特別なことはいらない。ただ、心に寄り添うだけでいい

落としたものを女の子に拾ってもらう。そんな展開はさながら青春小説のよう。しかし、「僕」が落としたものはハンカチや財布ではなく白杖だった。

淡々としていながらも、どこかぬくもりもある文章に引き込まれます。じっくりと障害と向き合わせてくれるのは、目が見えないという孤独や焦り、生きづらさなどの感情を巧みに紡いでいるから。
「僕」と女子高生が交わす、何気ない言葉が心に沁みます。

物語の内容だけではなく「僕」の語りも魅力です。表情や仕草の描写がなくても登場人物は生き生きとしていて、創作をしている人も目が離せません。

ちなみに、本作では全盲の主人公が白杖を使っていますが、白杖を使う人が必ずしも全盲とは限りません。この機会にぜひ、理解を深めてほしいです。