第4話 私、キャンディー
~待人~
あなたを待つ
この一時は苦しいけど
約束の為と身を焦がす
ーーーーーーー
俺は今日も休んでいる姫松の事が気になっていた。どうすれば彼女は学校に来れるだろうか。そんな事を考えてながら放課後、衛と共に教室で時間を過ごしているとやけに騒がしい男が教室に入ってきた。その男はドンペイだった。
衛「ドンペイ、今日はやけに来るのが早いな」
ドンペイ「放課後、皆で話すのが楽しくての」
騒がしいドンペイとは逆に今日の一歩は少し静かだった。そして最近、僕は一歩の事で気が付いた事がある。本人は自覚が無いようだが、一歩が新呼吸を何度も繰り返す時は何かが起きる。僕はこれを一歩の無意識の予兆と呼んでいる。そして今日は何度も深呼吸を繰り返す一歩。流石に今日は授業も終わって帰るだけ。何も起きないだろう。お願いだから何も起きるな。
ドンペイ「今日は夕日が綺麗じゃ。屋上にでも出ようではないか。」
衛「ドンペイにしてはよい提案だね」
一歩「悪い。今、青山先生から急用があるとメールがきた。すぐに行ってくるよ。悪いけど先に行っててくれ」
そう言い残すと一歩は急ぎ足で教室を出た。急な頼み事をメールでしてくる我らが担任。急用ってなんだろうと思いながらドンペイと一緒に屋上に出た。学校の屋上というものは特別なものがある。僕もドンペイ貸し切りの屋上で大の字になりながら寝た。すると
ドンペイ「んごが」
ドンペイが変な声をあげた。鳥のフンでもくらったのかと思い体を起こした。するとさっきまで気が付かなかったが目の前に屋上を囲っているフェンスを越えて女子生徒が立っていた。少しバランスを崩せば落ちてしまいそうだ。フェンスの一部に小さいドアがあるからそこからフェンスの外に出たのだろう。今はがっつりとチェーンで封鎖されてしまっているが、、、
衛「そこは危ないよ」
すると彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。彼女の顔は涙でぬれていた。
ドンペイ「危ないでの。こっちへ来い」
ドンペイも心配をしている。人の心配ができるようになるとは感心だ。感心に浸りたい所だが、そんな余裕はない。
「放っておいてよ」
やけに冷たい声で帰ってきた。
ドンペイ「なんじゃっとぉ。心配しとるがよ。とっととこっちにこい。」
なでか逆ギレするドンペイ。まだまだ怒りの沸点は低いようだ。でもドンペイなるに必死なんだろう。
「私が死んでも誰も悲しまないでしょ?じゃあね」
待て待て待て、それって自殺って事か。皆、悲しむって。
ドンペイ「早まるな。話ぐらいきいちゃる。何か理由があるんかい」
「理由?生きる理由がないからここから降りるのよ。」
この女は確か山下 灯。皆からはキャンディーと呼ばれてた気がする。今はそんな甘い呼び名は全く似合わないけど。
ドンペイ「それは違う。よく分らんがダメじゃ。」
山下「うるさい。あんたドンペイでしょ?あんたも皆の嫌われ者でしょ?私もそうよ。友達だった子は裏で皆で私の悪口を言って楽しんでた。先生に相談しても私にも原因があるって。親は口を開けば勉強や将来の事ばかり。忙しいから話は今度、聞くって言ってそのまま。結局、目に見える数字でしか判断してくれないわ。男の連中なんて体目当てに嫌がらせ。分かる、、?信用していた彼氏が私の裸の写真を友達に売ってたのよ」
僕は言葉が出なかった。根暗で臆病な僕でもここまでされた事はない。
山下「ちなみに今のは本の一部だから。もう信じたくない。裏切られたくないのよ」
山下さんの顔はとっても疲れていた。疲れてはいるが、そこそこ綺麗な容姿である。綺麗だからこその悩みでもあるのか。正直、何て言葉をかけていいか分からない。こんな時、一歩なら、、、なぜ大事な時に君はいないのか。
そんな時、校内のチャイムが鳴った。空気の読めないチャイムだ。すると放送が流れ始めた。
