変わらずね。
「アリシア」
「なんでしょうか?」
シーラ少尉の頭をポンポン撫でて窘めていると、ガイウス中尉から声を掛けられる。
その重々しい雰囲気に、何か大事な話でもあるのだろうかと佇まいを直す。
「お前は今日から准尉から少尉へと昇進する事が確定した」
「……へっ?」
「休暇中であるにも関わらず、被害を最小限に抑えようとした事と、きちんと本部へと連絡を取った事が評価されたのが一つ」
「えっ、えっ?」
突然の状況に頭がついていけない……私はまだ寝起きで、上手く働かないというのもありそうではあるけれど……いや、これは仕方ないと思う。
いきなり昇進と言われても喜びよりも困惑と驚きの方が強い。
「そして、お前が『徒花のフレイア』の殺害と『魔境』から単身での帰還を成し遂げた実力から異例の早さでの少尉昇格となった……正式な辞令は後日となる」
「……り、了解です」
なるほど、お婆ちゃんの遺体もちゃんと無事だったのね……いや、バルバトスに確保されたなら無事とは言い難いか。
「やったぁ! 同じ少尉ですよ、アリシア殿!」
「いっ!」
「コラっ! アリシアはまだ完治してないんだ、このバカタレ!」
「ヴェロニカ痛いであります!」
そ、そういえば私ってば自分の能力のせいで全身火傷になってるんだった……クレルが癒してくれて、バルバトスでも治療を受けたといってもまだ完治してる訳ないわよね。
特に対価として奪われてしまった皮膚もあっただろうし。
「全く……馬鹿がすまんな」
「いえいえ、慣れてますので」
シーラ少尉は廊下ですれ違う度に抱き着いて来るから、もう慣れちゃったのよね。
「……髪、後で切ってやろう」
「あっ……その、ありがとうございます……」
痛ましい目でヴェロニカ大尉が見つめる先には、焼け焦げた私の髪が流れている。
あれだけの超高音の炎を自ら発生させたくせに、自分もダメージを食らうなんてまだまだ未熟な証拠だと、師匠が居たら言われそうね。
せっかくクレルに『綺麗だ』って言って貰えるように伸ばした髪だったけれど、これでは仕方ない。
「お前の上司なのに助けてやれなくてすまなかった……それと、お前の友人はちゃんと保護してあるから安心してくれ」
「いえいえそんな……彼女達が無事ならそれで良いですよ」
あれから無事だろうとは思っていても安否が分からなかったリーゼリット達も保護されたみたいでほっと息を吐く。
これで全てとは言えないまでも、大部分の懸念事項が解決されたかも知れない。
「まだ本調子ではないだろう、今日はこれでお暇するとしよう」
「また来る……髪はその時に切ってやろう」
「あ〜、お揃いになったアリシア殿〜!」
ヴェロニカ大尉に引き摺られて行くシーラ少尉に苦笑しながら彼らを見送る……本当に心配されてたんだなって、今さらながらに気付く。
リーゼリットだって居るし、組織云々以前にクレルと逃げるなんて無理な話だったわね。
「……リーシャ、だったかしら」
クレルにも大事な人が居るみたいだしね……女性だというのが少し気に食わないけれど。
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サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜 たけのこ @h120521
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