青春の無限階段

北風邪

第1話 青春の無限階段

「そこで急に目の前にワッ!と出てきたんだ!……な、怖いだろ?」


「何かベタだね」


「ケヘヘヘッ」


「どっかで見た事ある気が…」


俺を最後に各々が感想を言う。


「うるせえ、もうネタ切れなんだよ」


場所は写真部部室。

シンと静まり返ったこの部屋は薄暗く、近くの机に置かれてある白熱灯の明かりしかない。

明かりで照らされるのは、俺たちの顔と天井ぐらい。

天井には大小さまざまな星形の装飾がされてある。

そんな明かりですらもこの狭い部屋全てを照らすことが出来ておらず、本棚や出入口はほとんど見えない。

写真部というだけあって壁や机にはいくつかの写真が置いてある。

その写真には写真部と思わしき人が写っている。

部屋はL字型をしており、俺から見れば部屋がLを縦に逆さにしたように見える。

この部屋をLの書き順で説明するなら、書き始めの部分に出入口のドア、折れ曲がる所に机、最後の横棒の端に本棚がある。

それら以外にもデスクトップPC、冷蔵庫、蛇口、ガラクタが散乱しているので部屋はより一層狭く感じる。

そんな中俺たちはLの折れ曲がりの部分に所狭しと椅子を並べて話している。

話している内容は怪談話。

誰が言い出したのかは忘れたが、各々部活、補習をサボる目的でここへ行こうと言い出した。


「それで、どこから話を持ってきたの?」


「前ネットで見た話を持ってきただけだよ、ったく……」


「ケヘヘへッ」


時間帯的に部活に行く人も多い所為か、天井の近くからコツコツと人が往来する音が聞こえてくる。

この部室の上は階段となっている。誰かが階段の下で怪談とはまさにこのこと、と言っていたのを思い出した。


「にしてもこれじゃ百まで持たねえな。後十週くらいしなきゃなんねえし」


「ケヘヘへッ」


この毎度ケーケー言うのは怖い話をするならこの方が雰囲気が出る、と言う理由でやってるらしい。


「まだ二週しかしてないけどね……でも意外に怖い話って思いつかないね」


因みに今までした話の中で一番怖い話だったのは自分の部屋に長い髪の毛が落ちていたという話。

その話は、毎晩寝ようとすると枕に長い髪の毛が落ちていた……というものから始まった。

最初は全く気にしなかったらしい。というのもその人には姉がいたからだった。

部屋も、とりわけ分けていなかったらしくそんなこともあるだろうと彼は言っていた。

しかし数日後、彼は悪夢を見たらしい。女の人が追いかけてくるという夢だったらしい。

怖いのはここからで、起きると顔の上に束になった髪が被さっていた事だと彼は話した。

姉にこのことを聞いても知らない様子で、遂に怖くなってきたという。

その内、髪は彼の鞄の中など身の回りの所持品にも現れていき、彼のスマホの写真のフォルダには知らない女の人とのツーショットがあった……と言う話だった。

特にオチも無く、話自体は普通なのだが怖かったのはこの話が本当の話という事だった。

この話をし終えた後、周りの人は「だから前に悪夢を見たって言ったのか」「実は俺も同じような事が……」「そういや前からお前の制服に髪が付いてると思ってたんだ」など、この話の信憑性が高まっていったのだ。


「あれ、次誰の番だったっけか……あ、お前か」


そう言って俺の方を見てくる。


「そうなんだが、実は俺もう話すネタがないんだ。代わりにこの学校の面白い話でいいか?」


「あ?……そんなお前の内輪ネタを聞いてもなあ」


「内輪ネタじゃなくてこの学校なら絶対に誰でも知ってる話、生徒会長の話だよ」


「生徒会長の話?お前が?……気になるトコはあるけど面白そうじゃねえか」


「へえ、面白そう!」

「ケヘヘへッ」




生徒会長って転校生なのは知ってるか?

