きつねと団子
石燕 鴎
きつねと団子
「狐はおいなりさんがすき」衆人はぼくにお揚げを供え、自らの願いをぼくにささげる。ぼくは、きつね。普通の狐より幾許か長生きしている。おかげで世に生きるものを後押しする力を得た。なかでもにんげんという生物は難解なもので、ぼくはただのちょっと長生きしたきつねなのにカミサマという存在に祭り上げた。そして、ぼくに油揚げやお米を捧げてくれるようになったのだ。
ある日、にんげんのこどもが珍しいものをぼくにくれた。「お母さんの病気を治してほしい」と供えられたものは、まるくてふにふにしている。口に含むともちもちとしている。ぼくがいままでに食べたことのない味だ。まるで花の蜜を舐めたときのような味に加えて、噛んでいるとじょわっとつばが出てきてなんだか幸せになる気がする。ぼくはこの、串に刺さったまあるい食べ物を好むようになったのだ。ぼくはお米や油揚げをもらうより快く願いを叶えてあげたくなった。
しかし、ぼくにこの食べ物を供えてくれるにんげんはあれ以来訪れない。ぼくが欲しいと言えばにんげんたちはおそらく供えてくれるだろう。だけれども、ぼくはあの食べ物を知らないのである。どこでにんげんたちは手に入れるのか、あの食べ物はなんなのか。味と姿しか、ぼくには分からないのである。そこで「全国長寿鳥獣寄合」でほかの生物たちに聞くことにしたのである。ぼくは早速旅支度を整えて旅立つことにしたのだ。旅立ちといってもにんげんの路銀や衣服、食べ物の準備はいらず、そのままちょこちょこと遠方に走っていくだけだ。疲れたら休み、お腹が空いたらその辺にあるものを食べればいいのだ。にんげんは旅籠に泊まらないといけないし、食事もきちんとしたところで食べないといけないようで、ぼくが走っていると休みをとるたびびとたちが散見された。
そのまま三日間ほど走ると開催の場所についた。ふくろうや同類、たぬき、からす、いろいろな生き物たちが会場にいた。ぼくは早速近くにいた同胞たちに聞いた。「なぁ、まるくてふにふにしていてそれでいて奥ゆかしい花の蜜みたいな味をしているもの知ってるか?」
「おお、なんだ武蔵の三本狐じゃないか。よく山科まで来たな。お前の言う食い物は俺は知らないなぁ。俺に供えられたものは油揚げか米だけだ。あと飲むとほんわか気分がよくなるサケとかいう飲み物だけだな。長老に聞いてみたらどうだ。」そう同胞は言うとひょこっと消えた。おそらく食事をとりに行ったのだろう。ぼくは山城の長老狐に聞くことにしたのだ。長老はすぐそこにいてニワトリを貪っていた。ぼくは失礼ながら長老の近くにより、声をかけた。長老はぼくの問いかけに静かに首をふる。長老も知らないようだ。長老は同類たちに語りかけてくれたが、皆こっくりと首を傾げるばかりであった。そんな中人と交わりが深いたぬきたちがぼくらの話し合いに混じってきた。三河のふるだぬきはこういう「それはダンゴという食い物ではないかい?ほら串に刺さっていてみっつくらいあっただろう」
「ありました。あれはダンゴと言うのですか。どこに行けば手に入りますか?」
「あれは人界にある食い物でな。人の住む町中で売っている。恐らく数文で手に入るだろう」
ぼくはお礼をいうとさっと駆け出した。一刻も早くダンゴをもう一度食べたかったのだ。手紙を運ぶにんげんよりも早く、風よりも早く走る。やがて、幾らかの夜を超えて自分の住みついているところについた。ぼくのいえには幾らかにんげんの銭が蓄えてある。それは、万が一人の世にでる場合に備えてだ。ぼくは銭を掴み、早速にんげんに化け、はやる気持ちを抑えて洞穴からこっそりと出た。
人界は相変わらず賑やかである。いそいそとぼくはダンゴをさがす。ひとびとがダンゴを食べている茶屋を見つけた。ぼくは店先にいたお嬢さんに声をかけた。ダンゴが出てくるまでの時間がたまらなく焦燥感にかられると同時にたまらないほど愛おしいのだ。やがて茶とダンゴが出てきた。ひと口含むとぼくは幸せなきもちになった
きつねと団子 石燕 鴎 @sekien_kamome
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます