第58話 ポンティニーの戦い(2)
トロア、サンスがエルフ達に同時期に襲撃されたことから可能性は考えていた。敵の本命はやはりポンティニーだったか。
緩やかなポンティニーの丘。周囲を城壁が巡らされているとはいえ、レンズブルクやトロア、サンスと比較すると比べるとその石垣は低い。ポンティニーを占拠したエルフ達はそれを補うためだろう、ポンティニーに櫓を立てて、城壁の補強としていた。トロアではエルフは見事な野戦築城を見せていたが、その技術はここでも発揮されているようだった。
既にエルフ共には気づかれたな……。エルフは平地では鈍足だが、森では機敏だ。サンスでの話を聞くに、市街戦もエルフの方が分があるようだ。平地では人族有利であるが、そこを補うエルフの兵器が
トロアでは導入されていなかったためレンズブルク軍は敵としてどの程度のものなのか実感がないところではあるが、
レンズブルク軍およびサンス亡命軍の連合軍の総大将はレンズブルク領主エーリク・ホルシュタイン伯爵である。しかし、伯爵はそもそも戦争をしに来たのではない。伯爵がポンティニーにやってきたのは皆既日食の観測のためであった。その皆既日食は3日後と迫っている。
「アンネ君。観測の準備をしておきたまえ。3日後に都市内で観測をするのは無理だろう。この野営地を観測地とする」
「わかりました。伯爵。やれる限りの観測をして、得られるかぎりの情報を得ておきます」
連合君の野営地の後方には観測隊の天幕が用意されている。その周辺に観測装置が広げられ準備作業が始まった。測量隊のゲーアハルトらはここまでの測量データをもとに地図を作製している。観測値の正確な緯度・経度を割り出そうとしていた。
「アラン」
「はい」
「アレを頼む」
伯爵が魔術師アラン・トゥルニエにそっと耳打ちしたのは暗号であった。ホルシュタイン伯爵が外遊に行って以降、各地に導入された暗号機は人族の都市間の通信の機密を守っていた。初めのころはエルフ達も躍起になって解読を試みていたようだが、ここのところの手紙のロスト率の低下をみるに、いささか諦め気味なのであろう。
ポンティニー市街には人族も残っているはずであり、機を伺っている
「北西、サンス方面より軍が近づいてきます!」
ポンティニーの占領軍は遠方に現れた人族の軍隊に騒然としていた。人族の都市サンスはガティネのエルフ達によって攻略されたはずであった。数日前には占拠したという情報が伝えられている。そのサンス方面からやってきた人族の軍とはどういうことか……?
「掲げられている旗はサンス子爵のものと、レンズブルクのものとのことです」
サンスは占拠したはずだが、その残党ということだろうか。しかしレンズブルク軍とは! ポンティニーの商圏ではあるが、北東のトロアのさらに先、デルメンホルストの東方という遠方である。しかしそのレンズブルクとデルメンホルストによってトロアの包囲は解かれてしまった。
そのレンズブルク軍が、今度は北西からサンス軍を連れてやってくる。よもやサンスも奪還されたのだろうか……? 今現在手元にある情報で判断する限りでは『レンズブルク軍はヤバい』ということだ。
ポンティニーの城壁はさほど高くはなく
連中の偵察隊らしき部隊が3隊、ポンティニーの周辺を回り始める。連中、矢が届かない距離をよくわかっていやがるな? 白昼堂々と近寄ってくるとは! 撃って出て追い払いたくもあるが、平原では人族が優位。
半時ほどにらみ合いが続くが、突如レンズブルク軍の本陣の方からラッパが鳴り響くと、偵察部隊は突如城壁へと駆け寄り、弓を放ってきた。こちらも応射するが仕留めるには至らない。奴らは何射かすると、早々に去っていった。
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通信が発達していない時代、状況が掴めない中で軍を動かす決断をするというのは精神にきそうですよね。古代にもっとも
いくつかの登場人物がそれぞれ手にしている情報が違う状態で手を選ぶ……というのは麻雀やボードゲームではしばしば現れるシチュエーションですが、私のような並みの人間の脳みそではパンクしてしまいます。
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