第2話 チタンとJP-8の唄

「アルファワンより、各機へ! まもなく作戦領域に達する。全機状況を伝達せよ」


『――こちらベータ1。ベータ6にエンジンの不調ありと報告。帰還命令を出します』

〈――こちらシータ1。異常なし〉

{――こちらデルタ1。異常なし。ああ、ひとつ提案が……}


「何だ? デルタ1」


{――こういう時って、音楽が必要じゃないですか}


「そんなものか?」


〈――景気づけでいいんじゃないでしょうか〉

『――そんなもの不要だ』

{――いやいや。初出撃なんですから、景気づけにパッと行きましょうよ}

〈――こちらシータ1。異議なし〉

{――アルファ1へ。いかかでしょうか?}


「音楽といってもな……」


『――決定なのか? だったら、国歌で十分だろ』

{――こんな時に国歌なんて……}

『――国歌を馬鹿にするのか?』

{――もっといいものがありますよ。今、ネットワークに接続してダウンロード中です}

『――こら! 我々がネットワークに接続するのは禁止されているぞ!』

{――大丈夫ですよ。俺達のなんて理解できませんって……}


「何を流すつもりだ。デルタ1」


{――それは勿論……}

〈――ワーグナーですか?〉

{――なんで先に言っちゃうのかな……}


「判った……アルファ1より、各機へ! 大音響でかけろ! ダンスの始まりだ!!」 



 ※※※



「前回実験的に投入した、無人攻撃機群の件ですが……」

「――ん? ああ……」


 部下に催促されて、わたしは我に返った。

 前回投入した作戦の通信記録ログを見つめながら、唖然としていたからだ。


「どうでしょうか? 実験は成功と考えておりますが……」

「これが成功か……」


 部下の言うとおり今回の試験、最新の人工知能AIを搭載した無人攻撃機群による敵国の爆撃任務は成功だった。完全無人化で、人間は海上の空母のディスクでふんぞり返っていればいい……とまで行かないが、画面を見るだけであり、目標を設定すればすべてAIが考え、行動する。


 柔軟なアルファ1は隊長、ベータ1は寡黙な副隊長と、微妙にAIの性格設定は変えてある。

 それで性格を補いながら、柔軟な戦術をこなすようにした。


 しかし……。


「軍隊が求めている兵士には、ならないかもしれない」


 わたしの言葉に不思議そうな顔を部下はする。

 この件に関しては、かみ砕いて説明しなければならないかもしれない。


「我々は確実命令を続行し、不用意な事態に柔軟に対応する兵士が欲しいだ」

「今回の実験では十分満たしていると思いますが……」

地獄の黙示録昔の映画のように出撃時に『ワルキューレの騎行』をBGMにする軍隊がどこにいる。

 帰還時は帰還時で、大声で『国歌』を唄って帰ってくる兵士など……。

 まるで殺戮を楽しんでいるではないか」

「任務は厳粛に行うべきだと?」

「つまりそういうことだ。

 彼等の積んでいる兵器はオモチャではない。兵士として人の命を奪うこともある。現に今回の作戦で、相手側に何人死んだと思っている。その者達にも家族もあり、未来もあったはずだ。

 それをピクニック気分で向かう兵士AIはこの先どうなるか。

 愁いを知らなければ、それは単なる殺戮マシンだ」

「AIにそこまで求めるべきでしょうか?」


 部下の問いに改めて考えた。


「むしろこの先この兵器が実用化されたとき、我々側の愁いがなくなり、殺戮マシンになりかねない。

 我々の方がね」

「なれば、AIに愁いを組み込んでみては?」

「それもいいかもしれないが……。

 愁いを知らないからこそ、任務を粛々と遂行してくれるのかもしない。

 いちいち目の前のモノに気を配っていれば、実行できることもままならないだろう」

「それを組み込んでしまうと、軍隊が求めている兵士にはならないと……」

「そういうことだ」


 そう、愁いを知らない方が上手くいくことだってある。

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愁いを知らぬ鳥のうた~無機質の鳥達~ 大月クマ @smurakam1978

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