2020年4月/10冊 本を読む人、本を見せる人

 戸外で読書をするのに、とても佳い季節となった。ベンチに坐り、スマホではなく本を読んでる人を見ると、どうにも胸が高鳴ってしまう……素敵。

 なんの本を読んでるのだろう。気になる。

 がっつりカバーをかけてるってことは、本が汚れないようにとの配慮なのか。

 タイトルを知られたくないとの防御なのか。

 たとえそれがエロ本だとしても、ギャグ漫画だとしても、スマホのスクロールではない紙の本をめくってるという所作だけで、すべてを許せてしまう……偏見。



 先日も電車に乗っていた折り、まわりはどいつもこいつもスマホを見てるというのに、ひとりの少年が立ったまま、熱心に地理の参考書を読んでいた。ジャージ姿というナリである。おそらくは部活の帰りなのだろう。腕部分に刺繍された高校名は県内でも指折りの進学校だった。

 オバサンは感激した。部活と勉学を両立させるのはさぞや大変だろうに、この少年は電車の揺れに耐えながら(ローカル鈍行は、めっさ揺れる)試験勉強にいそしんでいる。帰宅の途というすきま時間を疲労と睡魔と闘いながら試験勉強にあてている。なんと謹直で殊勝な少年よ。

 来月は陸上部の県大会がある(妄想)。貴重な休日も部活にあてなければならない。でも、そんな彼氏に対し、彼女は文句ひとつ云わない(妄想)。

「わたし、清水くん(仮名)の邪魔になりたくないの…」と陰で少年を支えている。なんと謙虚で健気な少女よ。(妄想止まらん誰か止めて)



 でも、電車の中で本を読むのは、けっこう骨が折れる作業である。文字が揺れ動くため、私などは途中から気分が悪くなってしまう。

 まだ若く、老眼との闘いも始まっていなかったころ、例の(読みもしない)『TIME』をこれみよがしにカバンからのぞかせ、すまし顔で電車に乗ってた黒歴史を思い出す。薄っぺらい雑誌なので(そのくせ中身は吐きそうなほどの単語が詰まっている)表紙が見えるように軽く丸めて、カバンの端に差しこむのである。

 このとき、TIMEの4文字がのぞくようにセットするのがコツである。毎日乗る電車では毎日号数を入れ替えるのもミソである(なにしろ毎週届くのでブツは腐るほどある)。そして「私、なんとなくアメリカ~ン」な雰囲気に酔いながら、まわりの同乗者にも「あの人、なんとなくアメリカ~ン」と思わせるのだ。

 ……なんか、しょーもなさすぎて、思い出さなきゃよかったと激しく後悔。



 昔は電車で新聞を読んでるオジサンがけっこういたものだが、ここ数年はまるで見かけない。新聞もスマホで見てるということか。



  あなたを夢みて/リサ・クレイパス 2014年9月

  胡蝶殺し/近藤史恵 2020年1月

  それから/夏目漱石 2019年12月

  黄金を抱いて翔べ/髙村薫 2019年9月

  TUGUMI/よしもとばなな

  いちご同盟/三田誠広

  なんらかの事情/岸本佐知子

  陰は光に/

  貯水池に風が吹く日/アン・ビーティ

  マローン殺し/クレイグ・ライス


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~4月の「ちょっと一言云わせて本」~


『黄金を抱いて翔べ』


 先月に続いての髙村薫女史である。おなじ作家は極力あげたくないのだが、これはしょーがないわー。こんなん読まされたらしょーがないわー(2回目)。

 寝不足、必至。読み終えたところで、興奮のあまりちっとも眠れんのだ。

『リヴィエラ』の例にもれず本作でも次々と人物が消えて(死んで)ゆくので、つらかった……え、フラグ立ってた? どこに? チラとも見えませんでした。

 映画化されてるのが驚きだ。あんな場面や、こんな場面が、実写になるだなんて、あわわわわそんな(読んだ人にしか、わからぬ動揺)。

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積ん読始末記 夏生由貴 @sy07311974

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