日替わり異世界

朝凪 凜

第1話

 気がついたらそこは見たこともない世界が広がっていた。

 比喩でも何でもなく、本当に見たことない世界だった。


 さっきまでやっていたことを思い出す。

 思い出す。

 ……思い出――した。

 昨日の夜、自室で寝て……それだけだ。

 朝……ではないようだけど、これは夢か?

 意識はハッキリしているから覚醒夢かもしれない。


 改めて周りを見渡す。

 白い世界だった。真っ白。

 床も天井も白いし、何より建物も白い。まるで色が剥がされ存在そのものを認められていないかのようだった。

 とりあえず部屋から出るが、白色照明のせいで壁なのか床なのか境界がわからないものの、手探りでなんとか外に出ることができた。

 そして――外も白しかなかった。


 向かいから人がやってきた。白いスーツに身を纏っている。何から何まで白一色だ。

「見かけないですが、どちら様ですか」

「あ、えっと、私は白瀬しらせつむぎです」

「し、ら、せ、つ、む、ぎ」

 どうやら言葉は通じるらしい。さすが夢の中、不便なことは起きない。

「はい、わかりました。太陽系第三惑星地球21世紀日本国の白瀬さんですね」

「え、どういうこと、っていうか何それどうやってわかったの?」

 不穏な単語が羅列されたけど。地球って。

「どう……あぁ、そうですね。では白瀬さんにわかるように説明をすると、私がつけている眼鏡みたいなものはわかりますか」

「眼鏡……。その被り物ですか」

「はい。それにカメラや各種センサーが内蔵されていて、3Dスキャン及び声紋でDNAが存在することがわかったのでDNA検索で判明しました。分かるように言うといわゆる『ネット検索』です」

 え、ネットでどこの誰みたいなことまで分かっちゃうの? 怖い。

「まあ、見ての通りあなただけですから、ある程度学がある人なら傾向は分かります」

 私からすれば全身真っ白の方が思いっきし特殊なんですけど。

「それよりこの、眼鏡がないと何かと不便でしょう。ちょっと用意しましょう」

「用意って……?」

 そう言ってスタスタと建物の中に入って行ってしまう。追いかけようかとどうしようかと迷っていたら1分もしないうちに出てきた。

 ヘルメットみたいな被り物を持って。

「はい。これを被ってください。色々分かると思いますので」

 そう差し出され、興味本位で被ると、

『初期設定完了』

 という音声と供に映像が出た。これ、VR? とかってやつ?

「こちらを見てください。分かりますか?」

 声がした方を向く、というより顔を上げると先ほどの人が――いや、先ほどとはまるで別人がいた。

「そういうことです。真っ白なのは映像変換するための下地でしかないので。周りを見ればもっと分かると思います」

 そう言われてあたりを見回すと、今まで真っ白だった建物や道路に色がついている。そして空中に文字も書いてある。

「すごい……」

「そんなわけでどこか行きたいときも路面にガイドが表示されるか案内人を投影するか、まあ様々ですね」

 この先に何があるのか、と考えたら路面に照らされた道しるべと同時に文字がポップアップされた。あ、これ見たことある。前にやっていたMMORPGのフィールドマップだ。

「ところで、なんで私はこんなところにいるんでしょうかね」

 当初の疑問にようやくたどり着いた。そう、ここはどこで私はなんでいるのか。

「そうですね、じゃあちょっと通信機器かなんかありますか?」

 そう言われて携帯電話を取り出す。

「あぁ、これは随分と……。スマートフォンってやつですか。大きくてスマートじゃないですね」

 なんかすごく馬鹿にされた気がするけど、ここで反論しても仕方ないので黙っておくことにする。実際にこの大きいスマホは持ちにくいわ片手操作できないわで不便なのだけど。

「分かりました。可能性はまあないですけど、ちょっと試してみましょうか」

「無いのに試す意味あるの?」

「あぁ、失礼。言い直します。100分の1の可能性はありますので、試してみましょう」

「ほぼないじゃん!」

「えぇ、だから可能性は無いですけど、試すんです。試すくらいならいいでしょう」

「まあ、試すくらいなら……」

 そう口車に乗せられついて行く。

 近くの建物に入るとたくさんの個室があった。ネットカフェみたいな感じなのだろうか、なんか変な装置も置いてあるし。

「それじゃあこれを取り付けてください」

 机にある変な装置を手渡される。ちなみにこれは『転送デバイス』としか書かれていない。

「えっと、どうやってつけるのか分からないんですけど」

「あぁ、そうですよね。じゃあ接続するので待っていてください。ワイヤレスだと周りにも影響が出るからこの装置だけはワイヤード接続なんですよ」

 言っている意味がさっぱり分からない。

「さて接続しました。それでは、元の世界に戻れるといいですね」

「元の――?」

 声に出す前にそのまま意識が遠のく。


  *  *  *


 そして、気がついたら路地の真ん中に立っていた。

 地面は石畳。道の左右には露天商かなにか。

「おう嬢ちゃん、なんだそのへんちくりんな兜は」

 兜? と気づいた。さっき渡されて被ったままだったことに。

 よく見たら何やら文字も書いてあった。

『フェンデルブルク星煌歴175年フェネル公国』

「異世界かよ!!!」

 天を仰ぎながら力の限り叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日替わり異世界 朝凪 凜 @rin7n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