ばいばい、

よる

No.1

ずっと言えなかった。

私のこと好きじゃないこと、約束を少しずつ破ってること、

どれも全部知ってるなんて。


「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


だんだんと私から離れていった。今ではもう見えないくらいに。

貴方はどこにいっちゃったのだろう。


「おはよう。珈琲飲む?」

ベットから出たばかりの彼に話しかける。

「ああ、お願い。」

まだ完全に開かない目を擦っていた。

私は彼に珈琲を渡す。


「ねえ、話そうか。」


何年か前に買った、揃えると1つの絵柄が浮かび上がる、傍から見たら少し恥ずかしいマグカップを二人、手に座る。最後にその絵柄を見たのはいつだろう。


「好きな人いる?」

まるで友達同士の会話みたいだ。普通だったら、私だろう。でも、

「いるよ。」

違うってわかってても、期待してしまうのだ。諦めが悪いというかなんというか。

「それは、私じゃないよね。」

「・・・ごめん。」

「しょうがないよ、私がいけない。」

「そんな、」

「私のものは全部捨てて。ちょうど明日はごみの日だしさ。

大掃除だよ、家も心も。」

なんて精一杯の作り笑いを浮かべる。滑稽、だろうか。

今日の珈琲はしょっぱい、って感じてみたかったけれど、実際はそんなことない。

いつも通りの珈琲だ。そんなもんか。

ずっと続くと思ってたんだよね。今でも、まだやっぱり実感がない。

だってまだあなたは目の前にいるし、私たちはいつも通り一人ぼっちのマグカップで珈琲を飲んでいるし、この数分後にはもう、ばいばいしているわけだし。


さようなら

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ばいばい、 よる @September_star

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