第二百九十六話【『ポピュリズム』と『社会の分断』を否定できるか?】

 仏曉が〝その答え〟について語り出している。

「日本の『左派・リベラル勢力』がヨーロッパの極右政党に対し言える『遠慮がちな非難』は二つのキーワードで表す事ができる。即ちそれは『ポピュリズム』と『社会の分断』である」

 既に仏暁は人差し指と中指の二本を立てている。

 しかし直後中指の方をたたみ一本指に。

「——しかしこれは二つに見えて実は一つ。『ポピュリズムが社会の分断を招く』と、こういう構造の主張となっている」


「——つまり、ポピュリズムを煽り社会を分断させる事ができたなら、〝やっている事〟はヨーロッパの極右政党と同じレベルになる。たったこれだけで〝極右認定〟される事ができるとは、実にお手軽だと思わないだろうか? 諸君!」


「——そしてもう一つ我々は重要な事に気づかねばならない。『ポピュリズムが社会の分断を招く』という主張は〝事象の説明〟としては正確でも、論理的には少しおかしいのだ」


(え?)とかたな(刀)、どこが変かこの極短時間では解らない。仏曉はもう次を語り出している。


「——『ポピュリズム』を日本語に訳すと『大衆迎合主義』という。〝大衆〟に迎合しているのにその効果が〝社会の分断〟程度に限られる、というのはおかしくはないかね? 『大衆』とは〝ほとんど大部分の民衆〟という意味であるから、その大衆に迎合したならむしろ社会はほぼ一体化せねばおかしい」


「——ムッシュ野々原、あなたはどう思いますか?」


「えっ⁈ 俺か?」と裏返ったような声で応じた野々原。


「そうです、〝俺〟です」


「それはまぁ、全員に迎合するってのは無理って事じゃねーのかな?」


「トレ・ビアン! ではマドモアゼル遠山、あなたは?」


(わたしの方が後なの⁉)とかたな(刀)。後から答える方が〝答え〟を先に言われてしまった分不利になるとしか思えなかった。(これってまるで〝面接〟の再現)


「えーと、えーと、民意はせいぜい半分、ってことかな」と、やっとこといった感じで〝答え〟を口にした。


「トレ・ビアン! 素晴らしい回答です!」


(どこがよ?)とかたな(刀)。

(ガラ悪の言った事と同じ事を表現変えて言っただけで、前の人の言ったことをなぞっただけなのに)


「たった今、マドモアゼル遠山は『』と言いました。これは非常に重要な視点である。『大衆に迎合する』とは『民意に応える』と同じ意味である! よくよく考えてみようじゃないか! 『大衆・民衆・有権者』、表現が違うだけでこれらは全部ではないかね?」


「——という事はだ、『社会の分断』とは二大政党制そのものと言える。政治の世界では分断している状態こそが民主主義なのだ。つまりポピュリズムと社会の分断を否定する行為は民主主義的価値観の否定である」


「——ただ残念な事に、我が国の左派・リベラルメディアがあまりに無能過ぎたため、無思慮にそれに乗っかかっただけの野党は社会の分断に失敗した。というのも連中が分断用に用意したネタ、即ちスキャンダル報道のつもりで出したきたものがあまりにもお粗末すぎた。それがかのいわゆる『MK問題』なのである。(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891416223/episodes/1177354054896058387https://kakuyomu.jp/works/1177354054891416223/episodes/1177354054896059095参照)これほど間の抜けた『問題』も珍しい」


「——日本の左派・リベラルメディアが提供したこうした〝〟は国民生活に直結するでもない実にどうでもよい『問題』であった。社会のだけは醸し出したが結局のところそれは国会議事堂の中、ないしその前に限られた。これらがいかにくだらないネタであったか、その答え合わせが衆議院選挙なのだ。このネタで野党は散々与党と抗争したが遂に政権交代なんて起きなかったじゃないか」


「——しかしここで私が強調したいのは、日本の左派・リベラルメディアの姿勢である。ネタがあまりにお粗末だったため社会の分断には失敗したが、彼らから学べるのはである。我々も奴らを見習うべきだ。そして直ちに真似すべきだろう。敵であろうと良い点は学び真似なければならない。それが〝進歩〟というものだ。それが力となるのだ」


(極右なのに日本のリベラルメディアを見習う?)かたな(刀)には何のことやらさっぱり解らない。

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