──「もちろん知ってる」「え、そうなの?」「ケヒッケヒッ」

二人は知ってるようだけど、そうなんだ。

で、これは生徒会長が転校して来たばかりの話なんだけど。

そうそう。お前が言う通り俺は生徒会長とその時同じクラスじゃなかった。

だからこれは俺の友達の話。

えーと、そうだな名前は……Tと呼ぶことにするけど、そのTは転校して来た時の生徒会長と同じクラスだったんだ。

──「何でお前とTってやつが知り合いなんだ?」

そりゃ部活が一緒だったからだよ。で、ここからが面白いとこなんだけど、Tが言うにはその生徒会長は転校した時は凄く暗い雰囲気だったらしいんだ。

意外だろ?俺もてっきり生徒会長は元から明るい性格だと思ってたよ。

漫画みたいな話だけど、Tの左の席はちょうど空いている席だったんだよ。っていうのもこの学校って教科によって教室変わるだろ?その席が余ってたって事らしい。

だから生徒会長と横の席になったって超興奮してた。

え?その時は生徒会長じゃないって?バッカ、生徒会長超可愛いじゃんかよ。雰囲気暗くてもそこは変わんないって。Tはその時から生徒会長を狙っていたらしい。今じゃ高嶺の花になったって言ってたけどな。

でもTが言うにはクラスの反応はそうじゃなくて冷たかったらしい。

転校初日は生徒会長に話しかけた人はT一人だったってTが言ってた。あの時はよく覚えてるなあ。あんなニコニコしたTは今まで見た事なかったしな。

次の日に学校に行ってみると、Tにクラスのリーダーが急に話しかけてきたらしい。


「おいお前、昨日から誰と話してんだよ」


「誰って……昨日転校してきた子だけど……」


「は?転校して来た子?何言ってんだよお前」


こんな風に生徒会長の横でTに言ったらしいんだ。

──「え、酷い……なんで?」

理由はわからない。でもその時から生徒会長へのいじめが始まったらしい。

多分生徒会長の横で言ったのはTもいじめに参加させるつもだったんだと思う。

でもTはそんな程度じゃ話すのをやめなかったんだ。その時Tはむしろ敵がいないって張り切ってたっけ。

日が経つごとに生徒会長へのいじめはエスカレートしていったらしい。

そして明らかに元気がなくなっていく生徒会長を見たTは遂にクラスのリーダーに向かって言ったらしい。


「おい、もういじめるのはやめろよ」


「何言ってんだよ!お前が一番キモいんだよ!」


そう言われてTはそいつに蹴り飛ばされたそうだ。

Tは生徒会長が泣いているのを見て余計に悔しくなったらしい。

そんな日々に転機が訪れて一人の女子が生徒会長と話すようになっていったんだ。

そうなんだよ。良かったんだよ。段々とクラス全員が話してくれるようになっていったんだ。





「自信を持った生徒会長は会長へと立候補した……ってTが言ってた」


「結局全部そいつの話じゃねえかよ……でもそんな事があったなんて聞いたこともないぞ」


「確かに。そんな事初めて聞いたよ」


「ケヘヘへッ」


明かりがチカチカと点滅を繰り返す。

横に置いてある白熱灯を見ると、案の定切れかけていた。

俺がちょっと前に来た時はやっと新しく交換できたって言ってた筈なんだけどな……消耗が早いな。


「こんにちはー……おや、これは誰かいるようですね?」


扉の方から声がした。振り返るが、暗くて顔がよく見えない。


「あ、この声は……」


「噂をすればってやつかな」


段々と近づいてくる足音に見えてくる顔。

首元についているバッジで生徒会長だとわかった。


「あなた達、サボっていますね?!」


「ゲ……何でわかるんだよ……」


「先生に言われたからです。一緒に補習へ戻りましょう!」


「一緒に?もしかして生徒会長も補習ですか?」


「お、そうだったのか……。生徒会長でも補習にかかるもんなんですねえ?」


「前回はたまたまです!実際に前回以外は良かったですし!」



「そういや、なんでここだとわかったんですか?」


「何でって私はここの部員ですよ?むしろあなた達こそ部員じゃないのにここにいるんですか」


「え、会長部員なのかよ……」


辺りの写真を見渡してみると、どれも生徒会長が写っていることに気が付いた。


「そうだ、生徒会長も一緒に怪談話やりません?」


「え、でも補習は……」


「大丈夫です!後で言い訳すればいいのです!」


「またそれですか?!まあ、今回くらいサボっても大丈夫ですよね……?」


そんな永遠に過ごしていたい心地よい光景を見ながら怪談話が再開した。








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