最終話 救国の英雄は少し(?)残念な性格の元お嬢様でした

 あれから、かなりの月日が経ちました。

 私とマナカさんが出会ってから、すでに二十年の月日が経っていました。


 ガリアスさんをマスターに、ブレンダさんを副マスターとして、冒険者ギルドファーレ支部を作り。

 チヨルカン温泉に熊の干物亭を筆頭とした観光組合を設立。カーチスさん達にボクシングを伝えボクシング団体OFCオーガファイトクラブを設立、この街の名物出し物として、娯楽観光関連の強化。

 最低限の読み書きができないと話にならないと、誰でも行ける三年制の学校を設立。

 他にもまだまだありましたが、これだけのことをたった五年でやり遂げてしまいました、凄い人です。


 そしてマナカさんは国を復興発展させた後、醤油の権利を持つクナギ財団を作りあげ、軌道に乗せた後、何故かまた魔王国を中心に冒険者として日々を過ごしておりました。



 マナカさんも年齢が三十近くになった辺りで冒険者も辞め、時代の未来を築く若者を育成でするといって国に留まりましたが、その数年後に病に倒れ三十八歳でこの世を去りました。


 マナカさんは最後まで滅茶苦茶な人でした、ですが私はマナカさんに出会えたことを、とても誇らしく思います。

 マナカさんの最後の言葉は感謝の言葉でした。


「……一度は無くしたと思ったこの命。

 そんな命で国を再建する、なかなか上手くやれたと思いますわね。皆さんとの異世界生活は刺激的でとても良いものでしたわ。

 ……マウナさんやベティさん、アルティアさん、中尉にナルリアちゃん。そしてこの国の方々に出会えたことは、このクナギマナカの人生で最高の出来事だったと思います。この世界に呼んでくれたマウナ・ファーレに感謝を、そしてこの国に幸有らんことを……」


 最後まで笑いながら、親愛なる救国の英雄は眠りにつきました。

 マナカさんの死にこの国の全ての民が悲しみ、別れを惜しんみました。この事からもわかるように、マナカさんは全ての国民に本当に好かれていた方でした。


 本日はマナカさんが亡くなってから三年目の命日です。

 思い返せば復興を果たした後も色々な事件がありました。


 チヨルカンから逃亡した勇者の協力者達が、降霊魔術の研究資料をもって邪神信仰の邪教徒達と手を組み、邪神の復活を目論んだ事件が発生、この時に我が国のメイドであったサーレが邪神の器にされてしまいました。

 サーレの魂だけでも救おうと、私たちは奮闘のすれ復活した邪神を倒すことに成功。

 しかしこの事件はサーレを亡くすといった悲しい事件でした。

 怒ったマナカさんは邪教徒達を完全に駆逐するため、二度とこのような悲劇を起こさないために世界中を駆け巡りました。


 邪神事件の後も、邪神復活に使われた邪神像が魔王『カフカ・アーダ』の手に渡りました。

 邪神像を取り込んだカフカが大魔王と名乗り世界に宣戦布告。

 マナカさんが「この大変な時期にクソ迷惑な……速攻で潰しますわよ!」とカフカに戦争を仕掛けましたね、そしてマナカさんが大魔王カフカを確か……『マナカ式フィッシャーマンズスープレックス』でトドメをさしこの戦争は終結となりました。


 この後も小さな事件は多々ありましたが、大きな事件はこの二つでした。

 後に『魔王カフカの乱』と『邪教徒事件』この二つにチヨルカンの勇者事件と三つの大きな出来事を止めたマナカさんは『勇者殺しの英雄』『英雄乙女』などと呼ばれ世界的にも有名な人になっておりました。

 あ、その生き方や性格、知名度が原因で逆に言い寄ってくる男性が皆無だったため、生涯独身でしたけどね。


「ワタクシ! ナルリアちゃんと結婚しますわ!」


 途中でこんなこと叫んでもいましたけど……



 さて、では他の冒険者だった頃のメンバーの方はどうしているかといいますと……


 ベティさんはあの後はしばらく、魔王国の防衛部隊の指揮や部隊員の指導をしてくれておりました。

 現在ではマナカさんの若手育成計画の一環であった学校の一つ、冒険者育成学園の初代学園長として今でもオネェ言葉で頑張ってくれています。


 アルティアさんはファーレ総合治療院の初代委員長に就任後、街で知り合った男性と結婚。

 結婚式ではマナカさんが何故か血の涙を流しておりました、そして今でも治療院で薬の研究をしつつ、お子さん二人に旦那さんと幸せに暮らしています。


 ナルリアちゃんはマナカさんが亡くなるその時まで、ずっと一緒に冒険したりと行動を共にしておりました。マナカさんが亡くなった後の一年間は抜け殻のようで、見ていてとても痛々しかったです。

 しかし、その後舞台や物語について猛勉強し、マナカさんの偉業を後世に伝えるための本の執筆や演劇の脚本を作成。

 気付けば有名舞台演出家になっていました。


 キノコ中尉は軍部に残り、軍部の諜報機関の最高責任者として今でも軍部で活躍しています。

 ついでにキノコ農園も営んでおりまして、そこそこ儲かっているようです。



 本日はマナカさんのお墓に沢山の人が集まっております。

 と、いってもマナカさんのお墓は二つあり、一つは教会の礼拝堂に、ここはマナカさんを祀るための教会であり一般の方はここにやってまいります。

 もう一つは生前のマナカさんと親しかった者のみ入れる部屋にある、マナカさんの死体が埋葬されているお墓です。

 私、ベティさん、アルティアさん、ナルリアちゃんにヨネダ中尉も今日はマナカさんのお墓参りに来ております。


「相変わらず凄い人ねぇ、マナカちゃんのお墓作るのに教会一軒建てちゃうんですものねぇ」

「――マナカのお墓なら、これくらいの建物は当然必要です」

「はは、マナカさん。本当に不思議な方でしたね」


 ベティさんは相変わらずですが、アルティアさんは家庭を持ったことで落ち着きどもる癖が治っております。ナルリアちゃんもマナカさん信者なのは今でもですが、落ち着き大人になったためか、言葉遣いも昔の面影はあまりなく落ち着いた喋りになっていました。


