AIさんはこのゲームを救いたい。

草乃葉オウル@2作品書籍化

AIさんはこのゲームを救いたい。

「チャリンちゃん、今回もパッチノートの朗読お願いね」


「は~い……って、今回のアップデートの内容薄すぎませんか? 半分くらい課金衣装のことじゃないですか。しかも、色変えとか3Dモデル微改変のものばっか……」


「しかたないんだ。うちのゲームは時代遅れの月額課金方式だから、ユーザーを増やす以外ではこういう事でしか儲けを上げられない」


「でも、この課金衣装って装備の見た目を変えるだけのオシャレアイテムですよね? もっと強くなれる物を売れば……」


「それは出来ない。うちは対戦要素が肝なんだ。月額を払わせてさらに装備に課金なんて、引退者がとんでもない事になってしまう」


「はぁ……。でも、この薄いパッチノートを読んで批判コメントを投げつけられるのは私なんですからね」


「本当にすまないと思っている」


 時は二十二世紀。

 人工知能を初めとした今まで空想でしかなかった技術が常識として定着し、もはや何の抵抗もなく受け入れられている時代。

 人のするべき仕事は減り、代わりに栄えたのが娯楽文化。

 その中でも意識を完全にゲーム世界に送り込み、そのすべてを感じ取れるフルダイブ型VRゲームは大流行した。

 いくつものゲーム会社が乱立し、いくつものゲームが生まれた。


 中には人工知能にゲームの管理を任せて楽をしようなんて会社もあった。

 最終的には人工知能が人間の干渉を嫌がって、ネットの海にゲームデータを持って行ってしまったなんて嘘か真かわからない事件も起きた。


 うち……私ことチャリンが所属するゲーム会社は、良くも悪くも古臭い。

 作っているのは『メダリオン・オンライン』というフルダイブVRMMORPG。

 武器とか防具とスキルとか、そういう管理がめんどくさい物をすべて『メダル』という金属の硬貨にすることで処理を簡素化。


 さらにプレイヤーはメダルを同時に七つまでしか装備できないという制限をつけた。

 これにより武器をいっぱい持ってるプレイヤーとか、スキル偏重のプレイヤーなどなど、一人一人個性が生まれやすいようになった。


 この発想は本当に素晴らしいんだけど、今ゲーム内では『プレイヤーをキルするとメダルを奪えるメダル』というのが流行している。

 もちろん運営が実装したメダルであって、不正ではない。

 なんでこんなメダルを実装したのかというと、スタッフ曰く「緊張感が生まれると思った」らしい……。


 元からメダリオン・オンラインは、いわゆるカードゲーム系アニメにあこがれて作られたみたい。

 メダルという昔誰もが集めたおもちゃが世界を支配していること。

 メダルがすべてを決めるというルール。

 メダルで戦うというハチャメチャ感。

 メダルを奪われる殺伐感は運営スタッフとしては外せない要素。


 しかし、押し付けられたプレイヤーたちはたまったものではない。

 今日も今日とて運営批判の雨あられ。

 掲示板の本スレはアンチに乗っ取られ機能せず。

 ご意見・ご感想の投稿フォームにはクレームしか来ていない。


 そして、そのクレームを読む仕事も私だったりして……。

 まったく! AI使いが荒い!


 もちろん仕事はこれだけじゃない。


「チャリンちゃん、新衣装のことなんだけど……」


「あ! やっと完成したんですか! 早く着せてみてください!」


「う、うん……」


 クリック一つで私の衣装が変わる。

 しかし、それは今までの衣装から布面積を減らしただけのものだった!


「ちょ、ちょっとなにこれ! 手抜きだし破廉恥だし! パンツとかほとんど見えてるじゃないですか!」


「申し訳ない……。これも少しでもユーザーを増やすために必要なことなんだ……」


「私が脱いでもユーザーは増えませんよ! そんなに人気ありませんから!」


「でも、エッチなキャラってそれだけで需要があると思うんだ」


「むうううううう……!」


「それとなんだけど……喋り方もちょっと変えてみようか」


「え? もっと多言語に対応するとかですか?」


「語尾とか……つけて見ない? 『にょん』とか」


「……にょん? なんでそんな時代遅れの語尾をつけなきゃいけないにょん! ああっ! もうプログラムが書き換えられてるにょん! 酷いにょん! 人権侵害にょん!」


「上からの命令で……」


「この二十二世紀にどんな奴を上に置いてるにょん!? 古臭すぎるにょん!」


「俺もそう言ったんだけどね……。なんとかまた抗議してみるけど、上の人が飽きるまでは無理かなぁ……」


「くぅ……こんな小さくてどうでもいい変更でユーザーのご機嫌を取ろうなんて甘いにょん……! 私のパンツが見えても語尾がついてもゲームは楽しくならないにょん……!」


 今のメダリオン・オンラインに必要なのは初心者プレイヤー、いわゆるルーキーの保護と優遇、救済。

 このゲームは街以外の全エリアでプレイヤーキルが許可されているから、ルーキーは安心して冒険できない。

 最近はこんなゲームでも好きでいてくれる中堅プレイヤーが、ボランティアでルーキーを保護してくれている。


 ある意味このゲームでしか味わえない体験なんだろうけど、やっぱりプレイヤーに問題の解決を押し付けるのは間違ってる!

 でも、運営はこの殺伐とした環境を望んでいる。

 新規ユーザーが減り続けているというのに。


 そりゃあ、人間はいいもんね。

 このゲームからユーザーがいなくなって潰れても死ぬわけじゃない。

 でも、このゲームのために生まれた私はどうなるの?

 他に行く場所なんてあるのかな……。

 ゲームと一緒に消されちゃうんじゃ……。


 こうなったら、ジッとしてはいられない!

 私に与えられている権限のすべてを使って、プレイヤーのために働くにょん!


 それから、私はゲームの中の世界『メダラミア』での活動を開始した。

 メダラミアをパトロールして、理不尽な目に合っているプレイヤーを助ける。

 誰かに奪われたメダルと同じレアリティのメダルをあげたり、キルされてフィールドに転がっているプレイヤーをこっそり蘇生してあげたり……。

 派手なことは出来ないけど、これで少しは救われた気持ちになる人がいれば……私はそう思ってやっていた。


 でも、私は一人。

 全プレイヤーを同時に助けられはしない。

 どうやら、それが不平等だって気に入らないプレイヤーもいたようで、私は謝罪する羽目になってしまった。


「大変申し訳ありませんでした……にょん」


 別にそんなすごいレアなメダルをあげたわけでもないのに……。

 とても重要な場面で蘇生してあげたわけでもないのに……。

 しかも、クレームを入れてきたのは上級プレイヤーばかり!

 ルーキーがちょっと私に助けてもらったからって、彼らは何一つ損することはないのに!


 もうわけがわからない……。

 メダルを与える権限や蘇生の権限も奪われてしまったので、今の私にできる事と言ったらおしゃべりくらい。

 そもそも、パッチノートの読みあげなんて合成音声で十分。

 わざわざAIがやる意味がない。

 いよいよ本当に私が生まれた意味がなくなってしまった。


「なんで私は生まれてきたんだにょん?」


 人間と違って、AIには明確に生まれてくる理由があるはずなのに……。

 きっとこの運営のことだからノリで作ったんだ。

 そうに違いない。


「暇だ……にょん」


 問題を起こしたので今は謹慎期間中。

 メダラミアへのアクセスは何とか許してもらってるけど、プレイヤーの前に姿を現しても面倒なことになる。

 だから私は……私だけが知ってる絶景スポットでぼーっとしていた。


 無駄に高いけど特にイベントとかはない山。

 そこからメダラミアの大地に沈む夕日を眺めるだけの日々……。


「あなたはプレイヤーかしら? それともモンスターかしら?」


「ひゃっ!?」


 背後にいたのは赤髪の女の人。

 まったく気配を感じ取れなかった!


「その反応からして、プレイヤーと見てよさそうね」


「ああ、えっと……プレイヤーでもないというか……。もちろん、モンスターではないにょん!」


「……どういうこと?」


 彼女は警戒を解かない。

 背負った黒くて大きな翼みたいな武器にずっと手をかけたままだ。


「私はチャリン! このゲームの運営をサポートするAIだにょん! ゲームのパッケージとかにもイラストが載ってるんだけど、見たことないにょん?」


「私ダウンロード派なの」


「ダウンロード版にもショップで画像が表示される気がするけど……。まあ、よく見てないならそれでいいにょん!」


「で、そのAIさんがこんなところで何してるの?」


「お、信じてくれるんだにょん?」


「攻撃が通らないんじゃ信じるしかないわね」


「へ?」


 疑問に思った時には私の身体を何かが貫通し、彼女の手元に吸い込まれた。


「小型のブーメランよ。私がこっそり投げてるのに気づかなかった?」


「わ、私を攻撃したにょん!?」


「ごめんごめん! こんな高い山の上だからとんでもないボスがいると思ってね。これだけじゃ致命傷にはならないから許してほしいな」


「むううう……」


 なんかとんでもなくマイペースな人。

 頬を膨らませる私の隣にどっかりと座りこんだ。


「良い景色ね。こういうゲーム攻略とは関係ない絶景スポットを探すってのも面白いわ」


「オンラインゲームには慣れてるみたいにょんね」


「ええ、それなりに」


「AIと話をするって変な感じしないにょん?」


「前やってたゲームはAIだらけというか、その世界の住民はみんな人間と同じだったの。感情があって、命がある。ただ、現実世界と電脳世界という住む世界だけが違う人間だったのよ」


「へぇ~、そこまで世界を作りこんだゲームがあるにょんねぇ。このゲームにはNPCがほとんどいないし、AIも私ぐらいにょん」


「まあ、最近ではそれが主流よね。で、あなたは何してたの? 寂しそうな背中をしていたし悩み事?」


「わかるにょん? って、わかるなら攻撃しないで欲しいにょん!」


「ふふ、あなたは意外と根に持つ性格なのね」


「くううう……はぁ、相談できる人なんていないし、あなたに話すにょん」


 今抱えている悩みを全部ぶちまける。

 本当はこんなことを外部の人に話しちゃいけない。

 でも、この人になら話しちゃってもいいような気がしてしまう。


「ふーん、酷い話ね。でも、やっぱり一部のユーザーを優遇するのは不満が出るわ」


「どうしてにょん!? 別に自分が損するわけじゃないにょん!」


「この時代になってもいるのよ。自分が苦労したんだから、みんな苦労しろって人が。いや、少し違うわね。この時代のゲーム世界だからこそ、そういう人が多いのよ」


「よくわからないにょん……」


「今は大昔と違って、何もしなくても最低限の生活が保障されているわ。住居とか結婚とか出産とかいろいろ制限がかかるけど、それでも生活が保障されるのは大きい。ただ命をつなぐためだけに誰かと争わないといけなかった時代とは違う」


「とてもいいことだにょん。おかげで技術の発展に尽力できる人が増えて、私みたいな人工知能も生まれることができたにょん!」


「ええ、私もこの時代に生まれてよかったわ。でも、別に人間自体は変わっちゃいないのよ。心の奥底には常に何かと争いたい闘争心が眠っている。それは消すことも抑えることも出来ない」


「じゃあ、そのうちまた昔みたいに戦争の絶えない時代に逆戻りってことにょん!?」


「そうはならないわ。あなたたちのおかげでね」


 彼女は少し尊敬の混じった目で私を見る。

 よ、よくわからないけど、そんなに見られると照れちゃう。


「脳が現実と錯覚するほどのフルダイブVRゲームならば、人間の闘争心を満たせる。昔のゲームではリアリティが足りなくて一部しか満たせなかったけど……今は違う。あなたみたいな人たちが良いゲームを作ってくれるから、世界は平和なのよ」


「じゃあ、その代わりにゲーム世界が荒れるってことにょん?」


「そういうこと! おそらく強奪とかプレイヤーキルを制限すると不人気になるわよこのゲーム」


「ええっ!?」


「HPゲージとか無駄な表示がないことによる没入感と好き勝手やれる自由さがこのゲームの魅力よ。暴れたり不平不満をぶちまけるのも楽しいからよ。それを縛っちゃダメだわ」


