我が魔王の隣に立つ

たれねこ

我が魔王の隣に立つ

 我が魔王は、今現在たいそう不機嫌そうな顔を浮かべられている。


「魔王様の呼び出しに、急ぎ馳せ参じました。して、本日はどのような用事でございましょう?」


 魔王の前に膝をつく。そして、魔王からの言葉を待つ。


「よく来た。例のものはちゃんと持ってきたのであろうな?」

「もちろんでございます。それで用はなんでございましょうか?」

「ちょっと倒せない相手が現れたのだ。手を借りようと思って」

「それで、その相手というのは?」


 魔王は相手の姿を映し出し、「こいつよ」と口にする。魔王は最近、狩りにご執心だ。そして、思いもよらぬ強敵と出会い、苦戦したのであろう。


「魔王様の命により、助太刀させていただきます」

「うむ。主は私が知るところの最強の戦士。武器は何を使う?」

「どんな武器でも使いこなして見せましょう」

「すごい自信だな。ならば、一番の得意武器はなんだ?」

「大剣にございます」

「わかった。ならば、大剣を使うがいい。前衛は主に任せよう。私は後方から弓で援護する。それでいいか?」

「もちろんでございます」


 魔王の誘いを受け、共に魔王が苦戦している相手と戦いに行く。

 まずは相手を探すところから始める。道中、邪魔なものは排除したり、薬草採取や鉱石を採取したりする。

 そして、ターゲットの潜伏地を見つける。魔王が「行け!」と号令をくだし、隙だらけのターゲットを急襲し、初撃を加える。ターゲットはすぐに反撃してくる。広い場所に誘導しつつ、事前の打ち合わせ通り、前衛で注意を引きつけつつ、攻撃を加えていく。魔王は後方で援護しつつ、タイミングを見て回復アイテムを使用する。

 魔王は「よし、そこだ!」「かわせ!」「逃げたぞ、どこに行った?」など興奮気味に声を上げる。

 一度は逃げられるも、ターゲットを追いかけ足を止めるのを確認する。

 物陰に隠れ、武器の落ちた切れ味を回復させるために砥石を使う。魔王も特殊な矢の補充を完了させ、戦闘準備を再度整える。

 そして、「行くぞ!」という魔王の言葉に合わせて、止めを刺すために再度急襲する。最後の抵抗は激しく、こちらも傷つきながらも攻撃に集中し、ついには打ち倒すことに成功する。


「やった……やった!」


 魔王は歓喜の声をあげる。そして、打ち倒したターゲットに近づく。

 そして、ゆっくりとしゃがみ込みターゲットから素材を剥ぎ取っていく。


「魔王様、お目当てのアイテムはでましたか?」


 その問いに、魔王は不機嫌そうな表情を浮かべる。


「もう一回行くわよ? いいわよね」

「仰せのままに」


 そして、再度ターゲットの討伐に向かう。魔王の隣で戦えるのならば何度でも戦おう。




 前世でも現世でも魔王の側にいられることに幸福感を抱いていた。ただし、抱く幸福感の種類は決定的に違うが――。

 前世では魔王に戦果を認められ、側に仕えることを許された。その幸福感たるや至極のものだった。しかし、そんな幸福は長くは続かず、勇者率いる人間の侵攻に力足りず魔王を守れぬまま先に倒れてしまった。

 現世では魔王とは高校で知り合い、すぐに意気投合した。そして、男女の仲になるには時間が掛からなかった。その後、前世の記憶を互いに取り戻し、二人きりになると呼び方と喋り方を以前のように戻すようにしているが、気を抜くといつもの言葉遣いに戻ってしまう。

 そして、最近はハンティングゲームを一緒にするようになり、シリーズ通してやりこんでいる自分が魔王を助け、望みを叶えるために先行して力をつけている。


 二周目のターゲット討伐に成功し、魔王は剥ぎ取りと討伐報酬を得る。


「今度はお目当てのアイテムは出ましたか?」


 魔王は嬉しそうな表情を浮かべている。


「ええ、だけど、もう一回行くわよ?」

「それは構いませんが、どうしてでしょう?」

「欲しい装備の素材が足らないのよ。付き合ってくれるわよね?」

「もちろんです」

「じゃあ、次は私は太刀で行くわ」

「それならば、私は双剣にいたしましょう」


 魔王は楽しそうな顔で頷いて見せる。

 こうして生まれ変わり世界も立場も変わったが、魔王の隣にいられることに幸福を感じている。今度こそは魔王と最期の瞬間まで共にいたいと心の底から願ってやまない。叶うなら来世も魔王の隣にと思うが、そればかりは自分で決められることではない。

 そして、三周目に魔王と二人で旅立つ――。

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