第4話 変態少女と守り抜く貞操……っていうアニメ、売れそうじゃないか?え、そうでもないって?
「俺が名前をつけてやる」
その言葉を聞いて、彼女は「えっ?」という声を漏らす。
「名前がわからないなら新しいのをつければいい。それで元々の名前と一緒に昨日までの自分ともおさらば。一石二鳥だろ?」
ただ拾っただけの痩せこけた少女。
飯を食わせ、風呂に入らせ、既に正常な人間として最低限に必要な処置は十分にしたはず。
それなのに、俺はまだこいつにお節介を焼くのか。
自分自身すらもその行動を
それでも彼女になにかしてやりたいと思ってしまうのは、きっと彼女から俺と同じ匂いがするからだ。
暗い、暗い場所を歩いてきた者の匂いが。
俺は少しの間彼女を眺め、頭に浮かんできたものをそのまま言葉にした。
「今日からお前は望月 月見だ。明日も月が昇る事を望みながら、今日の月を見上げる。生きたいと願って地面に這いつくばっていたお前にはピッタリの名前だろ」
即席で考えたが故に、彼女の気にいるかどうかなんて考えられなかった。
だが、当の本人である彼女は目を輝かせていた。
「もちづき……つきみ……。いいなまえ……!」
気に入ってくれたらしく、何度も何度もその名前を口に出す。
「このなまえ、すき。ありがとう!えっと……」
「俺の名前か?優斗だ、有明 優斗」
「ゆうちょ?」
「誰が銀行だ。優斗だよ、ユウト」
「ゆりこ?」
「誰が東京都知事だ」
「わからない……ユウでいい?」
「まあ、別にいいけど。って、まさかお前、ここに居座るつもりじゃないだろうな?」
名前を確認して、呼び方まで決めて……。
この流れ、こいつ、この家に居候する気満々だろ。
「だめ……?」
「ダメだ」
今度は彼女のうるうるした瞳にも負けず、きっぱりと断る。だが、彼女も今度ばかりは引かなかった。
「ユウのやくにたつから」
「役に立つって、料理できるのか?」
月見は首を横に振る。
「掃除は?」
「できない」
「片付けは?」
「したことない」
「肩叩きは……」
「力ないから長くできない」
「全滅じゃねぇか!」
役に立つと言ったから期待したと言うのに、何も出来ないとは……。
「ユウ、わたしにはあなたのいちばん喜ぶことができる」
「俺が一番喜ぶこと?なんだよそれ」
俺がそう質問すると、月見は右手を軽く握りしめてそれを上下に振った。そして―――――。
「びゅっびゅっ……って」
それを聞いた俺は彼女の後ろ首を掴んで外に放り出した。
「そんなことされてたまるか!」
扉を勢いよく閉め、鍵をかける。
「おとこのこはみんなすきって聞いた。ユウもびゅっびゅは好きなはず」
「ああ、もちろん好きだよ!好きだが、お前なんかにさせるわけないだろ!」
「どうして?わたしじゃダメ?わたしが痩せすぎだから……?わたしが色んな人に穢されたから……?わたし……きもちわるい……?」
ドアの向こうから聞こえてくる今にも壊れてしまいそうなその声。
俺は、ほぼ反射的に声を上げていた。
「それは違う!お前は……月見は気持ち悪くなんかない!」
出会ってほんの数時間。彼女の何がわかるんだと言われてしまえば返す言葉もない。
それでも、少しずつ崩れていく彼女の体をどうにか繋ぎ止めたい衝動に駆られた。
ここで彼女を見捨てれば、義父さんと義母さんに助けられた俺は一体何になるんだ?
自ら自分自身に『見捨てられてもいい命』というレッテルを貼ることになってしまうんじゃないか。
そうなってしまうことがどうしようもなく怖かった。
再び自分が死んでしまうことが、どうしようもなく恐ろしかった。
俺は扉を開き、そこに座り込んでいる銀髪翠眼の少女と目線の高さを合わせるようにしゃがんだ。
そして、親指で零れ落ちそうな涙を拭ってやる。
「こんなに綺麗な涙を流せる奴が、穢れてるわけないだろ」
「……ほんと?わたし、まだきれい?」
「ああ、すごく綺麗だ」
俺が力強く頷いてやると、月見の表情はぱっと明るくなり――――――、
「じゃあ、ユウのおよめさんになれるね!」
嬉しそうに抱きついてきた。
のしかかってくる彼女の体はあまりにも軽くて、俺は押しのけようとした手をおろし、その鼓動の音を聞くことに徹した。
ドクッドクッと一定のリズムで刻むその音。
その音色は彼女が生きている証。
その涙は行きたいと願っている証。
それを拒むことは、できるはずがなかった。
俺は彼女の体温を感じながら、肩の力を抜いた。
泣き疲れて眠ってしまった彼女をベッドに運んで布団をかけてやる。
一定のリズムで聞こえてくる寝息に癒されつつ、夕食の準備を始めた。
「元気が出るものを作ってやらないとな」
そう、独り言をこぼして。
夕食を食べ終わると、月見にパジャマを貸してやってベッドに寝させた。
「いっぱいねたからねむくない……」
「寝ないと大きくなれないぞ?」
「大きく……?」
月見は自分の小ぶりな胸に手を当てて首を傾げた。
「ユウは大きいほうがすき?」
「そういう意味じゃねえよ」
「どっち?大きいの?小さいの?」
「どうでもいいからさっさと寝ろ!」
彼女の質問をスルーして、ベッドの隣に敷いた布団に入る。しばらくすると月見も何も言わなくなり、俺の意識は沈むように夢の中へと落ちていった。
体に違和感を感じてふと目を覚ました。
部屋の中は真っ暗で何も見えない。
今は何時だろうかと思い、枕元に置いてあるはずのスマホへと手を伸ばそうとして、その違和感の正体に気付く。