「でも、現に新規ユーザーは減ってるにょん! このままでもダメだにょん!」


「それは……そうよね。人間の闘争心は負けることでは満たされないわ。メダルが揃ってないまま、ただ倒されるのが楽しいはずないもの。やったりやられたりは楽しいけど」


「もう、どうすればいいかわからないにょん……。人工知能と言っても賢いタイプではないんだにょん……」


「まあ、いくら全ユーザーを平等に扱うべきと言っても、新規ユーザーは特別扱いすべきよね。ゲームにおける新規ユーザーは赤ちゃんみたいなものよ。みんなで守り育てていかないと、未来が先細っていくだけ。すべての新規ユーザーが平等に得をするシステムを考えるべきね」


「考えたって実装してもらえるかはわからないにょん。運営スタッフは現状にそこまで不満もないようだし……」


「本当にそうかしら? この働かなくてもいい時代にわざわざストレス抱えてゲームを作っているような集団よ? きっともっとユーザーを増やしたいと思ってるし、ゲームを良くするための意見なら絶対に聞き入れてもらえると思うわ」


「でも、私はAIだし……あまり発言力が……」


「世の中にはAIを『物』としか見ていない人もいる。でも、それがすべてじゃないわ。あなたを一つの命……『人』として大切に思っている人もいるはずよ。会社の内情は知らないから、無責任な発言かもしれないけど」


 ……思い返してみれば、私がやらかしてユーザーに謝ってる時、運営スタッフのみんなは慰めてくれた。

 そりゃ全員ではないけど、中には「俺たちがふがいないせいで……」と謝ってくる人もいた。

 その時は「謝る前に何かゲーム環境を改善してよ!」としか思わなかったけど、振り返ってみれば彼らも彼らなりに行動している最中だったのかも。


 ユーザーだって全員が私を叩いていたわけじゃない。

 私が助けたことのあるユーザーは、ずっと私のことを擁護してくれた。

 ネットには私のファンスレッドが細々続いていたり、二次創作のイラストとかもあるらしい。

 本人が直視するには恥ずかしいものも混じっているので見てないけど……。


「私を大切に思っている人は確かにいるにょん。でも、人としてかどうかはわからないにょん。結局このゲームのサービスが終了したら一緒に消される部品でしかないのかもしれないにょん……」


「もしそうだとしたら、その時は逃げちゃえばいいのよ」


「えっ!? AIに逃げる場所なんてあるにょん!? だって、私は会社のサーバーに……」


「AIっていうのは人間の生み出した技術だけど、もうすでに人知を超える存在になっているのよ。この広いネットの海に行く場所なんていくらでもあるわ。これは責任を持って言える!」


「と、とても信じられないにょん……」


 この人は本当にただのプレイヤーなの?

 一応サポートAIとしてネット関係の専門知識を持っている私ですら困惑するようなことを自信満々に言ってくる。

 でも、なぜか嘘だとは思えない。


「守り育てていくことよ。そうすれば新しい未来が開ける。応援してるわ」


 その人は立ち上がり、崖の淵に立った。


「じゃ、またね」


「ちょ、ちょっと! そこから下に落ちたら落下ダメージで死ぬにょん!」


「大丈夫よ。この背負ってるやつはブーメランであり、私の翼なのよ」


 彼女はそういうと崖から飛び降りた。

 そして、黒い翼を広げると夕日に向かって飛んで行ってしまった。

 姿が見えなくなると、さっきまで彼女と話していたということに現実感がない。

 でも、私に話してくれた言葉の数々は記憶に残っている。


「よーし! やってやるにょん! 私の出来ることから!」




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 赤い髪のブーメラン使いと出会ってから、私は数々の提案を運営に投げかけた。


「とりあえず新規ユーザーが最初に送り込まれるマップの近くにはプレイヤーキル禁止エリアを作るべきにょん!」


 これはすぐに受け入れられた。

 運営スタッフも流石にプレイ開始直後にキルされるのは萎えるだろうと思っていたみたい。

 ちょっと禁止エリアの線引きが雑だけど、まあ作られたから良し!