@「皆さんこんにちは。放課後をいかがお過ごしだろうか?今日から放送委員会の企画、皆の声を聞かせてをスタートです。担任は一歩がお送りします」
放送の主は一歩だった。一歩って放送委員会だったのか。一歩よ放送などしている場合ではないです。とお便りを送りつけたい。
ドンペイ「あいつ何やっとるかの」
ドンペイも同じ事を考えていた。でもスピーカーからは心地よい音楽が流れていた。心のドアをノックするような爽やかな音楽だった。そして一歩は語り出した
@「今、僕らの取り巻く環境ってとっても暗いよね。周りは壁と落し穴ばかり。時には元気もなくすだろう。だから元気を送る為にこの企画は始まりました」
この状況にリアルタイムな内容に山下さんも耳を貸しているようだ。流石、不思議少年。なんとかしてくれ一歩よ。
@「今日ははじめてと言う事でお便りはありません。だから僕から皆にエールを送ります。
真っ暗なトンネルにいる君。大丈夫。光はあるから。それは君
あなた自身が太陽の輝きを持っているのだから
イジワルされる事があっても、あなたは決して悪くない
思いっきり幸せになって見返してやろう
誰よりも素敵なあたなよ
苦しい時もあなたは綺麗だ
辛い時でもあなたは素敵だ素敵だ
寂しく思う時もあるさ
自分が小さく感じる時もある
どんなちっぽけな悩みでも
それに負けない君は美しい
あなたはあなた
君は君
無理に変わらなくてもいいんだよ
悩みも短所も全部があってあなたができている
そのままでいい誰にも君には勝てないから
あなたは偉大な人です
ニッコリ微笑むと天女が舞う
太陽と月、星の群生が挨拶しに空に現れる
雲の上には常に太陽がいる
太陽より輝く君が笑顔の花を咲かせたら
今度は君が照らす番
あなたの人生はあなたの者
君の夢はなんですか」
今にも飛び降りようとしていた山下さんだったが少しだげ躊躇しているようにも見える。行きたい希望と現実の苦悩が戦っているんだ。
ドンペイ「泣くならこっちで泣いたらどうかの」
山下さんは泣いたまま首を横に振った。説得には応じないようだ。すると屋上の扉が勢いよく開いた。一歩が放送を終えてやってきたのだ。
衛「一歩、大変なんだ、、」
僕が話し出すと一歩は
一歩「大丈夫だよ」
と一言だけ言うと山下さんの元へ駆け寄った。ガシャン。何をするかと思えばチェーンで封鎖されたフェンスのドアを破壊してしまった。そのまま山下さんの横に立った。山下さんは一歩の驚きの光景に目を丸くしている。年季の入ったフェンスとは言え普通はこわせない。
一歩「このフェンスは壊せないと普通は思うだろう。人の心も同じさ。大きな壁を前にやる前から諦める人が多い。でも君のフェンスは僕が壊してしっまたよ」
山下「私はもう嫌なの。全部が怖いの」
一歩「俺は裏切らないよ」
山下「そんなの絶対に噓」
一歩「君は今、僕が裏切ると思っているね。ならその思いを裏切ってみせるよ。大丈夫だよ」
山下さんは一歩の話だけは耳を貸していた。それは一歩が自分と同じ場所にきてくれたから。
一歩「君の夢は何?」
一歩はまたしてもとんでもない場面で凄い事を聞く
山下「なら、あなたの夢は?」
質問で返す山下さん。勿論、一歩夢は
一歩「君が自分を信じてあげることだよ。そして笑顔になってくれる事。最後に夢に向かって頑張ってくれる事。」
山下「そんなきれいごとでしょ?」
一歩「それは困った。男は皆、綺麗好きだよ。言葉も容姿もね」
くだらない言葉に山下さんは少し笑った。一歩はこの状況でユーモアを入れてくるのか。一歩の雰囲気や言葉には何故か信頼したくなってしまう力がある。山下さんも一歩のその包み込むオーラを感じているようだ。人の事を自分自身のように心配し寄り添えれば一歩のようになるのかもしれない。
山下「私も、夢ならあるよ」
一歩「どんな、夢なんだい?」
山下「実は昔から看護師になりたいの」
