第300話 お前の竜瞳は節穴かっ!
『ライナ!。しっかりしてください!。』
·······
ライナの背中に憑依するサーリは何度もよびかけかる。
············
ライナの竜瞳は魂が抜けたように雲り。心はどこか遠くへと行ってしまっているようであった。意識が遥か深い深層にまで到達しており。サーリの呼掛けにもまるで応答しない。
『いけない!。完全にポーゼルのイマジョリィディスサイティ(幻傷深層心理)にかかっている。このスキルに解放されるにはポーゼルを倒すか。己自身のトラウマを克服するしかない。まさかライナにもトラウマがあったなんて······。』
サーリがノーマル種のライナがトラウマを抱えているとは思ってもみなかった。確かにノーマル種は王都では下等とみなされ。貴族からは蔑まれていたけれど。トラウマを抱えるほどのこととは思わなかった。王都の闇がここまでノーマル種を蝕んでいたとは。サーリは王都の貴族の令嬢として本当に申し訳ないと思った。
···········
『サアアアアアアアリリリリリリ!!!サアアアアアアアリリリリリリ!!!。』
幻想竜ポーゼルは未だ主人(サーリ)を探し。呼び続けている。
『これからどうしたらいいの······。』
サーリはライナの憑依する背中の上で途方にくれる。
頼みの綱であったライナは幻想竜ポーゼルの精神支配系スキルを受け。戦闘不能になってしまった。最早打つ手がない。彼を解放する術を喪った。いや、それ以上に他の騎竜であるノーマル種のライナを自分の願いのために巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている。もし相棒のポーゼルの精神支配系スキルで廃人(廃竜)になってしまったならライナの本当の主人に顔向けできない。謝罪してもしきれない。サーリは自分は何てことをしてしまったのだろうと後悔する。悔やんでも悔やみ切れない。
···················
ひゅううう さらさらさらさらさら
『えっ?』
サーリは微かな風がながれるのを感じた。本来なら死者であり幽霊でもある自分には風を肌で感じることがないのに。今微かに流れた風は確かにしっかりとサーリの肌で感じ取れたのだ。
『これは何っ?。』
サーリは眉を寄せ困惑する。
ひゅうううううううううううるるるるるるるるるるるるるるる〰〰〰〰〰〰
『えっ、突風!?。』
突然王都上空に突然、突風が吹く。
王都に突風が吹くのは不思議なことではないが。しかしあんなに静けさと静寂を保っていた深夜に突然の突風が吹き荒れることはサーリは違和感を覚える。
キィえええええええええええええええええててえーーー
びゅううううううううううううううううううう
びゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『な、何なのっ!?。』
激しく流れだす突風とともにどこからか嘶きような声が風と一緒に流れてくる。それと同時に強烈な突風はライナの身体全身をまるで洗い流すかのように流れていく。
その突風は意識が抜けたライナにまるで当てるかのように直撃していた。
びゅううううううううううううううううううう
『これは······一体?。』
サーリは今自分がどういう状況におかれているのか理解できなかった。突然王都上空に風が吹き荒れたとおもったら何か嘶きような声が風とともに流れ。激しい突風がライナの身体にぶつかるように吹きあげているのだ。このような現象は生まれて初めである。
びゅうううううううううううううううう
······目覚めなさい·····
パッ リィン!
何かがガラス砕けたように弾ける。
深き深層の中に取り込まれたライナの意識は誰かの呼び声に呼応するかのように覚醒させられる。
ギャ···ギャア······
(うっ··うう······。)
『ライナっ!?。』
サーリはライナが目覚めたことに歓喜する。正気を取り戻したということは幻想竜ポーゼルの精神支配系スキルから解放されたということである。
『ライナ、大丈夫なの!?。』
ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアギャ····
(はい、何か幼い頃の夢を見ていたような···。その後、誰かに起こされたみたいなんですけど····)
ライナは少し二日酔いのようにクラクラした竜の頭を左右にふるう。
『誰かに起こされた?。』
ポーゼルのイマジョリィディスサイティ(幻傷深層心理)の呪縛を誰かが解いたということだろうか?。なら誰がライナにかかったスキルを解いたのだろう。そんな芸当ができるのは同じ精神支配系スキル持ちの竜か。或いは西方の······
サーリは少し考え込む。
ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャア!
