名前:あなたの出番です!

生没年:2019/12/01〜2019/12/31



小説の成長記録:

企業物とヒロイン物の子供として生まれた。生まれる前から人生の舞台に出たがっていた1000文字の子供であった。子供は一刻も早く自立がしたかったが両親はあなたには最高の舞台を用意してあげるといい。なかなか自立させてくれなかった。子供は順調に成長していたが、いつまでたっても最高の舞台とやらに出してもらえないストレスがたたって2019/12/31に急死した。全文字数:10510字



小説の性格:

衣山商社中央支店は就業前から一斉にざわついていた。今度着任した支店長があの赤崎弓子だったからである。彼女は衣山商社内ではすでに伝説の女であった。まだ二十代なのに次々とプロジェクトを成功させまたたくまに出世し、そして支店長としてここに着任したのである。社員たちは一度も見たことのない赤崎弓子について喋り散らしていた。彼女みたいなバリバリのキャリアがここに来るってことは部署の大々的な再編があるかもしれないぞ!大体二十代で支店長のポストに座るなんて只者じゃないぞ!下手したら再編の結果次第じゃ俺たちクビになるかもと戦々恐々とするものもいた。


そんな中、一人の男性社員が「その赤崎弓子ってのはやっぱ若さをいかして幹部連中にたっぷりサービスしたんでしょ!でなきゃ二十代で支店長になんかなれるわけないっての!」と大声で言ったのだった。皆唖然として彼をみた。勤続何十年のすっかりしなびた中年男であった。男はまた喋り出した。「あーあ、女は得だよなぁ!体使って出世して、ミスしたらしたらで泣き真似なんかして誰かにかばってもらうんだからな!」


男性社員のあまりにも下品な陰口に抗議しようと女性陣の中から背の高い女が立ち上がった。みんな一斉に彼女を見た。それは赤崎弓子と同じ二十代の新藤香織であった。「空山さん!今の発言撤回してもらえませんか?今の発言は赤崎弓子さんだけでなく全ての働く女性達に対する侮辱ですよ!同じチームだから今まであなたのデリカシーのかけらもない発言に我慢してきたけど今日という今日はもう耐えられません!撤回してください!早く!」「新藤ちゃん!なしてそんなに怒るだへか!オラはただの事実を言っただけだべさ!どんなに強がったって女は泣いて誰かに助けてもらうんだべさ!」「許せない!赤崎弓子さんがきたらあなたなんかクビにしてもらうんだから!」「ほれみれ!新藤ちゃんオメエは今赤崎弓子さに頼ろうとしてるだべさ!オラの言った通りでねえか!女はなにかあるとすぐ泣いて誰かに頼るだ!一人じゃなんもできねぇんだべさ!」「じゃあ逆に質問しますけどね!あなたは誰かに頼ったことはないんですか!本当に困った時に助けてくれる仲間とか、そういう人はあなたのそばにいないんですか!いないんでしょ?友達や恋人も今まで一人もいなかったんでしょ?いないからそうやっていつも人を僻んで汚い悪口ばかり言っているんだわ!そんなふざけた口調で人をからかっても無駄ですからね!今日という今日はとことん言ってやる!あなたになんで友達も恋人もできないか教えてあげるわ!それはね、あなたのその人間のクズみたいな性格よ!この世の中にはね、あなたみたいな人をねたんでしか生きられない人間は必要ないのよ!どうせこのまま生きてもあなたなんかどっかの貧乏アパートで孤独死してみんなに迷惑かけるだけだわ!だから今のうちにさっさとこのビルから飛び降りてこの世の中から出ていってよ!」新藤香織がそう言うと、空山久は急に口を閉じて体を震わせた。そして「ぎゃー!」と叫んでそのままオフィスルームが出て行ってしまったのである。


空山のただならぬ様子にみんな慌てて彼を追った。空山は屋上までビルの非常階段を駆け上って行った。皆が慌ててエレベーターや階段で彼を追い屋上のドアを開けると空山はフェンスに手をかけビルから飛び降りようとしていた。


