第一章 11 『八人の魔法使い』

「一葉ちゃん、 行こう」


 真堂が病院を飛び出して少し経った頃に桂川は金井の手を取りながら病院を後にした。

 しばらく二人は黙ったまま歩いている。 桂川が手を引き金井と歩いていた。 


 日が落ちた時、 二人は歩の部屋の前まで着ていた。 インターホンを押すと中から歩が顔を出し、 二人を部屋へ招き入れた。

 部屋に入るとそこには野々山や八代、 藤ヶ谷も重い空気の中、 各々床やイスに座っている。


「昇飛は?」


 歩は二人と一緒に部屋へ入りながら尋ねる。

 金井は責任を感じているのか泣きそうな顔でまだ繋いでいる桂川の手を見ている。


「あのバカ。 目を覚ましてから一人でどっかにいった」


 桂川は少し間を開けてから歩の方を見るでもなく背中を向けたまま言った。


「どっかにいった!? どうして!?」


 藤ヶ谷が立ち上がりながら激しい口調で二人を責め立てる。


「ごめんなさい。 私が悪いんです。 私が真堂くんに酷い事言っちゃったから」


 泣きそうになっていた金井が繋いでいた手を解き、 藤ヶ谷へ一歩近づきながら言った。

 その言葉に藤ヶ谷含め部屋の者は金井に視線を集める。


「悪いって? 何かあったのか?」


 歩はそっと金井の側まで寄り、 問いだす。


「──私……私が真堂くんには自分の事しか考えてないって。 誰も守れないって。 ──間違った事言って傷つけちゃった。 それで真堂くん、 病院を飛び出したの。 全部……全部私のせいなの」


 袖では拭きれぬ程の涙を流す金井を桂川は背中を摩る。


「ううん。 一葉ちゃんは悪くない。 あいつも一葉ちゃんも動揺してて思ってもないこと言っちゃったんだと思う。 私も……私も酷い事言っちゃったしね」


『動揺』という言葉に歩は疑問を抱いた。


「動揺? 動揺ってどういうこと?」


 それを聞いた二人はまだ重要な事を言っていない事に気づき、 顔を見合わせる。

 そして、 桂川は金井に頷き自分がことの全てを話す事を伝える。


「香帆ちゃんと銀治くんも歩からさっき聞いたと思うけど、 こたいだ昇飛が商店街で吸血鬼のダニールって人と戦ったって聞いたでしょ? ──昇飛に大怪我を負わせたのはそのダニールの仲間なの」


 一同は神妙な面持ちで聞いている。 歩はやっぱりかといった具合にため息を溢す。


「──それで……その時になんらかの形で田宮さんも巻き込まれて、 ──その仲間に連れ去られたの」


 それを聞きその場にいた二人以外の四人は息を呑み、 野々山は目を見開きながら顔を上げた。


「え……佑奏が……なんで」


 野々山は震えた声を出しながらゆっくりと二人に近づいてくる。

 そして、 金井の両肩を縋るように掴んだ。

 金井も何も言えずにさらに大粒の涙を流しながら、 同じく縋るように野々山の手を握った。

 部屋にはしばらく金井と野々山の嗚咽だけが響き渡る状況が続いた。


「今は泣いていても仕方がない。 これからどうするか考えよう」


 歩は一同の中心に進み出て呼びかけるように言った。

 それを聞き、 八代もわずかに頷く。 藤ヶ谷もメガネの奥で静かに怒りの炎を灯していた。

 野々山も涙を拭い、 歩の方へと顔を向ける。 桂川もまだ泣いている金井を抱き寄せながら歩の方を決心した面持ちで見ている。


「玉夫、 目で追うことはできるか?」


 歩は賢者の魔法い八代に聞いてみたが、 彼は首を横に振っている。


「無理だと思う。 前にも言ったが俺の目は魔法の念なら追える。 だが、 おそらくその仲間も吸血鬼だろう。 吸血鬼は吸血鬼としか群れないからほぼ間違いない。 魔法を使わない奴の事は追えない」


 その場にいる一同は一つの希望の光が潰えた事で落胆する。 あまり手もない中でこの状況は最悪だった。 


「その月野って人に相談してみたらいいんじゃないのかな? 何か力になってくれるんじゃ?」


 そう言った野々山の言葉に桂川は反対する。


「いいえ。 それはやめといた方がいいと思う。 確かに月野さんたちは私たちに協力はしてくれると思う。 でも彼たちも私たちに攻撃を仕掛けてくるかもしれない。 一刻も争う場面でそうなれば田宮さんの救出も送れて最悪の場合──」


 桂川も流石にこの先は言うのをやめようと黙りこくる。

 そして、 また希望の光は潰え、 振り出しに戻った気分になった。


「──こうなったらあの人にも現状を説明するしかないんじゃねーの」


 八代はそう言いながら歩の目を鋭い眼差しで見た。


「倫太郎さんか?」


「ああ。 あの人ならどうにか情報を掴んでくれるんじゃないのか? ユアライフカンパニーもあの人が情報源だろ。 戦えない分だけ違う方面で協力をするって言ったのはあの人だ。 今こそあの人の出番だろ」


「──たしかに今は倫太郎さんに頼るしかないみたいだな。 迷ってる猶予もないからな」


 そういって歩は携帯電話を取り出し、 何やら文字を打ち込み出した。


「でも思ったんだけど角田さんはなんで戦わないんだ」


 文字を打ち続ける歩を尻目に藤ヶ谷が聞く。

 それを聞いた八代が今更かといった風に鼻から息を吐き、 答えた。


「倫太郎さんは自分の召喚獣を愛している。 その召喚獣を争いのために使いたくないらしい。 あの人も本当にこれでいいのかと悩んでたよ。 でも、 彼が出した答えだ。 俺らがとやかく言う筋合いは無いだろ」


 それを聞いた藤ヶ谷は納得できないと口を尖らせた。


「──よし、 送信完了。 とりあえず今どんな状況でどんな情報が欲しいかを倫太郎さんに伝えた。 後は倫太郎さんが情報を掴めるかどうかだ」


 歩はポケットに携帯を入れてから玄関のドアへと向かっていった。


「どこ行くの?」


 桂川はドアを開けて部屋から出ようとする歩に聞いた。


「倫太郎さんには田宮さんを探してくれって連絡した。 なら僕らは昇飛を探すんだ。 ──何か悪い予感がする。 早くあいつを探し出して昇飛と倫太郎さんとここにいるみんなで協力して田宮さんを救おう」


 そして、 部屋にいた五人は歩に続いて外へと飛び出した。

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僕は防御魔法しか使えない 佐藤チアキ @satou_tihiro

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