ビッグデータが手に入ったらなにに使う?

ちびまるフォイ

この使い方はあっているのか

商店街でたまたまやっていたくじ引きでガラガラを回すと、

はっぴをきた男はハンドベルをけたたましく鳴らした。


「おめでとうございまーーす! 1等! 1等です!!」


「え、1等!? やったーー!

 それで商品はなんですか? 国産和牛? それともハワイ旅行?」


「なんと! 10年分の……!!」

「10年分の!?」



「 ビッグデータを差し上げます!! 」



受け取ったのはビッグデータ利用券(10年分)だった。

これをどうすればいいのか使いみちが全く思いつかない。


家にはバカでかいスーパーコンピュータが置かれた。邪魔。


「ビッグデータ、ねぇ……」


一応、使いやすいように自分が調べようとすると

勝手にビッグデータが検索して結果を出してくれる。


「そうだなぁ、1ヶ月のマンガ本の購入平均は?」


「ピピー。〇〇冊です」


「あ、思ったより買われてないんだな……ってこんな使い方しかないのかよ!

 1等よりも2等の最新ゲーム機のほうがずっとマシだよ!!」


「ピピー。最新ゲーム機の売れ行きは△△です。

 購入層の減少により消化率は……」


「分析しなくていい! 分析しなくていい!」


けれど、この分析でふと気がついた。

ビッグデータ利用券には過去のデータはもちろん現在のデータも反映される。


「ということは、このデータさえあれば流行を掴みまくりじゃないか!!」


俺はパソコンを立ち上げると、いつもの小説サイトを起動した。


「よし、それじゃこのサイトの利用者が好きな主人公のタイプは?」

「ピピー。□□した主人公の比率:97%です」

「なるほど、それが流行なんだな」


「それじゃ好まれるヒロインのタイプを分析してくれ」

「ピピー。ビッグデータによると好かれるヒロインは××です」

「スタイルは?」

「ピピー。△△の体型が今のトレンドです」

「よしきた!」


今まであれやこれやと頭をひねって考えていたキャラ設定も

ビッグデータがあるおかげで道標ができたようにスラスラ進む。


「ようし、新連載ができたぞ! 人気まちがいなしだ!!」


投稿ボタンをクリックした。

この作品が固定化されたランキングに一石を投じる台風の目になる。


「……あれ? なんか全然人気無い?」


「ピピー。ビッグデータによると小説の評価はランクEカテゴリーに該当します」


「なんでだよ!? 何がダメなんだ!? 俺の文才ってそんなにもないのか!?」

「ピピー。あなたの文才はビッグデータによると、Bランクです」


「だよな!? そんなに悪くないのにどうしてこんなに人気無いんだ!!」


納得がいかず、原因を確かめることもかねてダラダラ更新を続けた。


「ピピー。水着回にアクセス数が多い傾向があります」

「お色気路線ちょっと増やしてみるか」


「ピピー。修行パートで読了離脱者が増えています」

「もっとササッと終わらせたほうが良いのかな」


「ピピー。別視点とか〇〇sideでの継続率が悪いです」

「わかったよ! 本編進めれば良いんだろ!」


あれやこれやとビッグデータを本に手を加えたが、

まるでランクEから脱することなく不人気作で終わってしまった。


「くそ……ビッグデータをもとにいくら修正してもダメじゃないか。

 いったいなにが原因なんだ」


「ピピー。ビッグデータによればそう考える人の90%が

 自分の才能の無さだと判断します」


「うるさい! データを収集するしかできないくせに!」


またしても自分の言葉ではっと気付かされた。


「そうだよ。俺はいままでビッグデータに合わせて、読者に沿って書いてきた。

 でも本当に読みたいのはそんなものじゃないんだ。

 予想もつかない展開、新しい魅力的なキャラ、斬新な世界観なんだよ!!」


ビッグデータが正しいと信じて、いつしかデータに合致するようなものばかり書いてきた。

でも求められているものはそうじゃないはず。


今までの世界観もキャラ設定もすべてを取っ払い、

ビッグデータのどこにもヒットしないような斬新で尖った作品を作り上げた。


「できた!! これこそみんなが求めている新しい作品だ!!」


ふたたび投稿ボタンを押した。

わくわくしながら評価を待つこと数日。


「ピピー。ビッグデータによるとこの小説の評価はFランクです」


「うるさいな! わかってるよ!!!」


新しい要素をふんだんに入れたはずの作品だったのに、

作品自体の人気はビッグデータをもとに書いたものよりもずっと人気がない。


「ピピー。読者はお約束のお色気展開を求めているようです」


「バカ! そんなことしたらまた前の二の舞だろ!!」


もう何が正しいのかわからない。


ビッグデータに従って書いてもありきたりな作品として埋没する。

でも斬新な作品を書いたら今度は受け入れてもらえない。


「ああ、いったいどうすればいいんだ……」


「ピピー。私にアイデアがあります」


「もうビッグデータなんかいいよ。

 どうせビッグデータを参考にしようがしまいが

 結果はわかりきっているじゃないか!」


「いいえ、あなたは本当のビッグデータの使い方を知らないだけです」


「え……!?」


ビッグデータの入っていたスーパーコンピューターが開くと、

中から汗だくのおじさんが出てきた。


「あ、あなたは……!?」


「ビッグ・データ・ダディです。私が正しくビッグデータを使ってみせましょう」


ビッグダディは小説にちょちょっと手直しを加えた。

すると、今まで鳴かず飛ばずだったはずの作品がぐんぐん人気になった。


「すごい! 一気にアクセスが増えていっている!

 これがビッグデータの力なんですね! まるで魔法だ!!」


「では私は戻ります」


ビッグダディがPCの中に戻ろうとしたのを必死に止めた。


「待ってください。いったいあなたはビッグデータで何をしたんですか?

 作品にどうやってビッグデータを活かせばよかったんですか!?」


「小説のタイトルを見てください」

「え?」


タイトルには一文が追加されていた。



【 1億人のデータを元に最も分析された新作! 】



と。



「ビッグデータってのはね、飾りなんですよ」


「か、かっこいい……!」


おじさんはスーパーコンピュータの中に入るとまた内部で分析をするのだった。

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