体が動かない。
正確にはある方向には動かせるのだが、別の方向には動かせないのだ。
何か紐のようなものがくい込んで来る感覚が手首や足首にある。
「ユウ、おきた?」
暗闇の中から声が聞こえてくる。
「月見?そこにいるのか?」
声の聞こえてくる場所、俺の腹の上辺りに向かって言う。
「うん、いる。ここに……」
彼女がそういった直後、俺の右耳の辺りに何かが伸びてきて、離れていった。
そして数秒後、目の前が明るくなった。
俺のスマホのライトの光だ。
それが彼女の足元を照らした瞬間、
「っ!?お、おい、月見!何やってるんだよ!」
俺は反射的に声を上げた。
だって、当たり前のような顔で俺の腰に跨る月見が、下半身に何も身につけていなかったから。
「なにって……おれい?」
「なんで疑問形なんだよ!とにかくそこから降りろ!それからパンツとズボンを穿け!」
「それはできない。わたしはユウにおれいがしたい」
「この状況のどこがお礼だ!拷問じゃねえか!」
「大丈夫、痛いのは初めだけだから。すぐに気持ち良くなる」
「それ男のセリフだろ!お前が言うな――――――って、そうじゃなくてだな!気持ち良くなんてならなくていいから退けって!」
俺は必死に暴れるが、どうやら紐か何かでベッドの脚や他の場所に縛られているらしく、思うように動けない。
そうしている間にも月見は俺のズボンに手をかけて、ゆっくりと引きずり下ろしていく。
まるでこの状況を楽しんでいるかのように、ゆっくりと。
「ユウはいのちのおんじん。だから、わたしがほんしんからのぞむはじめてのえっちのあいてはユウがいい。もらって、はじめて」
そう言いながら俺のパンツに手をかけて―――――。
「俺はそんなの望んでないんだよ!」
怒鳴るように叫んだ。
真夜中だなんてこと、気にしなかった。
「望んでいないことをさせられる。それがどれだけ辛いことか。月見にならわかるんだろ?」
「……」
月見は俯いて何も言わない。
ただただ、悲しい顔をするだけだった。
「男が皆、お前を傷つけた奴みたいなのばかりじゃないってことを分かれ!男だってな、初めては好きな人とがいいんだよ!」
「そう……なの?」
何年間も酷い目にあってきた彼女は、男に対する知識というのはかなり少ないということは分かっていた。
確かに誤解されていてもおかしくない。
だが、俺はどうしても許せなかった。
自分の初めてをこんな形で奪われることが……では無い。彼女がこんな形でまた自分の体を使おうとしていることが、だ。
「お礼は気が済むまですればいい。でも、違う形で頼む。俺はお前とそういうことは出来ない」
「でも、ほかにおれい、しらない……」
「なら俺が教えてやる。焦らなくてもすぐに追い出したりはしないさ」
俺は宥めるようなトーンで言う。
「大丈夫だ。一歩ずつ、生きていけばいい」
月見はその瞬間、力が抜けたように俺に覆い被さって―――――いや、抱きついてきた。
その細い腕で、しっかりと。
そして、俺の頬に柔らかい何かを押し付けて、
「はじめての……おれい……///」
そう耳元で呟いた彼女の吐息が妙に熱かった。
「それくらいなら構わないが……この拘束を解いてくれないか?結構痛いんだ……って、月見?」
「……Zzz」
「ね、寝てる!?せめてパンツくらい穿け!っていうか拘束を解いてから寝ろ!」
しかし、彼女は目を覚まさず、俺は朝までずっと両手両足を拘束されたままだった。
そんな俺を見た月見が寝起きに放った一言が、「えすえむぷれい?えっち……する?」だった。
お前がやったんだろと言っても、首を傾げるばかり。寝たら忘れるとは言うが、ここまで酷いやつがいるとは……。
それからは毎朝のように「えっちする?」と言われ、のしかかられるということがあったため、今では俺と彼女は別々の部屋に住んでいるという訳だ。
あのままでは、いつか本当に一線を超えてしまいそうだったからな。
そして今に至るというわけだ。
彼女の家賃は義父さん達が送ってくれるお金とバイト代でなんとかやりくりして出しているが、もったいないと言えばもったいない。
ただ、貞操には代えられないからな。
月見はまだ俺以外の人間とコミュニケーションを取れるほど、精神面で回復しておらず、学校にすら行けていない。
そんな彼女にバイトして稼いでこい!と言えるほど俺も鬼ではない。
ただ、いつまでもこの状況というのも無理があるだろうし、少し考え直さないとな……。
勝手に俺のベッドに寝転がり、ゲーム機をいじっている銀髪翠眼の少女を眺めながら、俺は大きなため息をついた。
「それにしても、初めの頃と比べたらスラスラと喋れるようになったよな」
「ユウの部屋の本棚にある本で勉強した」
「そうなのか?関心だな。ちなみになんて言う本だ?」
「『処女の奇妙な棒剣』」
「エロ本じゃねえか!人の部屋を勝手に漁るなって言っただろ!」
「漁ってない、手を伸ばしたらそこにあった」
「嘘をつくな!お前、1週間俺の部屋に出禁な」
「えぇ……貴婦人……」
「それを言うなら理不尽だ」
俺は呆れたようにため息をついた。
まあ、こいつがひとり立ちするのはまだまだ先になるだろうな。
俺の周りの女【ヒロイン】が(ほぼ)全員ワケありなんだが プル・メープル @PURUMEPURU
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