エピローグ

 これはあるキャンプ場での僕の一日である。


 その日の朝は感動の再会から始まった。

 

「ひとみ…本当にひとみ、なのか?」


「ああ。久しぶり兄ちゃん」


 兄ちゃんは僕の顔を幻覚ではないかと確かめるようにペタペタと触ると、本物であることを確信したのか、僕をがばっと抱きしめた。そして僕の肩でむせび泣く、肩に落ちる涙はやっぱり温かった。


「ごめん。ごめんな、ひとみ」


 何度も、何度も、繰り返し謝り続ける兄ちゃんの背中を僕はずっと無言で優しくさすり続けた。



 その日の昼は優しい手紙でつながれた。


「はい」


 まだ昔のような父と子の関係に戻り切れていない僕は、不愛想にその手紙を渡した。


「これは…?」


「母さんから、あんた宛てに。それじゃあ確かに渡したから」


「待ってくれ」


 父はテントから出ようとする僕を呼び止めた。僕は顔をしかめながら「なに?」と用事を問う。


「その…先日はすまなかった。お前の気持ちも考えずに」


「その件はもういいって。あれは僕も悪かったし…」


「いーや。ダメだ。それに私はひとみにもう一度父と呼んでほしいんだ。あれくらいの怒りは受け入れる覚悟がなければいけなかった」


 もうこの話を蒸し返されるのは何回目だろう。それに僕が父に抱いていた感情は怒りとか憎しみだけではないというのに。


「あんたは…本当に僕があなたを恨んでいるだけだと思ってる?」


「う、恨み以外にもまだあるのか…?」


 呆れた…この父親本当にわからないらしい。


「はぁ。それがわからないなら僕はあんたを一生父とは呼べないな」


「え、ちょっと」


「ばいばい。


 ちなみに父がもらった母からの手紙の内容は要約するとこんな感じだったらしい。『頑張って生きなさい』だと。それと『心配していました』となぜかそこだけ違う人の筆記だったらしい。



 その日の夜は誰もいない夜空の下で終わった。


「まだ起きてたのか、夢宮?」


 トイレに来た僕は一人夜空を眺めていた夢宮を見つけ声をかけた。


「なんだか夢が叶ったみたいで、眠れなかったのよ」


「…そうか。それは企画した甲斐があった」


「ええ。あなたのおかげよ。ありがとう」


「…おう。どういたしまして」


 今日はよく晴れてあの日見れなかった星空もよく見える。懐中電灯がいらないくらい月もきれいに光っていた。


 だからだろうか今日は…草むらで隠れている人たちが見つけやすかった。

 

「みんなも一緒に見ないの?」

 

 夢宮が後ろの草むらを凝視しながらそう言った。


「ほらー。竜の隠れ方が悪いからバレちゃったじゃないー」


「いやいや。それを言うならゆうじもなかなかだったぞ」


「俺は最初からめんどいって言ったぞ。竜兄」


「いやでも霞ちゃんもお尻若干はみ出てたよ」


「かおるちゃん⁉」


 ぞろぞろと騒がしく後ろの草むらから四人が出てきた。まったく騒がしい、でも昔に戻ったみたいでなんだか無性に懐かしかった。


「これで彗星でも流れたらなー。ちらちら」


「流さないわよ」


「ちぇー」


「あ、流れ星!」


 夕暮が素早く見つけた。そこで僕は思い出す。流れ星が流れている間に願い事を三回言うと願いが叶うっていう可愛らしい迷信を。


「願い事…言わないのか?」


「ええ。だってもう全部」


 誰も願い事は言わなかった。みんな迷信を信じてないとか、ただ言うのがめんどくさいとか。そんなんじゃない。もうみんな単純に願う願い事がなかった。


「―叶ってるんだもの」


 もう誰も願う人がいない夜空の下で。僕たちはまた一つ。彼女が願った夢を叶えた。



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誰もいない夜空の下で 畏月 十五夜 @sakaisyou0415

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