夢の荒れ模様はどっち向き?

ちびまるフォイ

夢天気は幸せ模様

「現在、日本列島に接近している夢台風18号は

 以前強い勢力のまま北上しています」


テレビのレポーターは心配そうな顔で天気図を解説していた。


「どうしよう、明日は休みだっていうのに。

 夢台風で夢が大荒れになってしまう」


男は平日にために貯めていた睡眠不足を休日を使って

一気に片付けようと考えていた矢先の夢台風。


眠ってしまえば大荒れの夢模様で悪夢は免れない。


「無理に寝てしまえば悪夢に長い時間うなされてしまう。

 これじゃ疲れが取れるどころか精神が病んでしまう……そうだ!」


男は薬局に向かうとカゴいっぱいにたくさんの不眠アイテムを買い込んだ。

レジの店員も「こいつ大丈夫か」と心配そうな目で見てくるのでウインクで返す。


家に戻ると、男はブラックガムを噛みながらコーヒーをがぶ飲み。

まぶたを洗濯バサミで止めて、水風呂につかった。


夢台風はついに上陸する。


「寝るものか! 絶対に寝るものかーー!!」


口をガチガチ言わせながら必死に疲れに導かれた強烈な睡魔を

さながら悪魔祓いのように叫んで眠気をはらった。


やがて……。


『夢台風は拡散して、夢低気圧に変化しました。

 みなさん、今日はきっといい夢が見られますよ』


「か、勝った……!!」


もう少しで眠る寸前だったが、体中が真っ赤になるほどつねったかいがあった。

男はベッドの支度を整え、ホットミルクを飲んでやすらかな気持ちで布団に入る。


つけっぱなしだったテレビを消そうとリモコンを手にとった時。


『た、大変です!! 夢乱雲が!!』


さっきまでえびす顔だったリポーターが顔面蒼白。

コロコロ表情が変わりすぎて表情筋はちきれるくらいの顔芸を見せていた。


『みなさん、夢台風18号が比較にならないほどの

 危険なスーパー夢セルが拡大しています!!

 こちらでいったん避難状況を調査して報告しますのでスタジオにお返しします!』


カメラがスタジオに切り替わる。

夢台風の報道で連日眠れていなかったアナウンサーが居眠りをしていた。


とたんに、ビクッと体を痙攣させると白目を向いて叫んだ。


「うああああ!!! 助けてくれぇぇぇ!!」


アナウンサーは超大荒れの夢模様により恐怖で死んでしまった。

恐怖で人が死ぬなんて信じられなかったが、この目で見た以上は信じるしか無い。


「うそだろ……こっちはもう寝る気マンマンだったのに!」


男はパジャマを引き裂きジャージに着替えると、

眠気を覚ますためにあたりを必死にかけずりまわった。


それでも体の深いところで湧き出した眠気は体から離れてくれない。


「このままじゃいつか眠ってしまう」


男が迫りくる悪夢に絶望した時、町内に車が巡回し始めた。


『〇〇町のみなさん。ただいま巨大夢乱雲が接近しています。

 最寄りの夢シェルターに避難してください』


「夢シェルター! そうだった!!」


定期的にポストに入っている町内の避難スポットを男は思い出し、

夢シェルターの場所へと向かった。


けれど、すでにそこにはたくさんの人が眠って横たわっていた。


「あの! 私も夢シェルターを使いたいんですが」


「見ればわかるだろう。こっちはもういっぱいいっぱいなんだ。

 ぎゅうぎゅうになったらいい夢が悪夢になっちまう。よそをあたってくれ」


「よそって……。ここ以外に夢シェルターはあるんですか!?」


「探せばどこかにはあるんじゃないか……?」


「こっちはもう眠りの瀬戸際なんですよ!」

「こっちだって早く眠って良い夢見たいんだよ!!」


ネグリジェ姿の避難民に追い出されてしまった。

探してみても夢シェルターは他にない。


「悪く思うな……」


夢シェルターの扉がしまる寸前に避難民の声が聞こえた。


夢シェルターであれば夢模様に限らずいつも同じ夢が見られる。

けれど、外はすでに凶悪な夢模様に様変わりしていた。


「ああ……ど、どうしよう……」


棚上げされてきた眠気が雪崩のように押し寄せてくる。

脳裏には夢に殺されたアナウンサーのひきつった顔が浮かんだ。


「眠るものか……眠るもの……か……」




※ ※ ※



『みなさん、荒れていた夢模様はすっかり治りましたよ。

 これでもう大丈夫です。お疲れさまでした』


「ああ、よかった。眠っていたらあっという間だったな」


夢シェルターで体を起こした避難民はニュースをみてホッとした。

罪悪感が思い出されないように必死に追い出した男のことは考えないようにしていた。


だが。


「あ、あんた!? 夢シェルターの外にいたのか!?」


避難民は夢シェルターの外にいた男に驚くのと同時に安心した。


「よかった、大丈夫そうなんだな。

 あの夢模様のなか本当に無事に起きられてよかったよ」


避難民はにこやかに笑って握手しようと手を伸ばした。

男は握手に応えた。


「俺が無事だなんて、ずいぶんといい夢を見ているんですね」

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