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「その格好は……!」


 彼が驚いてる。いい反応をしてくれるなぁ。ふふん、と胸を張る。ちなみにあたしは大きい。残念だったな、お控え目派の諸君。


「どうかな?」


 くるりと回るとひらりとスカートが舞う。そうスカートだ。ジーパンじゃない。上もTシャツだけどいつものくたびれたやつじゃない。よく分からない英語が書かれたおしゃれなやつだ。それに薄手のセーター。腕輪もしている。今時のファッションはわからないので、とりあえず雑誌の表紙を参考にしてみたけど変ではないはず。髪の毛もちゃんとサラサラだ。


「超かわいい」


 彼がニコニコしながらあたしを褒める。まっすぐ褒めてくれる人っていいね!

 照れるけど!


「でもそういう格好できるんすねー」

「頑張ればね」

「え、なら無理しなくていいすよ」


 申し訳なさそうに言われた。こやつ、乙女心を理解していないようだ。女たらしのくせに。乙女は好きな人のためなら頑張りたくなるものなのだよ。

 好きな人。改めて心の中で思って急に恥ずかしくなる。


「あたしがそうしたいからいーの!」


 赤い顔を見られないようプイと背けながら言い放ち、心配そうにみてくる彼の手をとり歩き出した。


「え⁉」


 彼がまたもや驚く。せっかくなのでとったついでに恋人繋ぎをしてみた。


「いや手! え、なん、えぇ⁉︎」


 驚きすぎて言葉になっていない。まぁ気持ちはわかる。


「嫌なら離すけど」

「全然嫌じゃない!」


 動揺しているのにそこはすぐ否定するのか。そんな些細なことで嬉しくなる。


「ね、今日のデートどこ行くかもう決めてる?」


 繋いだ手をブンブンと振りながら尋ねる。


「まだっすね」


 理解したのか考えることを放棄したのか分からないけれど、いつものペースに戻った彼は落ち着いた様子でこたえた。


「じゃあカラオケ行ってみたい」

「行ったことないんすか」

「ないよ」


 だってなかったしねー。



 カラオケに行って2人分の料金を払う。とはいっても彼はデートの時はいつだってあたしの分も払ってくれる。申し訳ないなぁとは思うのだけど、いつも嬉しさが勝ってしまう。


 室内に入ってきょろきょろするあたしに、彼は機械の説明をしてくれた。けれどハイテクすぎて理解できなかった。

「歌いたい曲あればおれが入れますよ」と彼が苦笑いしつつも言ってくれたのでそれに甘えることにする。


「……歌いたい曲被りますね」


 何曲かお互いに歌ったあと、彼が意外そうに言う。


「民謡とかでも歌うと思った?」

「正直少し思ってました」


 相変わらずちょっと失礼だな。いいけどさ。


「街中で色々流れてるしね。ずっと聞いてたらさすがに覚えちゃうよ。というかそれと被るってことは結構ミーハー?」

「常に最先端を追っているだけです」


 それをミーハーと言うんじゃ……?


 それからあっという間に3時間経ち、あたし達は店を出た。


「初カラオケはどうでした?」

「楽しかったー!」


 グーッと腕を伸ばしながら答える。それは良かったと彼が微笑んだ。柔らかい笑みに心がときめく。


 あー……好きだなぁ。


 そう思った。思ってから、気づいた。

 

 あれ? あたし達まだ付き合ってなくない?

 

 前の告白は一旦白紙で、とりあえずお友達から的な感じになっちゃってたし。すっかり彼女気分だったので急に恥ずかしくなる。が、恥ずかしがっている場合じゃない。ちゃんと彼氏になってもらわねば。

 ふんっと気合を入れ、彼の方を向く。向いて、戸惑う。


「……どうしたの?」


 彼の顔が真っ赤だった。


「だって、いま……」

「?」

「好きって……」

「!」


 なるほど、声に漏れ出てたらしい。何それとても恥ずかしい! 恥ずかしすぎて消えちゃいそう。


「いや、今のは、その」


 あわあわと言い訳をしようとしてしまう。先ほどの気合はどこへやら。

 だって、ねぇ。

 声を発するのと心の声を聞かれるのとじゃ全く別問題ですよ。あたしは例え超能力者になってもテレパシーは使わないことを決意した。


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予感屋SS 大塚黒丸 @otukakuromaru

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