ビルには中央支店のメンバーが全員集まった。そして彼らは飛び降りようとする空山を説得していた。しかし空山は「新藤ちゃんのいう通りだ!俺なんか死んだほうがいいんだ!俺みたいなやっぱこの世から消え失せたほうがいいんだ!」「ゴメンなさい!空山さんそんなつもりで言ったんじゃないの!」「何がそんなつもりだ!お前は俺が死ねばいいって言ったじゃねえか!新藤ちゃんだけじゃない!みんな俺なんか死んだほうがいいと思ってるんだ!」その時だった。奥から「バカヤロー!」という怒鳴り声が聞こえたのである。屋上にいた中央支店のメンバーは声の方を一斉に振り返った。そこには、北海道の外れの小さな村の営業所に飛ばされる事になった前中央支店長の若内がいたのだった。


若内は空山のところへ行き、そして思いっきり殴ってから空山にこう言った。「死んでいい人間なんか中央支店に一人だっていないんだ!」空山はハッとして若内を見た。若内は泣いていた。ふと周りを見ると中央支店のメンバー全員が泣いている。あの新藤香織でさえ泣いているのだ。「空山さんゴメンなさい!死んでいい人間なんて中央支店には一人もいないわ!だって私達仲間だもん!」空山はみんなの涙を見てこんな近くに自分が探していた仲間がいたのかと思い泣きながらこう言ったのである。「みんな!俺……バカだった!こんなに近くに仲間がいたのに気づかないでみんなの悪口ばかり言って!俺……寂しかったんだ!ずっと全てを語り合える仲間を求めていたんだ!だけどいたんだな!こんなに近くにさ!」「そうだ!」と若内が叫んだ。「俺たちは離れてもずっと仲間だ!いくら離れても心の絆は離さないようにしようぜ!ほらあれを見ろよ!」そういいながら若内は空を指差した。


中央支店のメンバーは若内の指差す方を見上げた。真っ青な空だった。その空てっぺんには中央支店のメンバーの未来を照らすような明るい太陽が燦燦と輝いていた。


中央支店のメンバーが太陽が燦々と輝くビルの屋上で抱き合いながら泣いてる中、ページの裏では主人公赤崎弓子が自分の出番を今か今かと待っていた。とうとう待ちきれなくてシャドウボクシングまでしはじめた。しかし彼女の出番は最後までなかった……。



小説の成長秘話:

この小説は主人公のバリキャリの赤崎弓子が支店長として中央支店に配属され、さまざまなトラブルを解決して営業成績ダントツ最下位の中央支店を見事に立て直すお話であるはずだった。


そういうストーリーなので作者は主人公の登場インパクトあるものにしようと中央支店の社員にトラブルを起こさせた。空山という下衆の極みのような男に主人公をディスらせたのである。そしてその空山のディスに抗議する新藤香織というキャラの登場させた。そして空山に彼女をいじめさせ、そこで主人公を華々しく登場させて空山をとっちめるつもりだったのである。


しかし作者は勢い余って新藤に空山を追い詰めるようなセリフを言わせてしまった。この上赤崎弓子にまで空山を責めさせたら空山が一方的な被害者になってしまうと作者はストーリーを変更し、今度は作者は新藤の言葉に傷つき自殺しようとする空山を主人公赤崎弓子に助けさせることにしたのだった。


しかしいざ赤崎弓子に空山の自殺を止めさせるシーンを書こうとしても説得力のある言葉が浮かんでこなかった。当たり前である。空山と赤崎弓子はあった事もない間柄である。そんな関係なのに赤崎弓子に何を喋らせようというのか。作者は考えた。考えてるうちに赤崎弓子どころか小説自体どうでもよくなってきた。というわけで前の支店長の若内を急遽登場させコントみたいな安いドラマを書いて小説を中断した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夭折した小説たちへ 〜ゴメンねきちんと育てられなくて 秋(空き)時間 @bleujeuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