怖い話1【認識】2000字以内
雨間一晴
認識
「やっほー!あれ、テレビ電話出来てるかな?」
「ごめんごめん、普通に耳に当ててた!」
「ちょっと何してんの、笑わせないでよ!」
「ごめんって。無事引越し終わった?」
「終わったよ!すごくない、これ?ずーーっと、田んぼだよ」
画面の向こうには、一面の緑が広がっていた。夕日に照らされて、まだ見える水面がキラキラと黄金色に輝いている。
「おー、うちから歩いていけるくらいの場所なのに、本当に田舎だね」
「そうそう、下見で何回か、泊まらせてくれてありがとね。あ、そうだ、あれやってみようよ、顔入れ替えるやつ」
「うちは一人暮らしで寂しいし、また来てね。通話しながら、顔入れ替え出来るようになって、はやってるよね。でも誰も居ないじゃん?」
「ふっふっふー、じゃーん、お地蔵様です!」
「うわ、バチ当たるよ、止めときなよ」
「いいから、いいから、えっと、ここでやるんだっけな、はい、ちーず」
「おー?あれ、みゆき?ちょっと?」
みゆきの顔だけが、田んぼの上に浮かんでいた。
「え、ちょっと、みゆき大丈夫?」
みゆきの首の上には何も無く、向こうの田んぼが見えている。
みゆきの体から少し右の空中に、みゆきの顔だけが浮かんでいるのだ、まるで切り取られたかの様に。楽しそうに笑顔のまま固まっている。
左にある地蔵は、何の変化もない。
「ちょっと、みゆき?そういう冗談いいから、返事して」
頭の無いみゆきの体が震えだした、白いワンピースが左右に揺れている。
「ぁぁあぁぁあああ」
「なに!冗談なら怖すぎるからやめて、本当怒るよ!」
頭の無いみゆきの体は、どんどん左右への揺れが強くなっている。宙に浮いたみゆきの口は動いてない。
「ちょっと!もう切るよ!ふざけないでよ!」
浮いたみゆきの笑顔が、ふいに、真顔に戻った。じっと、こちらを見ている。
「みゆき?大丈夫?」
みゆきは、こちらを見つめたまま、全ての歯茎をむき出して、目を細めて笑った。
それは、みゆきの笑顔には見えなかった。
突然、左右に激しく揺れていた体がピタっと止まり、携帯を持ったまま真後ろに倒れた。映像が激しく乱れてから、空だけを映している。
「みゆき!ちょっと!みゆき!」
地面に倒れたまま、みゆきの顔が映し出された。
「ねえ、みゆき?大丈夫?みゆきだよね?」
「今から行くね」
「え……」
「あは、あはははは、いまからあああいくねえええええ」
反射的に通話を終了させた。
「やばいやばいやばい!」
(警察に連絡?いや、全力で走ってくるなら、五分くらいで来ちゃうかもしれない、あれは、みゆきじゃなかった。やばい、どうしよう)
このアパート二階の窓から何か聞こえる、そっとカーテンの隙間から外を見てみた。
遠くから、みゆきが走ってきていた、異常に首をかしげている。右手で自分の髪の毛を、思い切り引っ張っていた。口から血が流れていて、ワンピースが赤く染まっている。
左手に携帯を強く握りしめたまま、こっちに向けて、振り回すように手を振っている。
「ははははははははははひ ひひひひひひ ああぁぁぁぁあああ」
(やばいやばいやばい!)
カンカンカンカンカンとアパートの階段を上る音が近づいてくる。
ピンポーン
ピンポーン
「いないの?」
ガタ
ドアの郵便受けが開く。
目隠しのようにカバーされてるので、こちらから見えない。
恐怖のあまり、全身に力が入り全く動けない。必死に震えを抑える。
カバーの下から赤い爪の指が飛び出た。バンバンと指先で内側からドアを叩いてる。
「あれ、いないの?ごめんごめん、冗談だから。ねえ、出てきてよ」
指が引っ込み、ぶちぶち。ぶちぶち。と、にぶい音が聞こえる。
「これ、あげるから、出てきてよ。ね?」
郵便受けから、大量の真っ黒な髪の毛が落ちてくる。
「寂しいんでしょ?出てきてよおおおぉぉ」
ドンドンドンと、ドアが悲鳴をあげる。とんでもない力で殴りつけられている。
「寂しくなんかないから!みゆきを返してよ!」
ドアを叩く音が止んだ。
「返さないよ」
バサバサと郵便受けから髪の毛が落ちてくる。
「あははははははははは」
ガンガンガンガンと、階段を降りていき、狂った笑い声は遠くなっていった。
怖い話1【認識】2000字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu
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