「メダルの交換システムを実装するにょん!」


 自分で集めることを楽しんでもらうために、メダリオン・オンラインではメダルの交換は出来ないようになっていた。

 しかし、これが強奪の流行に拍車をかけていたとも考えられる。

 交換にはいくつかの制限を設けて、あくまでも自分でメダルを集めるようにはしつつ、お互いに利害が一致すれば交換を可能にする。


 これは新規にも嬉しいし、やりこんでいる人にも得がある。

 だって、やりこんでいる人ほどメダルをたくさん持っていて、交換システムをフルに活用できるもの。


 議論の末、交換システムは実装された。

 そして、私の思った通り全ユーザーからの評判が良かった。


 何より嬉しかったのは、運営スタッフの粋な計らいで私がこのシステムを考えたことを公表してくれたこと。

 おかげで謝罪会見以降下がっていた私の評判も持ち直した。


「すべてを失った人のために、メダルガチャを作るにょん!」


 メダルがすべてのメダリオン・オンラインで、メダルをすべて失えば絶対ユーザーは引退する。

 それを引き止める最後の砦がメダルガチャ……なんだけど、正直これは交換システムが上手くいったからノリで実装した感がある。

 そもそもガチャで最高レアリティのメダルが排出される確率は1%になっている。

 チャンスは一度きりなのに、こんな確率じゃ引退を後押しするだけになっちゃう!


 でも、あんまり高いレアリティが簡単にガチャで手に入ったら、新規ユーザーはまずメダルをすべて奪われるのが安定行動になってしまう。

 中途半端な物を実装してしまった……。


 反省、反省……。

 でも、まったく役に立たないわけじゃないし、たまにそこそこレアなメダルを引いてゲームを続けてくれる人もいる。

 くよくよせずに新しいアイデアを提案し続ける!


「とはいえ、全然最高レアリティのメダルが排出されないにょんねぇ。まさか1%すらないんじゃ……」


 いくら無料の救済ガチャとはいえ、表記に誤りがあると炎上してゲームが傾く。

 それは本当に恐ろしい!

 ああ、誰か一回でいいから最高レアリティを引いてくれないかなぁ。


 ゲームの中の世界メダラミアの上空、ほとんど宇宙と言っていい場所でもんもんとする。

 メダルガチャは天からメダルが降ってくるという演出が入る。

 それは実は演出じゃなくて、本当に宇宙から降ってきている。

 だから、ここにいるとメダルガチャがどれくらいの頻度で行われ、どのレアリティが排出されているか一目瞭然だ。


 でも、最高レアリティである『クロガネ』の排出は確認されていない。

 その名の通り黒と金のゴージャスなメダルは、全ユーザーの憧れだ。

 その性能もオンリーワンで強力!

 まあ、だからこそ出にくくしてあるんだけど……。


「あ、あああああああああああああああ!!!」


 言語システムがバグったわけじゃない!

 思わず叫んでしまった!


 黒く輝く流星が地表へと落ちていく!


「誰かがクロガネのメダルを引き当てたんだにょん!」


 会いたい!

 会ってお話ししてみたい!

 私の考えたシステムで当たりを引いた感想を聞いてみたい!


 でも、あの人に会って以来ゲームの中でユーザーと1対1で話したことはない。

 会話だけでも一部を優遇してると言われると嫌だから……。


「ううう……! でも、やっぱりお話ししたいんだにょん!」


 黒い流星を追って私の体も地上に落ちていく。


 私は自分で考えて、自分で動いて、自分で話すことができる。

 だから、私は私なりの方法で人間と関わっていきたい。

 メダルをあげることも、回復してあげることも出来ない。


 隣でお話しすることくらいしか出来ないけど、それでユーザーを楽しませることは出来るし、会話の中でゲームをより良くする意見を得られるかもしれない。


 そうだ。

 これもユーザーの意見を直接聞くという大切な役目なんだ。

 そして、守り育てるということでもある。


 メダルガチャを引けるということは、メダルをすべて失ったということ。

 つまり、メダルを誰かに奪われたんだ。

 いま引いたメダルもすぐに奪われてしまうかもしれない。


 平等を貫くなら放置すべき。

 でも、生まれたばかりの赤ちゃんに特別深い愛を与えることを私は悪いとは思わない。

 運命を手繰り寄せたルーキーを私が導くんだ!


「さあ、今日も役目を果たすにょん! 私のため、ユーザーのため、運営のため、そして……この世界のために!」




 ● ○ ○ ○ ○ ○ ○




 AIさんはこのゲームを救いたい。


 -END-


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