(サーリさん。ポーゼルの正気を取り戻しましょう!。)
ライナの提案にサーリの顔が少し俯く。
『でも、ポーゼルが正気を戻るかどうか···。それにライナにはこれ以上迷惑をかけられない。』
ポーゼルの精神支配スキルであんな目にあったのだ。ライナが廃人(廃竜)にならなかったとはいえ。次にならないとは限らない。
こちらからお願いしたとはいえこれ以上危険な目には合わせたくない。
ギャアラギャアガアギャアギャ!ギャアラギャアギャ!ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャア
(サーリさん。俺は大丈夫です!。諦めては駄目です!。俺も何度も諦めかけしましたが。主人のおかけで諦めずに王都のレースに出場できるくらいまで出世したんですから。だから諦めないで下さい!。一緒に相棒のポーゼルの正気を取り戻しましょう。)
『ライナ······。』
サーリはライナの熱意に目に熱いものがこみ上がる。死んで何百年もたち。もうそんな感情は既になくなり過ぎ去ってしまったと思われたた。だがライナの諦めぬ心にサーリの中に騎竜乗りだった頃のと闘志がメラメラと沸き立つ。
『解りました。ライナ。私、絶対ポーゼルを戻します!。』
ギャアラギャア
(その意気です!。)
ライナは再び竜瞳を前方に飛行する幻想竜ポーゼルを見据える。
『サアアアアアアアアアアアアアアリリリリリリリリリ!。』
未だ主人の名前を呼び。己の主人を探しさ迷い続けている。
バァサッ!
ライナは筋肉のついた翼を広げ。幻想竜ポーゼルを追う。
『サアアアアアアアリリリリリリ!!!。』
ギャアああああーーー!
(竜破掌!)
ドォおおおおおーーーーーー!
ライナの見えない気の衝撃波が青白く透けた幻想竜ポーゼルの巨体を吹き飛ばす。幻想竜ポーゼルは身体はグラッと態勢を崩し。横にのけ反るが再び飛行するコースへと戻る。
『サアアアアアアアリリリリリリ!!!。サアアアアアアアリリリリリリ!!!。』
幻想竜ポーゼルの青白い身体が発光する。
ぱあああ
再び何かのスキルが発動される。
ギャガアギャアラギャギャアギャ!?
(くっ、また精神支配系スキルか!?。)
『いえ、これは······。』
視界が急に暗くなり遮断される。
精神が支配されるような感覚はない。ただ何かの記憶がまるでフラッシュバックしたかのように自分の脳裏に流れ込んでくる。
「大丈夫だから。そうだ。いつもの待ち合わせ場所で私を待ってて。そうあの遺跡跡地。私達がいつも外のレースで待ち合わせにしている場所よ。ね、そこを待ち合わせしましょう。」
『解った····。サーリの言うとおりにしよう。私はその場所で待つことにする。だからサーリもしっかり療養してくれ。』
これは·····幻想竜ポーゼルの記憶なのか?。スライドショーのように映像が頭の脳裏に流れてこんでくる。
『ポーゼル·····。』
サーリさんもまた俺と同じようにポーゼルの記憶を追体験しているようであった。
サラサラサラサラ
映像が流れる。
幻想竜ポーゼルは約束の場所である遺跡跡地に待ち続けていた。帰らぬ主人を待ち続け。雨の日も雪の日も嵐の日もずっとずっと待ち続ける。
ポーゼルは遺跡跡地の風景がスライドショーのように変わる変わる移り行く。それはこの異世界の4季を移り変わりをみているようでもあった。ただ幻想竜ポーゼルはその場所を微動だにせずにずっと立ち尽くしている。
スライドショーのように流れる4季の映像の移り変わりの中で幻想竜ポーゼルの身体はみるみる疲弊し衰弱していくのが解る。あれから何も食べずただ主人を待ち続けていた。
········
どれほど年月が過ぎ去ったのたろうか?。幻想竜ポーゼルの姿は最早みるに耐えないほど朽ち果てていた。騎竜で鍛えた太い竜の筋肉も今はガリガリに痩せ細っている。
幻想竜ポーゼルは大きく長首を頭上の空へと上げる。もう振り絞る力などないのに。それでも懸命に幻想竜ポーゼルは長首を上げる。
『サーリ!何故だ!。何故迎えに来ない!。約束したのに!。元気になって戻ってくると約束したのに!。何故!。何故ええええーーーーーーーー〰〰〰〰!。』
ポーゼルは遺跡跡地で雄叫びをあげ泣き叫ぶ。己の主人の死さえもこの竜は受け入れようとはしなかった。ただただ主人が迎えにくることを信じ。待ち続け。そこには理由などなく。ただ単に純粋に主人想いの騎竜がいるだけであった。
『う··うう··。ポーゼル、ご免なさい。本当にご免なさい······。』
サーリは憑依するライナの背中で涙を滲ませ泣きじゃくる。謝罪の言葉を繰り返す。後悔の念にかられ。自分の相棒にしてしまった残酷な仕打ちにたいして後悔の懺悔を繰り返す。
スッ
脳裏に流れるスライドショーのような幻想竜ポーゼルの記憶はそこで途切れた。多分その日がポーゼルの命が尽きた最後だったのだろう。
『うっ··ううっ····。』
サーリさんは憑依している背中の上で泣きつづける。
ライナは静かに瞼を閉じ沈黙する。
·········
ライナの脳裏には幻想竜ポーゼルの記憶が被り幼い記憶が甦る。
それは幼い少年がブランコに乗り。一人寂しく誰かを待っているような姿であった。
キーコ キーコ
「お母さん·····。」
公園のブランコで幼い少年はポツリとそんな言葉だけを吐く。
幻想竜ポーゼルの記憶を垣間見て。ライナの竜の口がギリっと強く噛み締める。
ライナの竜瞳が鋭く。王都上空をさ迷いつづける幻想竜ポーゼルを捉える。
ギャアギャ····。ギャアギャアああああーー!