一歩「凄い夢じゃないか!君には君しか救えない人が絶対にいるはずだよ」
山下「こんな私にも、、、?だれも私を信じてくれないのに。」
一歩「辛い経験した人にしかつらい人の気持ちは分からないよ。君は心の傷までもケアもしてしまう最高の看護師になるんだよ。自分の可能性だけは信じないと。僕は君、以上に君を信じてるよ」
山下「私も、そうなりたいと思うよ、、でも私なんかが、、、」
一歩「なりたいじゃないよ。なると決める事さ!過去の積み重ねで今がある。今の積み重ねで未来を作っていけるんだよ。いつも今から出発なんだよ。ここにいたら駄目だ。一緒に向こうへ行こう。」
山下さんは一歩と対話をした後、フェンスの向こうからこっち側に来てくれた。少し前をむいた山下さん。でもまだ少しだけ顔は曇っているような。その時、ドンペイが何かを思ったかのように話し始めた。
ドンペイ「ワシはお前さんの言う通り嫌われものじゃ。最近まで一歩や衛にも酷いことをしたもんじゃ」
山下さんは当然、語り出したドンペイをまじまじと見ていた。
ドンペイ「皆に嫌われておる事も分かっておった。だから暴力で皆を支配しようとした。でも心は全然スッキリしんかったわ。暴力を振るえば振るうぼど苦しくなった。ただ、どんだけ脅しても殴ってもそれを受け止めてくれる奴がいた。それがこいつらじゃ。ワシは涙が出た。そして分かったんじゃ。今までワシがしてきた事は全部、自分を裏切っていた事に。自分を大切にできん奴に人は大切にできんのじゃ。お前はさんは人に裏切られたかもしれんが絶対に自分を裏切る事はしたらあかん。絶対に死んだらダメじゃ。もうワシらがおる。ワシは体も強い。スッキリするならワシを殴ればええ」
僕はドンペイの話を聞いてとても驚いた。人ってこんなに変われるんだって事に。
山下「私、友達なんていないし一歩ちゃん達が凄いのは分かるけど、まだ怖いとも感じた。でもドンペイちゃんの話を聞いたらビックリした。話しの内容よりもこんなにも変わったドンペイちゃん見て自分も少しは変われるかなって」
【どんな言葉よりも体験に勝る事実はない】
一歩やドンペイの頑張りで山下さんは前を向き始めた。校舎から見た夕日はさっきよりも綺麗に見える。だってフェンスの一部分は一歩が壊しちゃったから。
一歩、フェイスどうするんだい?
翌朝、登校すると屋上には青いブルーシートがひかれたいた。校内のお知らせを見るとフェイスが古くなった為、張替工事を行うみたい。
放課後になって、一歩に聞いてみた。
衛「フェイスの張替か一歩の仕業かい?」
一歩「いやいや。俺がフェイスを破壊した事を校長先生に言おうとしたら既に青山先生が屋上の老朽化したフェイスの張替について申請していた所だったよ」
適当先生もナイスタイミングだな。
そんな話をしているとドンペイが教室に入ってきた。よく見ると山下さんも一緒だ。
ドンペイ「失礼する」
山下「ヤッホー」
衛「ドンペイと山下さんまで」
山下「衛ちゃんもあの時ありがとうね。山下さんとか硬いからキャンディーって呼んでね」
昨日のフェンス山下から打って変わってキャンディー山下になっていた。
キャンディー「そういえば、一歩ちゃんありがとうね」
一歩「なんの事だい?」
キャンディー「今日、朝登校したら私の事を嫌がらせしてきた皆が泣きながら謝ってきたの。こんな事できそうなの一歩ちゃんくらいじゃない?
一歩「それは俺じゃないよ笑」
キャンディー「え?じゃあ誰が?」
一歩「生徒を指導するのは教師の役目さ」
そう言いながら一歩は教師机を見た。まさか青山先生なのか。
青山先生も一歩に劣らず不思議である。
約束の丘 ユッスン @kaizokuouid
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。約束の丘の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます