第3話 ドンペイ現る

 GWも終わり学校が始まった。長い連休の後には何かしら変化があるものだ。少しグレる者、休みがちになる者、遅刻が多くなる者など。しかし岐富高2年生A組の一番の変化と言えば一歩と衛が仲良くなっていた事。そして衛が前よりも明るくなった事であろう。まるで昔からの旧友のようでありクラスの雰囲気も明るくなったように感じる。クラスの皆も自然とこの変化を受けて止めていた。

 

「はぁ~い。座れよぉ」


衛は静かに着席していると、朝一番から欠伸をしてクラスに入ってくる我が担任。青山 哲史。僕は青山先生は少々適当な所があると思う。テスト前に問題用紙と回答用紙を間違えて配ったのは武勇伝の一つだ。


 青山「おい、衛。一歩はどうした?」

  衛「分からないです。けどいつものあれだと思います。」


朝礼開始5分前。一歩はまだ登校していない。一歩はよくギリギリに登校してくる。しかし彼は時計よりも正確に起きる人間。寝坊などはしない。

 

 青山「今週は毎日ギリギリ登校だな。」


青山先生の言う通り今週は特にギリギリ登校。

2日前は怪我した叔母さんを背負って病院に行っていた。

昨日はコンタクトを落としたおじさんとコンタクト探し。

回想をしているとチャイムと同時に一歩が登校してきた。


 青山「今日も何かあったのか」

 一歩「火事で取り残された人を救援していました。」

 青山「うむ。次は予鈴5分前には登校するように。」

 一歩「はい。分かりました。」


適当の神様とお節介の王様の会話についていくのは難しい。

まぁ このように人を放っておけない一歩は事件に自ら突撃しギリギリに登校してくるのだ。


 一歩「衛おはよう!」


このやり切った顔で話しかけてくるのだから何も言えなくなってしまう。


 青山「今日の欠席は姫松 美樹か。」


一歩は空席になっている姫松の席をまじまじと見た。俺には不思議に思う事がある。2年生になってから一度も登校をしていない。何度か席替えをしたものの必ず姫松と隣りの席になる。だから一俺の隣はいつも空いている。 姫松 美樹。 会った事も無いのに何故か胸の奥が締め付けられるような気がする。俺は決まって不思議な感覚になるのだった。


 青山「なら朝礼を開始する。今日も楽しかったと言える日にするように。以上」


僕のクラスの朝礼は全国でも最速だと思う。青山先生は形式的な事が嫌いなので自己流の進め方が多い。でもそれが生徒から人気で意外にこの一言に元気の出る生徒も多い。まぁ本人は適当に進めているかもしれないが。青山先生は朝礼を終えてクラスを出ていった。僕も1時間目の授業が始まるまで何をしようか考えていると、


 「誰にぶつかっとんのや!!!!」


急な怒号が学校中を突き抜けていった。どうやら廊下で誰かが怒っているようだ。クラスメイトもコソコソと話している。


「またドンペイが暴れてる。早く退学になればいいのに。」


ドンペイ、、、本名は大島 鑑太郎。僕の学校では皆からはドンペイと呼ばれている。学校一の喧嘩人。体も声と同じくらい大きい。だから余計に威圧感も半端無い。

 

 一歩「ドンペイが怒っているみたいだね」

 

一歩が僕の席まで来て話し掛けてきた。他のクラスはまだ朝礼中だ。朝礼中に廊下から怒号が聞こえてくるのだから何かあったのだろうと思った。

 

 衛「確か、、に?」


衛が口を開いた時には一歩の姿はなかった。一歩はテレポートでも使えるのだろうかと不思議に思った。僕も一歩が向かったであろう事件の廊下に行く事にした。


 僕が廊下に出るとすでに多くの群れができていた。群れに中心にドンペイと震えながら膝を付いている子がいた。どうやら廊下のすれ違いざまにドンペイにぶつかってしまったようだ。


 ドンペイ「俺に喧嘩うっとんのか。えぇ度胸やの。」

   @ 「ご、ごめんなさい。」


ドンペイは今にも殴りそうな雰囲気だ。助けを求めようと周りの先生を探すと皆、忙しい振りをして気付いてない振りをしていた。

 【いざ、という時に何もしない大人があまりにも多いのが世相である】

そんな、僕も怖くて動けない。実は前にドンペイにぶつかってしまい殴られた事がある。あれは本当に痛い。今のドンペイはその時、以上に機嫌が悪そうだ。心の警報機が鳴り響く所でドンペイの鉄拳が動き出した。

 あーあ、やばい。そして自分よ情けない。僕は恐怖に支配されてしまった自分を悔やんだ。本当にやばい。ドンペイが恐怖の鉄拳を振りかざした時、その手を掴んだ男がいた。一歩だ。


 一歩「やめろよ。」


。。。。。一歩が放ったその一言はドンペイの鉄拳と周囲の雑音を止めた。そう思える程に静かに響き渡った。


 ドンペイ「なんじゃい。お前は」


ドンペイの問いには答えない一歩。何故だろうドンペイが少し戸惑っているようにみえる。


 ドンペイ「気持ち悪いのぉ。貴様も一緒に」


その言葉を制止するかのように一歩は一発だけ大きな拍手をしてみせた。拍手の音は大きく響きドンペイもその音に刺されたかのようだった。ドンペイは一歩の剣幕に恐怖を覚えている事にまだ自覚がなかった。

 僕は一歩のいつもと違う雰囲気に驚いた。いつもは何でも包み込む太陽のような一歩。今はいつもとまるで違う。まるで鬼のようだった。

 ドンペイも拳銃を突き付けられているような重圧を覚えた。


   一歩「イジワルをするのをやめるんだ。」

 ドンペイ「弱い者イジメの何が悪いんじゃ。弱いのが悪いのじゃ。」

   一歩「違う!弱いのはお前だよ。」

 

弱いのはお前。この発言にドンペイは大きく動揺した。


   一歩「お前の夢って何だ?」


こんな場面で一歩は凄い事を聞く。


ドンペイ「力で全てをねじ伏せる事だ」


お粗末な夢だがドンペイは素直に答えていた。


  一歩「お前はその夢に命を懸けているのか」

ドンペイ「夢如きに命を懸けるわけないだろがぁ」


ドンペイを見つめながらゆっくりと一歩は話し始めた。さっきの剣幕は消えてどこか温かい目をしている。


  一歩「だから君は弱いんだよ、ドンペイ。人の強さは心で決まる。何があっても悠々と乗り越える心。自分の夢に命を懸ける。それが本当と強さだよ。君は今、自分の命を粗末にしているよ。」


夢に命を懸ける。僕の心にも今の一言は刺さっていた。夢に命を懸ける。だから一歩は強いのか。


  このドンペイ事件は予想外の展開で幕を閉じた。ドンペイは何も言わずにその場から去っていったのだった。

僕は少し興奮していた。 声で暴力は止った事に。 一歩の夢世界平和ってこういう事なのかな。そう考えるとドンペイとは正反対だった。何かを恐れて暴力をふるうのが悪。声を惜しまず叫び続けるのが正義。僕はそんな事を考えながら教室に戻ると目の前に担任の青山いた。慌てて今の事件を報告しようとすると、


青山「一歩が何とかするだろうよ」


一歩を信じての言葉か。いや適当なんだろう。


~呟き~

昼は窓から丘を見ている。夜は丘に来て町と空を眺める。空を考えながら思いにふける。2年生になってから一度も学校に行けていない。ある日から人の顔に表情がなくなってしまた。真っ白な鉄仮面に見えた。いつか学校にいけるようになるのを信じて待つしかなかった。信じて待つ。簡単そうでとっても難しい。


ドンペイ事件の後は静かに時が過ぎていった。一歩にもこの平和な感じを話すと一歩の反応は以外なものだった。


一歩「悪い事が起きる前に予兆なんてないものさ!」


衛は一歩が言うと実現してしまいそうで嫌だった。一応、油断禁物アンテナは張ることにした。

そんなある日、一歩は病院に運ばれた。体育の授業で頭を強く強打した。本人は大丈夫そうであったが念の為、検査も兼ねて早退したのである。一歩のいないクラスは何となく静かだ。一歩の机も体育に行ったままだから整理しようとした時、


ドン!


