君には分からない恋だけど。

@bustar1227

第1話

昨日も今日も雨は降っている。

なんだかぼんやりとした日が続いているように思える。

大学生の彼は、冴えない日々を送っていた。大学は夏休み。やる事は特にない。

彼は今、古びたアパートの一室に寝転がっている。

窓外には、昨日も見た雨が降っている。

「太陽が見れないのは、寂しいものだ。」

一人でつぶやく。そして、こんな事をぼんやりと考え出した。

(自分自身が虚構であると認識できるのか)

問題を自問することに面倒くささを感じて、彼は寝る。そして、今度は夢を見た。



彼は変化のない繰り返しの日常の中で気付き始める。

自分は、人間として存在していない。

自分は、誰とも知らない人間の網膜に存在する虚構なのだ。

ある人間が見た景色を脳に伝える細胞なのだ。

彼の思いつきは、彼自身をひどく納得させるものだった。

考えてみること全てがこの思いつきに当てはまるのである。



不思議な満足感の中で彼は目を覚ます。

窓外には、まだ雨。

彼は、夢の内容を覚えていた。

窓まで歩いて外を見る。

この雨は人間の涙なのかな、それとも自分の知らない外の世界に降る雨なのかな。

夢の中での思いつきは、もはや彼にとって真実であった。

それと同時に、自分が誰の網膜に存在しているのか興味が湧いた。

やがて、恋愛経験のない彼にとって

その興味は一つの恋愛対象として想像された。どんな顔をした人物なのか知りたいという思いは強い。

彼は再び寝る。

窓外の雨は止まない。





大学生の彼女は、病院の一室で泣いていた。

窓外には雨。

視界の狭さが気になりだしたのは1ヶ月前のことだった。

今の彼女は、窓外の雨を音で知る。

彼女自身も雨のような涙を2日も流していた。

これからやってくる完全なる暗闇の世界を生きていく勇気が足りなかった。

彼女の手には涙に濡れた家族写真が握られている。

今の彼女には、もうすぐ無くなるこの世界を記憶に焼き付ける事しか出来なかった。

彼女はまだ鏡を持つことはできない。

自分自身を見ることは、全てを失うことが

よく解りそうで怖かった。






長い雨が止んでも、太陽の出ない空を彼は

アパートの窓から眺めていた。

時間が経つほどに、彼は網膜の細胞として

誰の眼中に存在しているのか見たくなった。

絶対に気付かれない恋人を、彼自身の理想と答え合わせをしてみたかった。

目を閉じて浮かんできそうな景色を見ようとする。






大学生の彼女は、ベットに入っていた。

傍らには彼女の母親がいる。

「明日の朝になったら、全てがなくなっているわ」

母親は彼女の手を握る。

「全てがなくなったら、また新しい何かが見えるようになるわよ」

「手鏡を頂戴」

彼女は渡された手鏡を、顔の前に持っていく。

「最後くらいは自分の顔も見たくなったの」





眼をつぶる彼の中に、一人の女性がみえた。

それは、正に彼の理想であった。


彼が何かをみたのは、それが最後である。






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