惜別

深川夏眠

惜別


 塾の「おじいちゃん先生」が亡くなった。高齢にもかかわらず、わか先生よりよほど活力のある人に見えて、死ななそうだと勝手に思っていたから、ちょっとショックだった。

 お葬式にはトモ君と一緒に行った。本当の年はいくつだったんだと、大人たちが不審そうに話していた。老人には違いなかったが、寿命を引き延ばしながら一定の年齢レベルの壮健さを保っていたとか何とか……要するに、結局、不老不死の夢は叶わなかったけれど、老化を遅らせる秘術を尽くして粘っていたらしい——云々。

「つまり、コイツ」

 トモ君はビーフジャーキーのようなものが入ったジッパー付きのポリ袋を振ってみせた。人魚の肉を乾燥させた保存食で、とても硬くて少しずつしか食べられないという。

 トモ君はお父さんの仕事の都合で、夏休みの終わりに海外へ行ってしまう。しかも、転任を繰り返すと決まっていて、いつ帰国できるかわからないそうだ。

「だから、ね」

 ポリ袋の中から、もっと小さい袋を出し、その赤茶色の薄片を分けてくれた。

「これ食べて、百年後に、また会おう」



                 【了】



◆ 初出:note(2015年)退会済

◆ 私家版『珍味佳肴』(2016年2月刊行)収録

画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/orbEyA5m

*縦書き版はRomancer『珍味佳肴』にて無料でお読みいただけます。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=20414&post_type=epmbooks

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惜別 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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