異世界転進

@HasumiChouji

異世界転進

「古兵どのぉ〜‼ しっかりして下さぁ〜いッ‼」

 上等兵が叫びを上げる。

「○×△□〜‼」

 近くの村の村人から、食料を徴発して、ようやく一息つけたと思ったら、小隊一番の馬鹿がやらかしやがった。

 ここ1〜2ヶ月、ロクな飯を食ってないのに、慌てて大食いしたら、当然こうなる。

「曹長……この場合、どう手当をすれば……」

 小隊長が、俺にそう聞いた。一応は少尉だが、青っちろい大学生だったのが人手不足で予備士官学校に叩き込まれて、少尉に仕立て上げられたヤツだ。

 根は良いヤツだが、何か起きると、鍍金が剥げて、娑婆っ気を出してしまう。

「助かったと思った途端に、一番面倒なのが勝手に死んでくれるんですよ。万々歳でしょう」

 そうだ。今苦しんでるのは、我が小隊の最大の問題児である万年一等兵だ。

「……なあ、俺達、戦争が終った後、マトモな生活が出来るのかな? 味方が死んでも、人を殺しても、何とも思わない人間になっちまったんだぞ」

「そんな心配は、戦争が終ってからやりましょうや。戦争が終るとすればね……」

 そもそも、戦争が終るも何も……俺達は一体全体、どう云う状況に置かれているんだ?


「貴様らかッ⁉ 村人を虐殺したモンスターどもはッ‼」

 誰? ……そう思って、声のした方向を見ると、西洋のおとぎ話にでも出て来そうな一行が居た。白人にしか見えないのに、何故か日本語を話している。

「えっと……これ、どう云う状況?」

「何故か助かってから、訳の判んない事ばっかりですぜ、イチイチ、考えるのは止めましょうや。おい、全員、構えつつ

「曹長殿……弾が有りません」

「へっ⁉」

「さっきの徴発で、弾を全部使い果たしました」

 しまった……。

「哀れなる亡者どもよ、汝らのあるべき場所に戻れ‼」

 謎の一行の中の1人の女が、そう叫ぶと……。

「おい、おい、おい、何だ、こりゃぁぁぁぁ⁉」

 味方が次々と消えていく……。

「……どうしよう、曹長?」

 残ったのは、俺と小隊長だけだった。どうやら、女の体から出た謎の光に、人間を消し去る力が有るらしく、たまたま、その光が当たらなかった俺達2人が助かったらしい。

 でも、ちょっと待て、亡者って、どう云う事だ? あと、人間を消し去る光を出した、あの女本人やその仲間は、何故、その光を浴びても平気なんだ? まぁ、いいや。

「考えても仕方有りませんぜ。とりあえずは、生き延びる事だけを考えましょうや」

「そうだな」

 俺と小隊長は軍刀を抜いた。それに対して、謎の一行の中の何人かも、剣を抜いて、こちらに駆け寄って来る。

 ガチン‼

 俺と敵の1人は剣を交え……あ、しまった、ここんところ、軍刀の手入れをする余裕すら無かったんだ。

 ……錆だらけになった軍刀は、やたらと頑丈そうな大剣によって、あっさりへし折られた。

 嘘だ……栄えある「烈」師団の一員である俺達が、こんな所で、こんな死に方を……って、「こんな所」も何も、ここどこだよ⁉


「結局、何者なんだ、こいつらは?」

「どうも、ここは古代魔法王国の実験場だったみたいですね」

「実験?」

「他の世界への門を開く実験ですよ。で、そう云う場所では……稀にですが、他の世界で大きな苦しみや怒りや悲しみのせいで、その世界の『あの世』に行けなくなった魂が、アンデッドとして顕現してしまう事が有るみたいです」

「じゃあ、こいつらは……」

「多分、他の世界で、何か悲惨な戦いが有って……それで死んだ兵士でしょうね」

「なるほど……哀れな目に遭ったヤツらが、アンデッドになってこの世界に顕現し、訳も判らんままに村人を虐殺したのか……。やりきれん話だな……」

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