愁いを知らぬ鳥のうた~無機質の鳥達~

大月クマ

第1話 アルミとガソリンの唄

 僕には秘密がある。

 軍隊の強力な空中聴音機でトリの鳴き声を聴くことだ。


 キジやカモ、ツバメ、チドリ、サギなどなどいろいろと巨大なコンクリート製の音響反射鏡はひろってくれる。

 朝から晩まで僕は、一人静かに聴音機に耳を傾け続けているのだ。


 ――トリ達は今の世界の状況なんて知らないのだろうな。


 耳に繋がっている聴音機は、大陸から飛んでくるガソリンで動くアルミニウムで出来た飛行機エンジン音鳴き声を聴くためのものだ。


 いつ飛んでくるか判らない鳥の鳴き声。


 僕の任務は空中聴音機に耳を傾け、飛んでくる航空機のエンジン音を聴き、その方角を報告する。僕が耳を傾ける空中聴音機が国にはいくつもあり、その報告によって三角測量で接近する航空機の位置を知るわけだ。

 そして、空軍上層部に報告が上がり、迎撃機が出撃する。


 僕らの後ろには何万もの市民が、普通の生活をしている。それを守る大事な仕事だ。

 だけれど、めったにアルミで出来た鳥は海峡を渡ってくることはない。


 暇で退屈しないかって?


 そんなことはない。

 ずっとトリ達の鳴き声を聴いていられる大好きな仕事だ。

 規則で交代しないといけないけれど……できれば、僕はこの部屋の中でひとりで聴音機に耳を傾け続けていたい。だけれど、規則で交代しないとね。


 そろそろ交代時間だ。

 折角、カモメの歌を聴いていたのに……あれ?

 かすかに響くアルミとガソリンの鳥の唄。エンジン音だ。


「方位一八〇により、感あり!」


 報告を上げると、決められた手順で空軍が動き始める。

 この先どうなるのかは僕には解らない。僕は巨大な組織の歯車でしかないのだ。

 後は迎撃機が潜入する航空機を、迎撃してくるる事を望むのみだ。


 そうでなければ、僕らの後ろにいる人達に被害がでる。


 ――トリ達は今の世界の状況なんて知らないのだろうな。世界がふたつに分かれて、戦っていることなどと……。


 明日、命が無くなるかもしれない僕達。そんなことを思わないトリ達。

 僕が空中聴音機でトリの鳴き声を聞き続けるということは、戦争が続いているということだ。


 トリの唄は聴き続けたい。でも、アルミとガソリンの鳥の唄はゴメンだ。


 僕が鳥の唄を聴かなくなるときが、戦争の終わりかもしれない。


 僕はどうしようか?


 大学に行ってトリの研究をしたい。美しいトリ達の唄を聴き続けられるではないか。

 でも……それはいつのことなのか――。



 ※※※



「この部隊の解散が決まった」


 ある日突然、上官からそう聞かされた。

 最初は何のことなのか判らなかったが、だんだんと頭の中が整理されていき、行き着いた先は……


 戦争が終わった。


 ついに僕が鳥の唄を聴く必要が無くなったということか。

 これで大学に行って、美しいトリ達の唄を聴き続けられる……。


「あっ、それから君」

「僕ですか?」


 解散する仲間の中から僕が上官に呼び止められた。


「君は優秀な操作員だ。新しく新設される部隊に推薦をしておいた。頑張ってくれたまえ」


 上官は得意げに僕にそう言った。


「あっ……ありがとうございます!」


 よくよくは考えてはいなかった。軍隊の形式的に返事をしてしまった。

 アルミとガソリンの鳥の唄を聞き続けるのはゴメンだ。


「新型のレーダーの操作員候補だ。しっかりと国のために働いてもらいたい」

「レーダー?」


 聞き慣れない言葉につい聞き返してしまった。


「それはどんな唄が聞こえますか?」

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