第29話 闘犬

 ポチの銃剣が鋭くシューティングスターの喉笛を襲う。それを彼女は刀で弾く。同時に彼女はポチに蹴りを入れる。重たい蹴りをポチは脇腹に受けながら耐える。更に弾かれた銃剣を振るう。

 切っ先がシューティングスターの堅い皮膚に叩き付けられる。

 「無駄だ!そんなナマクラで斬れないよ!」

 シューティングスターは刀を上段から振り下ろす。それを紙一重でポチは避ける。

 シューティングスターの剣撃は鋭く、早い。ポチはそれを何とか避けるだけで手一杯だった。紙一重で躱せているとはいえ、徐々にポチの皮膚に切り傷が増えいく。

 カチン

 ポチは何とか、銃剣で刀を叩き、シューティングスターの剣撃を終らせる。

 「はっ!やるなっ」

 それまで息を止めながら刀を振るっていたのか、シューティングスターが大きく息を吸う。その間にポチが間を取るようにステップを踏みながら後退する。

 その瞬間を狙ったようにタマが短機関銃を撃つ。それを察したようにシューティングスターは紙一重で5発の銃弾を躱す。それと同時に一飛びでタマに迫る。それはあまりに一瞬の事で短機関銃を構えていたタマは躱せなかった。

 刀が振り落とされる。タマは一瞬、ダメだと思った。

 だが、切っ先はタマの頭を逸れて、彼女の右腕を掠っただけだった。飛び掛かってきたシューティングスターは勢いのまま、タマの横を通り抜け、転がる。その後からポチも転がって行く。

 どうやら、飛び掛かったシューティングスターの背後にポチがタックルをしたようだった。タマは右腕を斬られ、弾かれたように左に倒れ込む。

 「タマ巡査長!」

 ポチが立ち上がり様にタマを見る。

 「だ、大丈夫にゃ!」

 タマは何とか立ち上がるも切られた右腕から酷く出血があった。

 よそ見をしたポチにシューティングスターの刀が真一文字に振られる。だが、ポチはそれを僅かに上体を反らして、紙一重で躱す。

 「ははは。やるな・・・犬コロ。あたしの身体に・・・」

 片膝をついたシューティングスターはニヤリと笑いながら言う。

 「だけど・・・抜けなかったよ」

 ポチの手には銃剣が無かった。その銃剣はシューティングスターの腰に刺さったままだった。

 「武器を失って・・・勝てるかい?」

 シューティングスターは息を荒くしながら、立ち上がった。

 「そっちこそ・・・苦しそうだな」

 ポチはレッグホルスターから9ミリ自動拳銃を抜いた。

 「悪いが・・・鈍くなれば、こいつの出番だ」

 ポチは拳銃を構える。その銃口をシューティングスターは睨む。

 「それでやれると?」

 「至近距離でも躱せるか?」

 シューティングスターの問い掛けにポチは笑う。

 「ふふふ。笑わせるなよ。犬。躱せなくても・・・拳銃弾程度で殺される程、やわな身体じゃないよ」

 そう言った瞬間、シューティングスターが刀を捨て、ポチに飛び掛かった。

 銃声が鳴り響く。だが、それでもシューティングスターはポチに体当たりをして、一気に店前にあった自動販売機に押し付けた。自動販売機は激しく変形して、そこにポチの身体が埋まった。

 「ぐうぅ」

 ポチはあまりの衝撃に拳銃を手放す。それでもシューティングスターはポチを自動販売機に押し付ける。

 「死ねぇえええ!」

 シューティングスターは大声を上げて、力を込める。

 「ポチぃいいいい!」

 タマは立ち上がり、左手で短機関銃を撃つ。弾丸がシューティングスターの左側面に当たって行く。その衝撃にシューティングスターは僅かに身体を怯ませた。その瞬間にポチがシューティンスターの腹に前蹴りを入れる。それでシューティングスターの身体が吹き飛ぶ。

