村人たち-2
坂を下りていくと、一番手前の畑に見慣れた姿を見つけた。
「ユーファ!」
短い赤髪に白のシャツとオーバーオール。ユーファが農作業をするときのいつもの出で立ちだ。
クレイの声に気づいたユーファが作業を切り上げて駆けてくる。
「あ、クレイじゃん。最近は調子良いからあまり依頼は行ってなかった気がするけど、どしたの?」
「や、今度また遠出するからその準備に。保存食って今余裕ある?」
「まぁ、大体アンタしか使わないしね。食料自体も別に困窮はしてないし、倉庫のやつ使って大丈夫よ。あ、でも一応ばばさまには言っておいてね」
「わかった。と言ってもユーファが許可したなら問題はないと思うけどな」
ユーファはこの村の中では当然若い。あまりクレイが言えることではないが、主に『子供』に分類される年齢ではある。それでも村での連絡役や食糧管理などを任されているのは、それ相応の管理と計算ができるからだ。
この村での供給はクレイが持ち帰ってきた道具たちと、それに対する知識をしっかりと吸収し、クレイがいないときでも管理をしてくれているユーファによるところが大きい。村の人たちもそのことを理解しているし、なによりユーファはその愛嬌の良さから可愛がられているところもある。
「こんな世界だというのに子供たちが信頼を得て動いているというのは中々珍しいわね」
ふと後ろにいたティアが顔をのぞかせる。周囲にある道具たちを見回し、これはクレイが持ってきたものかと問う。
クレイがそうだと答えると納得がいったように頷いた。
「ここの村は、とても平和なのね」
「まぁね。それに、若い人って言っても僕とユーファくらいしかいないから」
「そうなの?」
「そうだよ。僕はこうやって道具の提供と手入れ。ユーファは管理と労働って感じで十分に貢献してるからって感じかな」
「クレイ? 誰その子」
見知らぬ少女にユーファが興味を示す。が、その姿を見て招待を察したらしい。すっと目を細め……
「なになに! どーしたのこんな可愛い子連れてきちゃって! 外で彼女でも作っちゃったわけ!?」
「うぐ……」
「しかもこの子、灰喰らいよね? やー、外出てると珍しい出会いもあるもんだねぇ。めんどくさいでしょ、クレイ」
「ええ。忠告を全く聞いてくれないもの」
「でっしょー! いやまぁ、でも貴女みたいに灰喰らいが一緒にいてくれると安心なのかしら?」
「まぁ、一応警戒はしてるけど……。というか、恐れないのね」
「何が?」
ものすごい勢いで詰めてくるユーファからティアは一歩引きながら問う。
「人間っていうのは本来未知の生命体に対して恐れと警戒を抱くものよ。それも、私はこんな死に絶えた地上で生きる灰喰らい。人間たちにとっては恐怖の対象としても見られている、というのがこれまでの経験則なのだけども」
「でも、私灰喰らいに会うのって初めてだよ。いいなーこういうフリフリの服可愛いよねぇ」
「……クレイ、この人間の距離感が少し怖いのだけど」
「あー、うん。ユーファはこういう子だから。自分の感性に従ってる子だから、あまり灰喰らいとかの偏見はないのかも」
「にしても……まぁ、いいわ。下手にあれこれ言うより、そういうものとして受け入れた方が楽だもの」
はぁ、と軽くため息をつく。どちらにせよ、必要以上に怖がられるよりはマシだわ、と。
「んで、どしたのさ。灰喰らいの子連れて歩くなんて。あ、もしかして結婚するから村案内してた? んで食料も準備ってことはあれですかい。ハネムーンってやつ? やっるぅ!」
「まてまてまて。一から説明するからちょっと黙ってて!」
灰塵の先でまた会いましょう 翡翠 蒼輝 @croix0320
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