カケラを埋めるのは

 これは、完成されていない物語。

 数多くの場面シーンが省略され、散りばめられた伏線も放置され、果てにはどの終わりエンドにも辿り着いていない、不完全な物語。


 きっと君たちは、戸惑うだろう。


「彼らに何が起こったのか?」

「アレは一体どういうことなのか?」

「彼らはこの先どうなっていくのか?」

「その国では何が起きたのか?」

「そもそも彼らは何者なのか?」


 もちろん、は存在する。隠された真実は、確かにそこにある。

 しかし、それらが明るみに出ることは無い。

 

 君たちは、さらに困惑するだろう。


「なぜ大事な部分シーンを見せないんだ?」

「全てを明かしてこその物語———小説ではないのか?」

「こんなものは駄作だ。小説ですらない」


 まさしく、まさしく、まさしく。

 全くもってその通りだ。これは君たちの知る『小説』——『物語』とは大きくかけ離れ、原形をとどめていない。

 まるで初めからピースの欠けたジグソーパズルのように、この物語はあらゆる重要な部分がことごとく隠されている。


 だからこそ、君たちに問おう。


君たち読者は、この先の展開をどう考える?』


 物語とは、想像力の結晶だ。

 作者はその想像力で、神のように幾つもの世界を作り出し、そのカケラを大衆に向けて発している。


 物語は、その世界の側面の一部にしか過ぎない。作者は、その一部しか見せてはくれない。当然、以外のことも知っているというのに。

 作者は、世界の全てに光を当てることはしないのだ。


 ならば、暗闇を照らすのは誰だ?

 その小説の、物語の、世界の暗闇に光を差し込ませることができる存在は一体誰だろうか?


 ——君たちしか、いないだろう。


 それはとても困難だ。いくら考えたとしても、あくまで憶測の域を超えることは決してないだろう。

 しかし、だからこそ、その世界は完成する。

 少なくとも、についてはそうなのだ。


 カケラは用意した。バラバラのピースは、こちらが準備した。

 その隙間を埋めるための接着剤は……君たちの『想像力』だ。


『君は、彼らが何を体験したとする?』

『君は、その伏線にどう決着をつける?』

『君は、この先をどうなっていくと予想する?』

『君は、この世界の果てに何を用意する?』

『君は、彼らを何者と定義づける?』



 世界は1人にたった1つしか与えられない。

 だが、1人に世界は無数に存在している。

 想像力によって、カケラの隙間は綺麗に埋まってくれる。


 君のにより、この不完全な物語は『君だけの物語』に昇華する。

 カケラを埋めるのは他でもない、君たちなのだ。

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スーサイド・プリンセス チョコチーノ @choco238

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