「英雄の眠る場所でありますか、マナカ殿は本当にとんでもない人でしたが、確かに英雄でありましたな」

「ええ、魔王国どころか世界を救っちゃってますものね。しかも大魔王を倒し世界を救った理由が国の復興作業の邪魔だからですものね」

「昨日のことのように思い出せますね」


 話しながら部屋を進むと一人の女性が先に来ていました。


「おや? ブレンダさん」

「あ、魔王様たちもマナカさんのお墓参りですか」


 ギルド副マスターのブレンダさんです。冒険者時代にはお世話になった人です。


「もう三年ですか」

「――まだ三年」

「まずは祈るとしましょう、私たちの国を見守っていてくれるように」


 ブレンダさんとナルリアちゃんが三年と呟き、私はまずは祈るように勧めました。

 私は右手を自分の胸にあて祈っていますと、自然と言葉が出てきてしまいました。


「マナカさんに出会えた幸運を感謝します。願わくばこれからもこの国を末永く見守っていただければと思います。我が親友マナカ・クナギに感謝と安らぎを」


 私が呟くと皆さんも黙祷をしました。

 そして少しすると――


「ええ、ええ、よろしくってよ! マウナ・ファーレ! 貴女の願いしかと聞き入れましたわ! この久那伎真奈香に任せておきなさい! ワタクシ案外優秀ですのよ?」


 安心を覚える懐かしい声が……


「な、な? い、いまマナカさんの声が、き、聞こえませんでしたか?」

「――マナカの気配がする!」


 アルティアさん、どもりが戻ってますよ? ナルリアちゃんも戻ってますよ!


「私にも聞こえました」

「あらー、皆が聞いてるのねぇ」


 ブレンダさんもベティさんまで、こうなると私だけが聞いた幻聴じゃないようです。


「なんですの? 皆さんハトがアハトアハト食らったような顔して」


 また聞こえました!


「あそこであります!」


 ヨネダ中尉の移動用ゴーレムが祭壇の上の窓を指さします。


「……そんな、まさか」


 窓に人影が、懐かしいシルエットです、太陽の光で顔は見えませんが……

 人影は飛び上がり私たちの前に降り立ちます。


「皆さんのマナカさんが参上いたしましたわよ!」


 そこには腕を組み仁王立ちするマナカさんが立っていました。

 私と最初に出会った時の姿で、懐かしいあの制服で私の大好きな……大胆不敵で自信満々だけど色々抜けてて、少し残念な異なる世界から来たお嬢様であったマナカさんが。


「あ、あぁ……本当に、本当にマナカさんですか?」


 マナカさんは私達を見回すと、にこりと微笑みました。


「ワタクシが亡くなってから三年しか経ってないというのに、皆さま老けましたわね」

「ちょ、ちょっとそうじゃないでしょ! マナカちゃん、なんで昔の姿でここにいるのよ!」


 ベティさんの言葉はもっともです。


「もし、あなたが偽物なら。魔王マウナ・ファーレは絶対に許しはしませんよ」


 困ったような顔をしながら、マナカさんは語りだしました。


「そうですわねぇ……んー、今のワタクシ人間ではありませんのよ」

「ゆ、幽霊ですか?」

「――マナカ、成仏できてなかったのか……」

「ちゃんと最後までお聞きなさいな」


 ナルリアちゃんとアルティアさんが悲しそうな顔をしていますが、それをたしなめるマナカさん。


「ぶっちゃけて言いますと、ワタクシ下級ですが神になってますのよ」

「は? 神でありますか? 私は新世界の神になる! というヤツでありますか?」

「ちょっと違いますわね」


 神になったとか流石マナカさん、意味が分かりません。


「なんといいますか、この三年ほぼ毎日、誰かがワタクシのお墓に訪れて祈りをささげていくので、それが信仰となり、祈りと信仰の力が徐々に集まっていくと。あら不思議、原理は不明ですがワタクシいつの間にか神霊として目覚めちゃったんですのよね。自分でも自分の凄さに驚いておりますのよ」


 マナカさんはあっさりと、とんでもないことを口走っております。


「基本的には幽霊みたいなものですが、短時間であれば受肉も可能なんですのよ」


 そういってマナカさんは私の頬に手を添えました。

 そのぬくもりが懐かしくって、嬉しくって……私は気付くとその手に自分の手を添えていました。

 そして自然と目から涙が溢れてきます、他の方々も同じだったのか泣いておりました。


「あぁ、マナカさん……マナカさん!」


 私は自然とマナカさんを抱きしめていました。


「ふふ、うふふ。いつになっても美少女に抱きつかれるのは、良い気分ですわね!」


 あぁ、この言い回し。マナカさんは本当に帰ってきたのです。


「あら? マウナさん、少し背が伸びました? 見た目は当時とそこまで変わらないのに。羨ましいですわねって、ワタクシも既に似たようなものですわね」


 そういうとマナカさんは私の頭をやさしくなでてくれました。


「マウナさん、只今戻りましたわ。これからもよろしくお願いしますわね」

「はい! おかえりなさいマナカさん!」


 私の大好きな少し残念なお嬢様は、やはり滅茶苦茶な人でした。




 ――少し残念なお嬢様の異世界英雄譚 おわり

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少し残念なお嬢様の異世界英雄譚 雛山 @hinayama2015

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