第57話 アイドルデビュー

 Chroma-Keyは5人のメンバーがようやく揃って、それから約半年ちょっとの月日が経っていた。


 緑間拓海が無事に前事務所からアイオニス事務所に移籍が完了して、三喜田社長が当初から予定していた5人組となってChroma-Keyというグループはデビューする。それまでに色々な問題があったものの、ようやくアイドルとしてデビューをする日がやってきた、というわけだ。




 デビュー発表と共に、初のライブイベントも開催するという告知が行われていた。そのために、初ライブが目前に迫っているという状況。


 だがしかし、ここに来てアビリティズ事務所の社長である金森が再び三喜田社長の邪魔立てをして、ライブの成功を妨害してきた。


 彼は、メディア各所にお得意の根回しをしてChroma-Keyのデビューと初ライブが開催されるという情報を一切流さないようにと各所へ要請した。その結果、テレビやラジオ、雑誌などでChroma-Keyの名が話題に出てくることはなかった。そんな事を出来てしまう権力が、金森にはあった。


 これでは、世間の人たちに初ライブを行う事を知らせられない。ライブには、ごく一部のお客さんが来ない。とても会場を埋められないから初ライブは失敗に終わってしまうかも、と俺たちは危惧していた。


 しかし結果は、何の問題もなくChroma-Keyデビューのライブチケットは即日完売していた。


 それは何故か。


 実は、今までの下積み時代で密かにファンの数を増やしていたらしい、俺と剛輝。俳優としての活躍があって、元々から多くのファンが居る拓海。


 テレビや雑誌などのメディアとは関係の薄いインターネットを駆使して独自に動き宣伝活動を行って、自力でお客さんを集めてみせた舞黒。


 龍二も、財閥の御曹司として持っている独自の関係から広めていった情報により、それを聞いた彼の家に関係する企業グループや取引先の関係者というような、社会人のお客さんも沢山やって来ていた。


 そんな熱いファンがチケットを買ってくれて、特に事前の宣伝も必要ないくらいに支障がなかった。ライブ会場の席は、ちゃんと埋まった。


 新しい事務所の新しいアイドル。そんなアイドルがデビューをして、初ライブだというのに既に多くの人達が俺たちの事を知ってくれていて、テレビや雑誌などで情報を告知できなくても、チケットは完売。


 わざわざメディアで事前に宣伝していないのに、初ライブとしては前例がない程にチケットが売れてしまうという結果になっていた。


 多くのファンの期待に応えるため全力を注ぎ、ライブを成功させないといけない。俺達は、より一層の気合を込めてライブの準備を進めた。



***



 今日ようやく、初ライブ本番の日。ステージ裏で待機中の俺たち5人。既に衣装に着替えて、開始の時間が来ればステージに出ていくという直前。


 学生生活を送りながらライブの準備を進めるのは、本当に大変だった。けれども、俺達は全身全霊を注いで準備してきた。その結果が今日、ファンの皆に披露できる。


 今まではバックダンサーとしてライブを盛り上げる役として頑張っていたけれど、今日はステージの中央に立って主役として活躍する。久々に勇み立つと言うべきか、気持ちが高ぶる場所で働けると俺は気合い充分だった。最終決戦を迎える直前、俺が勇者だった頃の気持ちを思い出す。


 他の仲間4人、剛輝たちは緊張した面持ちで立っているのもやっとだというような感じであり、大丈夫だろうかと心配になってくる。


「大丈夫か、皆?」


 思わずそのまま、剛輝に大丈夫かと問いかけてしまう。思わず言ってしまうほど、彼は顔を青くさせていた。焦点も合っていない視線に、不安げな表情。本当に、彼は大丈夫なのだろうか。


「あ、ああ。うん、だ、大丈夫やで」


 珍しいことに剛輝が緊張していた。とても危なっかしかった。今まで一緒に何度もステージには出ているし、経験も有る。だから大丈夫だと思っていたけれど、コレは心配だった。


 なぜ剛輝はそんなに緊張しているのか。自分なりに分析していて、その理由を彼は詳しく説明してくれた。


「やっぱ、自分がメインになるって考えると緊張してまうわ。先輩らは、よくこんな中で出来てたなって思うねん。今更やけど」


 そんな弱音まで吐いて、いよいよ危なそうだ。しかし、剛輝以外にも緊張の表情を浮かべている者たちがいる。優人と龍二の2人だ。


「賢人くん。今までいっぱい練習したけど、やっぱり駄目かもしれないです」


 この半年間で、死ぬほどの練習を繰り返し能力を高めてきた優人。そんな彼でも、直前になって気弱になっている。


「僕も、本番で大きな失敗してしまいそうで怖いな」


 龍二も優人に影響されてしまったかのように、失敗したらどうしようかな、と強いプレッシャーを感じているみたいだった。


「拓海は、大丈夫?」

「いや、僕も。ちょっと危ないかなぁ。舞台でたくさん経験しているはずなのにな。これから初のライブだって考えたら、身体が震えてきたよ」


 舞台役者とアイドルとは、やはり別物なのだろうか。アイドルとしてのデビューで、初めての経験に彼はとても緊張していた。


 そして拓海本人の申告どおり、本番前の緊張のせいで身体がわずかに震えている。表情は平気そうにして不安を隠せているが、身体の反応は抑えきれない、ということだろう。それほどの緊張。


 そんな彼らの中で、俺だけが1人平気に立てていた。初ライブで緊張している皆が普通で、平気な俺のほうがオカシイんだろう。だが、Chroma-Keyのリーダーとしては好都合だった。


 もうすぐ、ライブ本番が始まるという時刻。ステージ裏では多くのスタッフたちが動き、慌ただしく準備してくれている。スタッフの熱気、会場にいるファンの熱気を肌で感じる。これから、俺たちのライブが始まるんだ。


 Chroma-Keyのリーダーである俺は皆を集めて、やる気を鼓舞する事にした。


「ちょっと皆、こっちに来て。肩を組もう」

「あぁ」

「おう」

「うん」

「オッケー」


 5人が集まって、輪をつくり肩組み円陣を行った。これから始まるライブを一緒に仲間たちで協力して頑張り、成功させよう。彼らの緊張を少しでもほぐそうと思い、声出しさせる。


「両足をしっかり地面につけて、皆で一緒に声を出すよ」


 俺の言葉に肩を組んでくれた彼らは、しっかりと頷く。俺の声を聞いてくれていることがよく分かる。肩を組んで間近になった彼らの表情を、じっくりと観察しながら一人ひとり確認していく。


 肩を組み合って身近にお互いを感じた結果だろうか。ここに来て、ようやく覚悟を決めたのか剛輝たちの表情から不安が薄れているように見えた。


 そうだ、俺達は5人組だから全員が一丸となって頑張れば大丈夫なんだ。


「俺たちは日本中から注目されるようなアイドルとなれるよう、今日のライブに皆で一緒に臨もうか。さあいこう!」

「「「「おう!」」」」


 ライブが開催される直前、会場のステージ裏に俺たち仲間5人の声が響き渡った。こうして、ようやく俺は新たな仲間たちと一緒になる。Chroma-Keyというアイドルグループとなって、デビューを果たして初ライブに挑んだ。

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【未完】勇者の次はアイドルとなる人生 キョウキョウ @kyoukyou

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