(馬鹿やろう······馬鹿やろうがああああーーっ!!,)
カッとライナは突然激昂する。
『ラ、ライナっ!?。』
突然激昂して叫ぶライナの姿にサーリは驚く。
ライナの竜顔は怒ったように幻想竜ポーゼルを強く睨む。
ギャア···ガアギャ···ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャ!ギャアラギャアギャ!
(何十年···何百年···。お前は自分の主人が迎えにくるのを待ち続けたんだろっ!。それなのに!。お前は主人がやっとここまで逢いに来て。目の先、鼻の先にいるのに!。見えない····気付きもしない·····。)
『ライナ·····。』
サーリの目が涙に滲む。
ギャアラギャアガアギャああああああああーーーーーーーーー!ギャアギャああああーーーーー!
(お前の竜瞳(りゅうめ)は節穴かああああああーーーーーーー!。
ライナの竜の右掌に気を練り込む。
ライナは大きく振りかぶり。気の練り込んだ竜破掌に幻想竜ポーゼルに撃ちつける。
ぎゃあああああああーーーーーーーーーー!
(目を覚ませええええーーーーーーーーー!。)
ドォッおおおおおおおおおーーーーーーー!
『サアアアアアアアリリリリリリ。』
しかし幻想竜ポーゼルは竜破掌の衝撃で態勢が崩れても結して飛行を止めない。
ギャラギャアギャアギャ!ギャアガアギャアラギャア!
(く、どうすれば止まる!どうすれば正気を取り戻す!。)
『もういいんです!。ライナ。』
ライナは竜のくちばしが苦渋に歪む。
考える限りのポーゼルを戻す方法を探す。
ライナはふと3本の鉤爪の掌を眺める。
そう言えばレッドモンドさんが言っていた。発気は言葉を乗せて気を発する技だと。気を発すると同時にその言葉の想いも乗せて運ぶ技であると·····。
ならば…···
ライナは竜瞳の視線を幻想竜ポーゼルに向ける。
考える限りの中で突破口を生み出す。
幻想竜ポーゼルの幻想から呼び戻すプランが立った。
『サーリさん!。ポーゼルを起こします!。少震動しますが我慢して下さい!。』
「えっ!?あ、はい。」
幽霊であるサーリさんに心配する必要性はないだろうが。一応了承を確認する。
ギャアラギャアギャアギャアギャア‼
(ドラゴンバイブレーション(竜震動)‼)
ブッ ブブブッ ブブブブッ ブブブブブッ
ブッブッブブブブブブブブブブブブブブブブブ
ドッ!ドドドドドドドドドドドドドドドドッ‼️
ガッ!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ、ガッガガガガガガガガガガガッ!ガガガッ!!!
『えっ?え?え?。。』
サーリさんは震動を感じていないようだが。ライナが激しく震えだしたことに困惑する。
バァサッ!
ライナは大きく筋肉の翼を広げると体内の気を循環させ。震動することによって体内に流れる気の循環が小刻みに収縮する。
『サアアアアアアアリリリリリリリリリリリリ!!!。』
バァサッ
王都上空をさ迷う幻想竜ポーゼルにライナは懐に飛び込む。竜の両の掌を実体のない青白いポーゼルの竜の身体に当てる。
ギャアガギャ!!
(発気”10連破„ ‼️ )
ドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!
ドオおおおおおおおおおおーーーーーー!!ッ
【目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼目を覚ませ‼】
【目を····覚ませえええええええええええーーーー!!!。】
十連の言葉を乗せた竜牙連破掌がポーゼルの身体を直撃する。
『ポーゼルっ!?。』
ドオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼
『サアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
吹き飛ばされたポーゼルは主人の名を最後まで呼ばず。何か思い出すかのように奇声を発する。
ポーゼルの透けた青白い竜体はそのまま王都上空を吹き飛び。貴族街の建物をすり抜ける。幻想竜ポーゼルの霊体は東地区のシャンゼルグ竜騎士校の敷地まで吹っ飛ばされる。
びゅうううううううううううううううううううううううううううううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
、
ドオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!!!
幻想竜ポーゼルが大きく吹っ飛ばされ。堕ちた方角があの主人の約束の場所であった遺跡跡地であった。
柔かな二つの膨らみを背中に押し付けて貰いたくて騎竜になりました マンチェスター @dollknait
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