告知

 ガキの頃から、ずっと好きだった女の子がいる。

 彼女の名前は桐山きりやま桃華ももか。可愛くて優しい、俺の幼馴染み。

 一〇年も前から好きだったのにただの一度も「好きだ」と伝えられないまま、あの子の心は他の男に奪われてしまった。

 うちの高校で最も競争率の高い、あのイケメン王子様に。


〝失恋〟は苦痛だ。一〇年来の片想いに破れた俺は知った。

 苦しくて、痛くて、つらくて、泣きたくて。けれど告白も努力もしなかった自分には、これくらいが丁度いい罰なのかもしれない。

 恋愛とはてして劇的だと思う。出会い、恋に落ち、想いを募らせ、愛を伝える。それがたとえ悲恋ひれんに終わろうと、正しく恋をした者はその過程で大きく成長できるだろう。

 だから俺の――正しく恋をしなかった者の末路など、にがいばかりで当然なんだ。


「(でも……あの子だけにはこんな苦痛おもい、味わってほしくないな)」


 想うばかりで終わった恋の苦味を知り、イケメン王子様に惚れてしまった幼馴染みのことを考える。

 あの子は正しい恋が出来るだろうか。それとも俺と同じように、無意味な失恋を迎えてしまうだろうか。「好き」と伝えることも出来ぬまま、この苦痛に胸をさいなまれてしまうのだろうか。


「(……そんなのは、駄目だ)」


 こんな痛みを知ってしまったら、きっとあの子は泣いてしまう。

 苦しくて、痛くて、つらくて、泣いてしまう。

 それだけは嫌だった。あの子の泣き顔なんて見たくない。自分の恋のために何も出来なかった俺だが、それでも好きな女の子が傷付く姿は見たくなかった。

 守らなければならない。たとえその先で彼女とあの男が結ばれて、より大きな苦痛がこの胸を襲ったとしても。


 ――〝脇役〟の俺が、あの子の恋愛劇を成功に導いてみせる。



【改訂版『失恋のうた~Lost Love Lyrics~』】



       『恋愛劇の愚者』



 今でもたまに考えることがある。

 失恋の苦味を知る前。俺がまだ、終わらない初恋にぶら下がっていた頃。たとえば中学生時代に、卒業式の日に、あるいは高校の入学式の日でもいい。

 惚れた女の子が初恋に落ちるより前に、俺が勇気を出せていたら。

 成否はどうあれ、俺が彼女に告白出来ていたら。

 そうしたら、俺の瞳に映る世界はどうなっていただろうか。


 ……無意味な仮定だ。そんなタラレバ、考えるだけ無駄な話だ。

 でもあの子はきっと、まだに合うから。

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失恋の詩~Lost Love Lyrics~ 茜ジュン @4389

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