第7話

「で、その事にムカツいたのが犯行の理由なんですね?」

 接見に来た三〇ぐらいの国選弁護人は、こんな馬鹿見た事無いと云う表情で、そう言った。

「ええ、そうです」

「貴方が馬鹿だと思ってる人達から馬鹿にされたんで、ムカついて、八つ当たりした訳ですか……」

「普通、そうなったら、ムカつきますよね?」

「はぁっ? 貴方が馬鹿だと思ってる相手なら、馬鹿が何を言っても馬鹿のタワ言と聞き流せば良いだけの話でしょ?」

「いや、だって……」

「話を戻しましょう。で、犯行を決意した貴方は、近所のホームセンターで灯油を買って、その宗教団体の支部の内、自宅から一番近くに有る所に行って、灯油を撒いて放火した、と……」

「はい、そうです。でも、思った程燃えなくて、あたふたしてる内に気付いたら、自分の服に火が付いてしまって……」

「で、自分だけ大火傷と」

「はい」

「何、田舎のヤンキーより馬鹿な真似やってんですか? 四十代後半で、奥さんや子供も居る大手企業の課長さんが……」

「いや、それは、その……」

「で、貴方は、どうしたいの? 情状酌量を求めたいんなら、反省の態度を示さないと」

「反省ですか……?」

「そう」

 何か、弁護士の口調が、どんどん、齢上に対するものじゃなくなっていっている気がするが、文句を言いたくても、困った事に、この生意気な若造が、俺の最後の希望なのだ。……家族は、とっくに俺を見捨ててる。田舎の親からは「お前が死んでも、ウチの墓に入れるつもりは無い」と云う連絡が有り、カミさんからは「子供達は、お父さんの顔なんて2度と見たくない、って言ってた。もちろん、私もよ」と言われてしまった。

「ええっと……よく判んないんですが、一体全体、何について反省すれば良いんですか?」

「……わかった、今度、来る時までに、反省文の案を考えておこう」

「ああ、それと……ネット上で俺は、どう言われてます?」

「決ってるじゃないか……。『ネット依存症の馬鹿』扱いだよ」

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