最終節 離別

 戦いが終わった後。

 シュランメルトとパトリツィアは、そしてララは、互いの健闘を称え合っていた。


「見事な一撃だった。

 あれ以上長引いていれば、どうなっていたのか分からなかったぞ」

「そちらこそ、だ。

 私は負けこそしたが、貴重な実戦経験を得た」


 3人が笑い合っている間に、見物していた全員が続々と集まってきた。


「お疲れ様でしたわ、シュランメルト!」

「お疲れ様でした、ララ様」

「お兄さん、カッコ良かったよー!」

「ララちゃん、カッコ良かったよ!」


 場の緊張が、一気にほぐれていく。

 その時、リラが何かを発見した。


「皆様……。

 あれは、何でしょう……?」


 リラの指の先にあるものは、三角錐型の巨大な何かだ。

 それは徐々に、荒野へと近づいてきていた。


「まさか、敵か!?

 こんな時に……!」


 シュランメルトが急いで、Asrionアズリオンを呼ぼうとする。

 と、ララの声が響いた。


「待て、シュランメルト!

 あれは味方だ!」


 ララの視線の先には、天使と竜をあしらった紋章が見えていた。


「あの紋章が見えるか?

 あれは我々アルマ帝国の国章だ。むっ、隣に見える紋章は……フフッ、そうか」


 国章のすぐ隣には、漆黒の龍がペイントされていた。

 ララはそれを見て、何かを確信していた。


「お前達が来たのか。

 “黒龍騎士団こくりゅうきしだん”」


 味方である事を確かめたララは、声高に叫ぶ。




「総員、荒野から退避しろ!

 あれが……我らがアルマ帝国の軍艦ガウガメラが、着陸するぞ!」




 全員が急いで、荒野から離れる。

 それからしばらくして、三角錐の形状をした軍艦・ガウガメラは、ゆっくりと着陸したのであった。


     *


「俺は黒龍騎士団団長の須王龍野だ。

『“ビューティーファイブ”のメンバーを保護せよ』との命令を受け、ここへ来た」


 須王龍野と名乗る男に続き、続々と“黒龍騎士団”の団員達が下船する。


「情報によると、ここで保護されているようだが……むっ、そこか。

 ヴァイス、シュシュ。三人をお連れしろ」


 すぐさま知子、星子、羽里の三人を見つけた龍野は、ヴァイスとシュシュという女性達に命じ、身柄を保護させる。


「そして、やはりいらっしゃいましたか。

 ララ殿下」

「お前達が来るとはな、龍野。

 もっとも、私もお前達も、この“ベルグリーズ王国”の事は知っていたのだがな」

「社長戦争以来ですもんね、ララ殿下。

 もっとも俺は、直接ここに来るのは初めてですが。

 ところで、ビューティーファイブの三人を保護してくださった方はどちらに?」

「こちらの黒髪の女性だ。

 リラ、彼が黒龍騎士団団長の龍野だ」

「初めまして、須王龍野様。

 私はこの“リラ工房”の主、リラ・ヴィスト・シュヴァルベと申します」

「初めまして、リラさん。

 俺は黒龍騎士団団長の須王龍野です」

「実はお名前だけは存じていたのですがね」

「奇遇ですね、俺もです」


 龍野とリラは、楽しく談笑し始める。

 が、長引かないうちにララが止めた。


「済まないが龍野、ゼクローザスを回収したい。

 団員に運ばせてくれないか」

「承知しました、ララ殿下。

 グレイス、ハルト。ゼクローザスの残骸を全て回収してくれ」

「「はい」」


 グレイスと呼ばれた狐耳の美女と、ハルトと呼ばれた黒髪の男性は、ガウガメラへと向かっていった。

 しばしの間をおいて、2台の鋼鉄人形が姿を現す。それらはゼクローザスの残骸を抱えると、ガウガメラへと運んで行ったのである。


「順調だな。

 ララ殿下、ビューティーファイブのメンバーは三人とも保護を完了しました」

「了解した。

 では行くぞ、黒猫、ミハル」

「了解」

「了解しました」


 そして全ての後始末を終えた黒龍騎士団は、続々とガウガメラへ撤収していく。

 と、龍野とシュランメルトの目が合った。


「もしもし、そこの兄ちゃん」


 先に口火を切ったのは、龍野であった。


「何だ?」

「どこかで、会わなかったか?」


 シュランメルトはしばし考えるも、やがてゆっくりと首を振る。


「どうだろうな。悪いが、分からん」

「そうかい」

「しかし、だ」


 ゆっくりと、シュランメルトは言葉を付け足した。


「不思議と、お前とは他人という気がしないな。名前を聞いてもいいか?」

「龍野。須王龍野だ」

「須王龍野か。その名前、覚えておこう」

「じゃあな」

「ああ」


 龍野は手を振ると、ガウガメラへと入っていった。

 その直後、ガウガメラは空高く飛んでいき、そして消えていった。


「……行ってしまったな」

「ねー。

 もーちょっとだけ、お話ししたかったけどねー」


 シュランメルトとパトリツィアが、名残惜しそうに呟く。

 口にこそ出さなかったが、グスタフとフィーレも同様の気持ちであった。


「それはその通りですね。

 ですが、そろそろ頃合いでしょう。

 工房へ戻りませんか?」


 リラが穏やかに、シュランメルト達へ提案する。


「そうだな」

「はーい」

「そうするよ、ししょー!」

「戻りましょう」


 四人は揃って、リラ工房へと向かう。


 順番に玄関扉を通っていったが、シュランメルトだけは空を見ていた。


「『不思議と、他人という気はしない』か……。フッ、いずれ記憶を取り戻せば、思い出すのかもな」


 それだけ呟くと、シュランメルトはようやく、最後に玄関扉を通ったのであった。




(了)

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荒野の決闘、果たし合う“最強”の二人 有原ハリアー @BlackKnight

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