エピローグ
それから出立まで、二日。王都への準備は傍目には淡々と進められた。
馬車と船を乗り継ぎ、ようやくたどり着いた王都でのエヴァンジェリンとアルスの別離は余りに素気なく、見ているこちらが気を揉むほどだった。
アルスを見送り、私の自宅に馬車を走らせてしばらくするとエヴァンジェリンはやはり堪えていたようで鼻をすする音がした。
「アルス…いい顔してたね」
エヴァンジェリンがぽつりと言ったので、私はそうだね。と同意を示した。
私は懐から書簡を取り出して、エヴァンジェリンに手渡した。
「これは?」
それはアルスからの手紙で、私は中身を見ていないことを告げた。
エヴァンジェリンが、恐る恐る開けてそれを読んだ。
しばらくするとエヴァンジェリンは激しく泣き出したので、御者が驚いて声をかけてくるほどだった。
しばらく泣いた後、エヴァンジェリンは涙を拭い、早く性分化して成長してアルスを驚かせるのだと気丈な笑顔で言った。
私は、それは見ものだねと答えた。
窓から空を見上げるとかもめに似た白い鳩がつがいとなって空を飛び立っていくのが見えた。
『エヴァンジェリンへ
永い間すまなかった
私はお前を狭い世界へ押し込めていた
それは私の勇気のなさ故の行為だった
私は己の弱さを憎んでいた
私は世界を 自分自身を あらゆるものを憎んでいた
だがそれは私がお前の生を縛ることの理由にはならない
お前が何者なのか お前がどこから来たのか
お前の疑問のすべてに答えることが善いことなのか 未熟な私にはまだわからない
それでもお前が願うのなら 私は覚悟を決めようと思う
私はお前に生を与えた
私は自分勝手な悔恨の想いから お前を作った
だがだからといって 私はお前の美しさを否定することはない
お前の美しさはお前自身のものであり
私のものでも 私の母のものでもない
エヴァンジェリン 出来ることなら 私はお前に自由を与えたい
そしてその自由はお前を何かに縛り付けることも 強要することもないのだ
私は願っている お前の心からの自由を
アルスノウルズ』
ホムンクルスはかもめの夢を見る 藤原埼玉 @saitamafujiwara
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