クラスのドアが力強く開けられた。開けたのはドンペイだった。一歩がいない状態でドンペイに会うのは戦いに武器を持たずに参加するような気分だった。


 ドンペイ「今日は平和主義者はいないみたいだな。」


とても嫌な顔をしてみせるドンペイ。ドンペイは一歩の机から鞄を奪いそのまま部屋を出ようとした。一歩は以前、「嫌な時に限って嫌な事は重なる」と言っていたけど、まさにそれが今だ!それを言ってる本人はいないが。

一歩の鞄には財布が入っている。それに宝物の石も入っている。いつもは身につけているけど体育の時は外して鞄にしまっているのだ。


 ドンペイ「じゃあな。」


ドンペイが鞄を持ったまま教室を出ようとしている。衛はかつてないほど頭の中で考えていた。

止めなくちゃ! 言うわなくちゃ! でも駄目だ言葉が出ない。体の震えが止まらない。もし、こんな時、一歩っだたら、、、

ー自分の夢に命を懸けろよー 一歩だったらそんな事を言う気がした。一歩が約束の丘で言った事。-夢は自分の為- そうだ今度は僕の番だ! 言葉とは不思議だった。脅しにもなれば人の背中をも押す事がある。

  

  衛「待て。ドンペイ!その鞄は一歩のだ」


ドンペイは振り返った。クラスの皆も衛を注目した。臆病で根暗だったはずの衛が立ち上がっていた。友の為、自分の為、約束の為に


 ドンペイ「お前は前に殴られて大泣きした奴じゃな。今何を言ったのか分かっておるかの?」


 ドンペイはとっても怖かった。駄目だ。やはり震える。でも一歩が言ってたチャンスの時。それが今だ

 

   衛「君は間違っている。それを返してくれ」


衛はその言葉を言った時、地面に倒れていた。ドンペイは躊躇なく殴ってきたのである。痛い。本当に痛い。痛みが決意を削ぐかのようだった。決意が薄れていく所に臆病や不安が簡単に侵入してくるのだ。


  ドンペイ「たわけがぁ」


ドンペイがもう一度、衛に目をやると倒れていたはずの衛が立ち上がっていた。その事に衛自身も驚いていた。

【何のために挑むのか。それを知った人は強くなる】

ドンペイは驚いた。立ち上がった衛は要塞のようだった。クラスの皆もそのように感じていた。衛は鞄にしがみついたが簡単にはがされた。するどドンペイは何を思ったのか。


 ドンペイ「この鞄を返して欲しければ3丁目の丘に来い。そこで待つ」


3丁目の丘というのは約束の丘の事だ。学校は終わり衛は約束の丘に行こうか迷った。でも今度は僕が一歩を護るんだ! 約束は守ってこそ約束。その決意が衛を約束の丘へと向かわせた。

