第3話エンドレス·ユイゴン·デスティニー 後編
(前回のあらすじ 巧妙に張り巡らされた帝国の追跡網から逃れるため、ヘルズゲートとミラノは街外れの寒村に身を隠す。しかし村では奇妙な『呪い』の噂が広がっていた。好奇心をそそられた二人は『呪い』を受けておかしくなったという老人のもとへ向かう。…が、ただの『ボケ』と判明、意気消沈しつつ、老人夫婦の好意に甘え、泊めてもらう。しかし皆が寝静まった午前2時、ミラノを襲う影が!『呪い』は真実だったのだ!全てを見通していたヘルズゲートは、身体を邪神に乗っ取られた老人を殺した。…そして全ては終わったかのように思われたが…)
「よう!タキジ爺さん!」
先程から呆然とする老婆を慰めていたタキジは、ヘルズゲートの声に驚き、
「な、何じゃ!嬢ちゃんか…心臓止まっちまうかと思ったわい!…で?何の用じゃ?」
少女は柔らかく微笑んで、
「いや…悪い、ちょっと二人で話がしたいんだけど…」
そこにミラノが控えめな調子で、
「お婆ちゃんのお相手は私がしますから…」
「お、おう?分かったわい」
「…で?何じゃ、話とは」
「ん…『呪い』の話についてなんだが…」
「おお?それはとっくに解決したじゃろ?」
ヘルズゲートは我が意を得たりという顔で、
「そうさ!とっくに解決してたんだ…少なくともおとといには!」
「どういう事じゃ?何を…」
「分からないって?説明する必要があるのか?…じゃあ教えてあげよう!そもそもアタシたちに『呪い』のウワサを教えてくれたのはアンタだったよな?」
タキジはいきり立って、
「お、教えたんじゃないわい!口が滑ったんじゃ!」
「いいや、『教えた』んだよ、アンタは」
ヘルズゲートの目つきが鋭くなり、その紅さが深まったように見えた。
「…何じゃと?」
「呪いで身体を乗っ取る邪神…都じゃ有名な話だ。わざとそれをほのめかすような話をしたんだ…アタシたちの気を惹くために!」
タキジは思わずといったように失笑し、
「なあにを言っとるんじゃ!ワシがわざとそんな話をしたなどと…」
「他の村人に聞いたんだ。そしたらゴスケ爺さんが病院に行った話は村中に広がってたんだ…アンタだけ知らなかったワケねぇだろうがよ!なあ?邪神さんよォ!!」
まくし立てるヘルズゲートを冷静に見つめつつ、タキジは言った。
「じゃあどうしてゴスケはアンタたちを襲ったんじゃ?ワシが邪神というのなら…」
「何でその事知ってんだ?」
「…何?」
「ゴスケ爺さんがアタシたちを襲ってきたのを、どうしてアンタが知ってるんだよ!アンタが襲わせたからだろうが!ちがうか?」
「…!」
タキジは初めて動揺した様子だったが、やがて大きく高笑いを上げると、
「すごいすいりりょくだ」
「適当だったけど合ってた?」
「…うん、まあ、そうだ!だけどね、『他の村人に聞いた』だって?嘘は良くないよ、向こうから教えてくれたんだろ?」
「…あァ?」
「わたしが村人を操って君たちにヒントを出してあげたんだよ!…君たちを仕留める為にね!!」
途端にタキジ…邪神は急速接近!
「アタシに速度で張り合うつもりか?…ナメ過ぎだぜ邪神さんよォ!!」
迎え撃つヘルズゲートの連撃!邪神はこれを躱すと、ぐるりと後ろに回り込んで致命的な突きを放つ!
「だァオラァ!!調子こくなやボケェ!!」
神懸かった反射神経でこれに反応すると、強烈な回し蹴りを叩き込んだ!邪神は吹っ飛び、ものすごい音を立てて地面にめり込んだ!!
「何の音だ!?」 「今度は何じゃ!?」
退屈な田舎では、誰も彼もが事件に飢えている。タキジ邸にいた者達までもが新たな刺激を求めて、あっという間に野次馬が集まった。
「タ、タキジでねぇか!おめえ何して…」
邪神は首を振って、
「いやはや…物見高い連中だ…まるで羽虫の如く集まって来よる…とはいえ、都合の良い事もあるがね!」
邪神は高く跳躍すると、野次馬の背後に着地して、その頭を掴んだ。
「お?何だ…あ、あ、ああアアあアあ!!」
「視聴者参加型というのはどうかな?」
邪神のドス黒いエネルギーを流し込まれた村人は、自我の無い操り人形と化してヘルズゲートの方へ突撃する!
「どんどん行くぞ!そおれ!」
邪神は踊るように軽やかな動きで村人たちに触れていく。たちまち30余名の老人たちは、ゾンビめいた傀儡兵器と成り果てて襲い来る!
「ザコをけしかけて良い気になってんのか、可愛らしいじゃねぇか!!」
ヘルズゲートが傀儡の脇を通り抜けると、傀儡は一瞬で血溜まりになった。
「足らねぇなあ〜、こんなんじゃあよおおオオおオオ!!」
もはやアビナ村は地獄の釜の底と化していた。正気の村人が傀儡に襲われ悲鳴を上げる。ヘルズゲートは爆笑しながら、それらの残骸を蹴り飛ばす。
「あッへへへへ!!待てよ、どこ行く!!」
「狂気に囚われた哀れな小娘が!今ここで死ぬがよい!我が生贄としてな!!」
邪神は高速で後退していたが、突如として間合いを詰めると喉元目がけて突きを繰り出す!だがヘルズゲートはこれをいとも容易く躱した。隙だらけの胴体に破滅的な蹴りを見舞った。邪神が吹き飛び、血反吐を吐く。
「死ぬのはテメエだ。そんなジジイの身体じゃなかったらもっと楽しめたのになァ!」
「…どうやら、そのようだ…ガボッ!」
満身創痍の邪神は、もはや立ち上がる様子すら無く、諦めの表情だ。ヘルズゲートは処刑人めいてゆっくりと近づき、
「あばよ、神様」
「うむ……先に地獄で待っていたまえ!!」
邪神の卑劣極まる奇襲!その手に握られているのは、自らのエネルギーから創り出したナイフだ!いかにヘルズゲートが速さを誇っているとて、この死に物狂いの抵抗には…!!
「ダメ」
その一撃を止めたのは、黒髪の少女の細腕である。その見かけからは想像もつかぬ化物じみた怪力が、邪神の手首をへし折る。
「ガアッ!?」
「危ない所だった…!大丈夫?」
「ばっか、余計な事しなくても避けられたっつーの!…でも、ま、そういう事だからさ…諦めてくれる?…よいしょ!」
ヘルズゲートの無慈悲な指先が、邪神の穢れた心臓を穿った。
「ゴ、ゴバァッ…!!フ、フフ…そうだな…諦めがついたよ…これも『運命』か…」
ヘルズゲートは目を見開き、超高速で飛び退いた。
「フ、フフ、へへフフ…もう遅いよ」
「テメエーッ…!アタシの身体を乗っ取れるとでも…?」
邪神はまた嗤った。
「君の…?フフ、遠慮しておくよ…今の所はね!…わたしはコチラにさせて貰おう」
タキジの死体から黒い煙のような物が吹き出して来て、ミラノの身体に入り込んだ。
「ほえ…?」
「ッ、しまった…!!」
『ハハハハ!!これは中々良い!強大な力を秘めているし、何より若い!…さあ、バトル続行といこうかヘルズゲ…グアァッ!?』
突然の悲鳴!何かに脅かされている!?
『バ、バカな…!これ程の… グアアアア!貴様、一体何を宿して…やめろ…来るな、クソッ!!』
「ウオアアアア!!」
ミラノの身体から煙が飛び出し、きりきりと空中で渦を巻いた。ミラノはその場にくずおれた。
「新しい物件の住み心地はどうだったよ?」
「ハァーッ、ハァッ…あ、あ、あり得ない、あんなモノ…あっていいワケが無いッ!!」
ヘルズゲートの興味は既に、目の前の邪神からミラノに憑依した謎のオバケに向かっていた。故に、誠にそっけなく、
「アンタ、放っといたら消滅するよね?」
と言ったのみだった。それから倒れているミラノを背負うと、すたすたと歩き始めた。背後から、「ただでは死なんぞ!!」という声が聞こえた。大方、最期の力を振り絞って実体化でもしたのだろう。だが、もう直接手を下す必要もない。
「ふざけんなーッ!」
「旦那返せーーッ!!」
それから邪神の声で、
「グアアアーーッ!?や、やめろーッ!!」
という断末魔が聞こえた。生き残った村人達が、聖なる鉄パイプやハンガーで邪神を殴打しているのだ。邪神も強く叩かれると死ぬ。ヘルズゲートはそちらの方を一瞥だにせず、
「もしアタシたちを捜してる奴らがいても、『知らない』って言えよ!分かったな!」
怒号混じりの承諾の言葉を背中に受けつつ、ヘルズゲートとミラノはその村を去った。
ーーーーーーー
「あのーちょっといいかな?」
赤い髪の少女が、汚い身なりの少女に話しかける。彼女はホームレスなのだ。
「この娘なんだけど、知ってる?」
差し出した写真には、紅い眼の狂人が写っている。ヘルズゲートだ。
「あ〜はいはい!今ね、出てったばっかりなんだけど…」
「…そうですか、ご協力ありがとうございました!」
「よかったのだ!ほら、わたしの言った通りなのだ!」
灰色の髪の少女が胸を張る。しかし、赤い方の機嫌はあまりよろしくない。
「団長、ヘルズゲートさんをナメ過ぎだよ…彼女が『今さっき』出て行ったのならもう3kmは離れているはず…」
灰色の…バスカヴィルは、不思議そうに首を傾げる。
「ほあ?どゆことなのだ?」
「ヘルズゲートさんはそのスピードによって『神話級』の一人に数えられている…やっぱりこのままじゃ追いつくことは…!」
「ふ〜ん、…あ!」
バスカヴィルは、顔をしかめるイフリートの苦悩を無慈悲に踏み潰すが如く堂々と、
「じゃあもっと速く走るのだ!」
と言った。イフリートは、頭を抱えた。
終わり
女の子が戦うヤツ @admits
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