日常のずの~戦

亥BAR

第1話 トイレでのずの~戦

 僕はもよおしていた。

 オブラートな包みを引っぺがすと小便したいっす。


 そんなわけで僕はトイレに駆け込んだ。まずは、分析から。


 このトイレは入って左側に小便器が五個並んでいる。右側には個室トイレが三つ。よくあるシンプルなトイレの構造だと言える。

 そして問題は……『どのトイレを使用するか』である


 なにを隠そう、


 僕は隣や後ろなどで人が立たれると途端におしっこが出なくなるんです。

(▽:以降、小便器を示す。 ●:以降、僕を示す。 〇、以降、他者を示す。)


▽〇 〇

▽〇 〇

▽〇 〇

▽〇 ←コレ

▽● 〇 ←コレ 〇〇〇長蛇の列

↑ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル


 いや、ほんとだぞ? 思いっきりやばくて今にもはちきれんばかりにたまってるのに、隣の小便器が使用中だった場合、ありえないぐらい出ないんだもん。分かる? ねぇ、分かる? ねぇ、分かるよね!? 


 え? 女子だから分からないです? Sh〇t Up(シャラ○プ)!!


 さて、一旦落ち着いて冷静になるとしよう。無駄な焦りや雑念は敗北へのカウントダウン。着実に思考を重ねていこう。


 まず、人が隣に立つと出せないというのならば、絶対条件として、人がいる隣の小便器は使えない。だが、そこに関しては問題ない。

 なぜなら、現在誰もこのトイレにいないからである。


 なら勝利確定? どこでも問題ない? もし、そんなことを考える人がいるならば、それは実に浅はかと言えよう。むしろ、心理戦はここから始まる。


 考えてみろ、小便器で用を足そうとした瞬間、別の人がやってきて隣の小便器を使う可能性があるのだぞ? そうなれば最悪……終わりだ。


 しかし、僕の性格上、無駄な行動は避けたい。小便器は五つ。一番奥の便器を使用すれば一番勝率が高い。だが、そこまでいちいち行くのはだるいのだ。


▽●( ;´Д`)だるい

▽ ↑

▽ ↑

▽ ↑

▽ ↑

 手前側


 となれば、一番手前でいいのか……。それは違う。それは一番の悪手だ。一番手前に陣取ると、次に来た人は流れ的に二番目の便器、すなわち隣を使用されてしまう可能性が高いからだ。


▽〇← 何も考えないで手前を使用するバカ

▽●( ゚Д゚)


 なるべく近くの便器で事をすませようとする横着な奴は確実に二番目、隣に来る。それはだめなのだ。


 であれば、二番目だが……、結局同じだ。横着する奴は躊躇なく一番目に入ってくる。合わせて、面倒くさがらないやつが三番目に来る可能性もあるのだぞ?


 なにより、これは僕のポリシーに反してしまう。ポリシーって何のことだって? おいおい、分かるだろう。


 もし、二番目と四番目が先に使用されていた場合どうなる?


▽ ←左隣に人がいる箇所

▽〇

▽ ←両隣に人がいる箇所

▽〇

▽ ←右隣に人がいる箇所

 ●<(゚ロ゚;)>Nooooooo!!


 つまり、空いた箇所、一、三、五番目はみな、隣に人がたっている状態になるのだ。もし、これが一と三番目だったなら……


▽ ←隣に人がいない。やったね!!

▽〇

▽〇


 そう、最大三人までは入れるのだ! これは周りを考えていない愚か者の冒涜行為に他ならない。事実、この状況に出くわして、絶望した回数はいくらあったか……。

 この二番目四番目に人が入る布陣を『愚者の戯れノーシンク・インターバル』となづけよう。


 僕は他人にやられて嫌なことは絶対にしない主義だ。よってこの『愚者の戯れノーシンク・インターバル』の布石となりうる二番目は使用しない。


 では……三番目はどうだろう?


▽●(`・ω・´) ど真ん中を攻めるぜ



一見するとダメな場所に見えるかもしれない。両端ががら空きだ。こんな無防備をさらせば攻めて(※♂の意味ではない)くださいと言っているようなもの?


 だが、非常にいい場所だと考えられる。まず、僕が三番目の便器に初手を打つことにより、1、3、5の布陣へとつながっていく点だ。


▽〇

▽●

▽〇


 これは理想的な布陣。僕が望む真の平和だ。これを『祝福の時間エンジェル・パーティ』という布陣名にして、目指すべき型とした場合、実にいい。


 僕の次に入っていた人の使用しやすい便器は一番目になるという点も効果的。

 僕が三番目にいるなら、次の人の選択肢としてまず一番目と二番目が考えられる。


 もし、横着タイプならば躊躇なく一番目を使用するだろう。そして、僕のような隣に人がいるのがいやな人も二番目は避けようとする。


 合わせて四番目の使用率も低い。手前二つが開いていたら、わざわざ四番目に来ようという人はいない。そこまでするなら、一番奥の五番目を使用するに決まっている。


 三番目を選ぶことは、隣に人がたつ可能性を限りなく排除したうえで、かつ手間も最低限、そして、最強の布陣『祝福の時間エンジェル・パーティ』への布石となりうる一手ということになる。


 初手に四番目を選ぶのはそこまで行く手間もかかるし、なにより『愚者の戯れノーシンク・インターバル』の布陣につながる悪手。

 決まった。もはやこれ以外はない。


 三番目の小便器を使用することは、僕にとって最善の定石であると決定づけられた。この定石を『希望への一歩ニューワールド』として未来につなげていく所存。


 トイレに入ってからここまで思考、約一・五秒。長いようで短い思考だった。だが、これですべては決まる。

 僕はいそいそと三番目の小便器の前に立ったのだ。


 そして、チャックを開け……、

「おぉ……間に合った!」


 ……なんか来た。


▽●

▽〇 ←敵


 ……(●゚Д゚)?なぜ!?


 男は突然トイレに入ってきたかと思えば、特に躊躇することなく二番目の小便器の前に立ったのだ。そう、三番目に僕がいるというのに……。


 僕が「なんだてめぇ?」という嫌悪感を露わにしてにらむがお構いなし、用を足し始める。


 何なの!? ここまで頑張って考えたのに、その行動は何!? 定石に勝つには定石を外せってか!? あぁん!? どういう思考したらそこに陣取れるんだよ!?

 なぜ、敢えて二番目を取る!? 一番目空いてるよね!? 理由を述べよ!? 理由を述べよ!?


 お前の神経はどうなってる!? 腐ってるのか、あぁん!? 僕が好きなのか? 僕に好意を寄せて近寄ったのか!? だとすれば、全力でお断りします~!


 待って待って待って、本当にどういう思考回路で至れば、そうなるの!? あぁ、待って、もう終わる? 終わった?


 なら、せめて手を洗う前にインタビューおにゃしゃす。どうしてあなたは、二番目を使用しようとしたのでしょうか? その時の気分や感情も含めてお答えいただけたらと思うのですが?


 あ、コラ。逃げないでください。みんなが見てるんですよ! 今回のあなたの行動に対して一言! あなたはどう思われているのですか!?


 と、思っている間にも用を足し終えた男は颯爽とトイレを出ていった。


 そして、悟る。


「あ……っ、普通は何も考えてないんだ……」


 それに至ったとき、僕の小便はやっと出始め、すべてを出し切ったのは男が出ていってから一分経過したころだった。



 え? だったら、個室の便器使えばいいって? おいおい、そりゃ負けだろ? 逃げだろ?


 男は黙って立ちしsy

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日常のずの~戦 亥BAR @tadasi

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