 「このケダモノがぁああああ!」

 血塗れのポチが倒れたシューティングスターに飛び掛かり、その上に圧し掛かる。マウントを取ったポチは激しくシューティングスターの顔面を殴った。

 「ポ、ポチにゃ。手錠にゃ。手錠を掛けるにゃ」

 タマは痛む右腕を庇いながら、二匹に近付く。

 「ダメです。まだこいつはっ」

 ポチがタマにそう答えた時、シューティングスターはポチを力づくで押し退けた。

 投げ飛ばされたポチは転がりながら、体勢を整える。

 「はぁはぁはぁ・・・やってくれるなぁ・・・」

 ボロボロになったシューティングスターは膝をつきながら、二匹を睨む。

 「もう、諦めるにゃ。お前の負けにゃ」

 タマは短機関銃を左手で構える。

 「殺すなら殺せ。そのつもりが無いなら失せろ」

 シューティングスターは何とか立ち上がろうとする。

 「殺されたいのか・・・このケダモノが」

 ポチも何とか立ち上がる。

 「そうだ。その目だ。番犬の目じゃない。猟犬の目・・・いや、闘犬の目か」

 シューティングスターはポチを見て、笑った。

 「噛み殺してやるよ」

 ポチはシューティングスターに飛び掛かった。

 素手での殴り合い。

 あまりに野蛮な戦いだった。

 相手を殺す為に拳を振るう。

 タマはその光景を眺めながら、止める事が出来なかった。

 本質的に殺し合いを徹底的に叩き込まれた者同士の戦いは、警察官として訓練を受けたタマと根本的に違っているのだ。

 「や、やめるにゃ。そいつを捕まえるにゃ」

 タマは怯えたように小声で言うしかなかった。

 「犬も猫も人間も皆殺しだぁアあああ!」

 シューティングスターは怒鳴りながら、ポチを投げ飛ばす。だが、ポチは彼女の腕に絡み付き、飛ばされない。

 「殺されるのはお前の方だぁああああ!」

 ポチはシューティングスターの腰に刺さっていた銃剣を抜いた。

 血が噴き出す。

 「ぐあああああ」

 シューティングスターは激痛に悲鳴を上げた。

 「終わりだ」

 ポチは銃剣を深々とシューティングスターの喉に刺した。

 切っ先は喉を切裂き、脊髄を貫いて、首を串刺しにした。

 タマはその光景を目にした時、唖然として、短機関銃を下した。

 

 シューティングスターの死亡が確認された。

 ポチは全治1カ月の重傷を負い、タマも全治2週間の負傷をした。

 CATは全戦力の3割を失い、再び、活動継続が困難となった。

 

 「よう、二匹とも元気にしているか?」

 クロはヒューマアニマル専用の病院の病室にやって来た。

 タマとポチは並んでベッドに横たわっている。

 「班長にゃ!元気にしているにゃ」

 タマはゲーム端末を置いて、返事をする。

 「お前は相変わらずだな。ポチはどうだ?」

 「まだ、痛みます」

 「まぁ、彼方此方、骨も折れてるしな。死んでないのが不思議だとか医者が言っていたしな」

 クロは大笑いしながら言う。

 「今日は何の用にゃ?見舞いはメロンが良いにゃ」

 タマがそう言うとクロが彼女の頭を軽く叩いた。

 「まぁ、俺は早いと思うんだが、お前ら、この間の功績で昇進だ。タマは巡査部長。ポチは巡査長だ」

 「巡査部長にゃ?」

 「そうだ。バカ猫。死んでたら二階級特進だったのにな」

 「勝手に殺すにゃ」

 タマは怒る。

 「まぁ、怒るな。これから、中間管理職として、がっつり働いて貰うからな。多分、新人も多く入って来るから」

 クロに言われて、タマは嫌そうな顔をした。

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C.A.T~新東京都騒乱記~ 三八式物書機 @Mpochi

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