第59話 ポンティニーの戦い(3)
エルフのポンティニーの守備隊はレンズブルク軍の威力偵察の後始末をしていた。撃ち合った感触としては弓の強さは遜色なく、飛距離はおそらく変わらない。決して侮れるものではなかった。
「矢文か……」
レンズブルク軍の放った矢には大量に矢文がついていた。内部の人族に蜂起を促すものだろう。
「矢文は見つけ次第回収しろ。手にしている人族がいれば容赦なくしょっぴけ!」
向かい合う敵は強い。内側から反乱を起こされると厄介である。外出禁止令を出し締め付けを強化する。とはいえ、今稼働中の高炉を止めることはできない。連中の監視に人手を割かねばならないが、外への備えを削りたくもない。悩ましいところだ。
高炉に火を入れたのがちょうど今朝のことであった。高炉なんてものは容易に動かしたり止めたりできるようなものではない。製鉄のためには燃料を切らさず投入し続け、ふいごで風を送り続けなくてはならない。それを夜を徹して丸一日以上行うのだ。途中で止めてしまえばその苦労は水泡と帰す。鉄は重要な資源であり、それを大量生産できる高炉の価値は計り知れない。
人族には炉を動かし続けさせる。下手に暇にしていると反乱を企てかねないからな。せわしなく働かせておいた方が良いのかもしれん。
矢文は暗号文であった。例の新型暗号だ。欺瞞情報ではないかという話もあったが、こうして内部との連絡用に打ち込んでくるぐらいだ。やはり意味ある暗号なのだろう。もしかすると、今でもこのポンティニーの人族はこの暗号を解読するための換字表のようなものを隠し持っているのかもしれんな?
矢文を手にした人族がいないか探し出し、その近辺を洗えばあの新型暗号の秘密が暴ける可能性がある。ふむ。ここを持ちこたえればチャンスが巡ってくるかもしれぬ。
新月が近い。日没後の空に月はなく暗い暗い夜である。闇夜に乗じて内外で連絡を取り合おうとする者が出てくることを警戒していた。高炉の操業以外の夜間外出は禁止。城壁に近づくことも禁止。敵が闇夜に紛れて奇襲してくるやもしれぬ。夜通し
闇夜に突如ラッパが鳴り響き、北側の城壁で喧騒が聞こえる。夜襲か! 接敵が速い! 壁に取りつかれたようだが、応射して集まったあたりで無理と見たか撤収していった。忌々しい。平原の機動力を活かして執拗に嫌がらせをしてくる。
一刻ほど経つとまたラッパが鳴り響く。今度は南側の城壁のようだ。なんて奴らだ。くそったれが! およそ一刻ごとにラッパの音と襲撃の喧騒が繰り返される。守備隊はよくやってくれている。鉄壁の城壁というわけではないが、それでもうまく撃退し続けることができた。
東の空が白んできた頃、細い細い月が昇る。夜明けが近い。
「いたぞ! あそこだ!」
夜襲をかけようと潜んでいた敵を見つけたようだ。先制攻撃で退ける。それから少ししてラッパの音が鳴り響いた。
「馬鹿め! いまさら合図を送っても無駄だぞ!」
「いつまでもやられっぱなしじゃねえぞ!」
奇襲を未然に退けたことで防衛隊の士気は少し上がったようだ。
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魔法陣で起こすIT革命 七瀬 @nanase_yuki
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