第二百九十五話【否定論者(その2) なぜ『右派』『右翼』ではなく、それでも『極右』なのか?】

「我々が『現状の日本人の性質に適したアクション』まで考えて動かなければならないのはなぜなのか? というのも、この現代日本における『極右の先駆者』とも言うべき者達が、〝日本国内に居住する特定の外国人勢力〟を的にしてしてしまった結果、『左派・リベラル勢力』によっていとも容易く悪魔化されてしまったからである。その『左派・リベラル勢力』が用いるスローガンは当然『外国人差別を許さない!』となるのは必然で、他人の顔色をうかがう、社会の顔色をうかがう、同調圧力に支配されたこの日本で『極右の先駆者』の味方となる者は極々限られたのである」


「——『極右』を名乗ることは簡単である。自国内にいる外国人達に対し否定的な事を言っておけば自ずとそう見える。だが日本においてこれを言った場合に、いくら『我々こそが真の愛国者だ』などと肩で風を切ってみても、社会からはそう受け取られず『排外主義者』にされるのがオチで、逆に『左派・リベラル勢力』の方が愛国者になりかねない全く本末転倒な事態となるのである」


「——私がムッシュ遠山から受けた依頼は『愛国者ポジションを獲れる思想を提示すること』というものである。自分で自分を指さし『愛国者ポジションを獲ったぞ』と自己顕示する行為に意味などまるで無く、『彼らこそが愛国者だ』と、そう他者から思われて初めて愛国者と言える。言うまでもなくそうした『他者』の数が千人や二千人でもまだお話しにならない。それを遥かに超えるまとまった一定数以上存在しなければならないのは道理である」


「——しかしそうした人数が多くなってくれば今度は別の問題が頭をもたげてくる。自ら『極右』と名乗る以上は、極右に見えなければお話しにならない。世界第4位の移民受け入れ大国でありながら移民問題に僅かも触れない極右などあり得るのか? という問題だ」


「——〔それならば『極右』など名乗るのはやめて『右翼』か『右派』にでもしておけばいいではないか〕という向きの意見も成り立ってしまいそうではあるが、私はそれでも『この二つはよろしくない』、と考える。というのも、日本の『右翼』の源流が玄洋社にある以上、必ずしも民族的排外主義にならないのが日本の右翼なのである」


(右翼が排外主義じゃない?)とかたな(刀)。


 ここで仏暁はまたもアタッシュケースの中から〝資料〟と思しき書類を取り出す。

「——『〝民族的排外主義にならない〟とは、なおけっこうな事ではないか』、という声がどこからか聞こえてきそうであるが、現代の国際情勢を鑑みるに、皮肉な事に或る程度〝排外〟した方が逆に安全だったりするのだ。とは言えここだけを聞いても諸君としては目が点となるばかりであろう。そこで具体的な説明だ」

 ここで仏曉は手にした資料に目を落とす。


「——玄洋社の中心人物はその名を『頭山満』という。彼はアメリカの新聞記者の取材にこう答えている。『西洋の勢力から脱却せんがために反抗する東洋の人民を助けるのが日本の宿命である。こうした後においてこそ真の亜細亜民族の兄弟相和する時代が来たり、かくして初めて文明という分野における何物かを世界に示すこととなるのである』と」


「——こうした価値観は欧米列強がほぼアジア全域を植民地支配していた時代だからこそ輝けるのであって、時代状況を無視してこの現代にこれを主張した場合、『亜細亜民族』なる概念が中華人民共和国によってアメリカ軍をアジア地域から排除するための大義名分にされてしまうのだ。私が『右翼』という名の選択に躊躇いを覚えるのはこれ故なのである」


「——また『右派』と聞いて頭に浮かぶのは政治家連中である。またの名を『タカ派』ともいうようだが、『この立ち位置に立っています』とこれ見よがしにアピールする連中が一番タチが悪い。『右派』とは名ばかりで外国からの不当な要求に過剰に迎合しやすいのが右派の政治家の特徴である。選挙毎に有権者に勇ましい政策をアピールしているが、すっかり『憲法9条改正やるやる詐欺団』と化して久しい。しかもその改正案が『9条2項を残したまま〝自衛隊〟を書き加える』というシロモノというから呆れたものである。『陸海空その他の戦力ではない自衛隊』とはいったいなんであろうか? 『警察予備隊』であろうか?」


「——ついでにひとつ指摘しておくと尖閣諸島の国有化を断行したのは『リベラル』とされる政党の政権であった。口だけで有権者に『右』アピールしている『右派』とはいったい何物の集団であろうか? 有権者に向かって自らの思想を偽装するなど民主主義に対する冒涜である」


「——とまれ、政治家どもの悪口はこの辺にしておこう。それよりも重要な問題へと立ち返らなければならない。移民問題をイシューとしない極右は極右たり得るのか? 今はそちらの方が重大事なのだ」


「——だがその問題の解決のためのヒントが、実はある。日本の『左派・リベラル勢力』はヨーロッパ各国で台頭する極右政党について『存在すべきではない』とは言えない連中だが、それでも遠慮がちな非難だけはしている。つまり、その『遠慮がちな非難』をされるような振る舞いを我々がしてみせれば、移民問題に触れずとも『左派・リベラル勢力』の方から勝手に我々を極右認定してくれるのである」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る