約束の丘に着くと既にドンペイがあぐらをかいて待っていた。


 ドンペイ「遅いのぉ 来んかと思ったが」


いつも平穏な丘に猛獣がきたようだった。正直、怖い。ジェットコースター嫌いなのに乗ってしまったような感覚。まぁ 安全バーなど何処にもないけど、、


 ドンペイ「ワシはのぉ」


ドンペイが唐突に話話し始めた。ドンペイの一人称ってワシっだたのか。


 ドンペイ「喧嘩も世の中も同じじゃ。弱い者が悪い。力が一番早い解決手段じゃ」


ドンペイは勿論、話し合いなどする気はない。覚悟はしていたがこの後、生きているだろうか、、、


    衛「鞄はどうした?」

 ドンペイ「ここにある」


鞄はしっかりと持ってきたようだった。よく見ると鞄が汚れないように袋に入っている。意外な面もあるようだ。


 俺は考えても仕方ないと思い鞄に向かって勢い良く突っ込んでみた。決意虚しくドンペイに投げ飛ばされた。痛い。そしてドンペイはでかい壁のようだった。


   衛「うぐぅ  ハアハア」


もう何回、飛ばされただろうか。何回飛ばされても突っ込む。そして立ち上がる。衛は気づくと臆病にはとっくに勝っていた。


 ワシは何回、奴を投げ飛ばしただろうか。それでも、あ奴は何回も突っ込んでくる。気のせいだろうか。起き上がる程に勢いがましているような。ドンペイは少しづつ衛に恐怖を抱いていた。


   衛「僕は自分が嫌いだ。でも自分と向き合う事はしてこなかった。だって自分が弱い事を認めるのが嫌だったから。君もそうなんだろ?暴力なんかで自分から目を逸らすなよ」


ドンペイは暴力で自分から目を逸らしていたとは思わなかった。でも、一歩と衛が言ったセリフがずっと頭から離れない。


  衛「君が勝たなければならないのは一歩でも僕でもない。きみ自身だ。支配しなきゃいけないのはわがままな自分の命をだよ。」


そういって突進してくる衛。ドンペイにはまるで衛が要塞のように感じた。

臆病を乗り越えた衛と恐怖を抱いたドンペイ。衛の突進にドンペイ大きく倒れた。


  衛「これは返してもらうよ」


ドンペイはすぐにでも取り返そうとしたけど体に力が入らなかった。衛の奴は何度でも立ち上がったというのに、、、、。


 ドンペイ「ワシは負けたんかい」


衛は倒れたままのドンペイを見た。あの威勢はどこにいったのか。倒れたままのドンペイはあまりにも弱い声だった。


   衛「君はずっと、ずっと倒れたまま起き上がってないんだと思う。」


ドンペイは何かを言いたそうだったけど言葉が詰まっている。


   衛「前に一歩が言ってたよ。ドンペイは実はとっても優しい心を持っているって。そして見た目とは裏腹に繊細で不安も固まりだよって。本当は皆と仲良くしたいんだってさ」


話している途中、ドンペイは泣き出してしまった。


  衛「ドンペイに必要なのは力ではなく仲間だってね!もう自分を恐れるなよ。僕も一歩も傍にいるから」


ドンペイは大きく息を吸ってゆっくり、ゆっくり、息をはいた。沢山、溜めたから。


  ドンペイ「おめぇはこんな俺を仲間と」呼んでくれるんかい」


     衛「もう喧嘩友達だろ?」


ドンペイは泣きじゃくりながら言った

 

 ドンペイ「一歩にも酷い事を言ったがのぉ」


    衛「一歩、言ってたよ。ドンペイが過ちを気づくまではそれを止めてあげるんだって。でも前を向いた時は一緒に進もうって!」


ドンペイは遂に号泣し始めた。衛は今日一の危険警報を感じ取った。でも遅かった。男泣きするドンペイにガッチリ抱きしめられた。色々あったけど一歩、勝ったよ


翌朝、一歩は病院から無事に戻ってきた。診察を受けた病院でバイオテロに遭ったようだったが気にしない事にした。昨日の事を伝えようか迷ったけど、何も言わなかった。だって朝の挨拶がおはようではなくありがとうだったから。おそらく分かっているんだろうな。そしてなぜか、一歩の後ろにはドンペイもいた。ドンペイの顔はスッキリしていた。ドンペイは僕にだけ聞こえる声で話した。


 ドンペイ「そこで一歩に出会ったんじゃ。ワシから声を掛けるのも気まずくて躊躇しておったら、あ奴から話し掛けてきたわ。一緒に進もうなって。どうやら全てお見通しのようじゃ。あ奴には。」


やはり一歩は不思議だ

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