2 月夜の森

 月夜の森


「『私にあなたのしっぽをください。その代わりにあなたの欲しいものを一つ、私があなたに与えることができるものなら、なんでもあげます』」

 震える声で、でも、しっかりととかげの赤い星のような目を見ながら、みみは言った。

 その言葉はききから、とかげにあったらそう言えばいい、と言われた通りに言った言葉だった。 


『なるほど。私と魔法の契約をしたい、ということだな?』とかげは言った。

 それが魔法の契約なのかどうか、人間のみみにはよくわからなかったけど、みみはききに言われた通りに「そうです」ととかげに言った。(とかげにそう言われたら、そういえ、とみみはききに言われていた)


 するととかげは嬉しそうに小さな声で笑い出して、『いいだろう。そんな小さな体で、この森の深い場所まで、真夜中の時間に私に会いにやってきたのだ。その願い叶えてやろう』ととかげは言った。


「本当ですか?」

 嬉しそうにみみは言う。

 よかった。これでお母さんは助かる、と思った。(手に入れることが困難なとかげのしっぽは、それだけの価値があり、どんな難病でもたちどころに治る薬になる、と村のお医者さんは言っていた。みみはそれを信じていた)


『喜ぶのはまだ早い。しっぽはやるが、契約通りに私の欲しいものをお前から、一つもらうことにする。たとえそれが、なんであれ、な』にっこりと笑って、巨大な黒い影のようなとかげは言う。


 ごくん。


 みみは唾を飲み込んだ。


 みみの足は震えている。怖くて、怖くてずっと震え続けている。でも、大丈夫。覚悟をしてここまでやってきたんだ。たとえ、なにをとかげに要求されても私は大丈夫だ、とみみは思った。


「あなたの望むものはなんですか?」みみは言う。


 それは、私の命だろうか?

 ……それとも、私の魂、なのだろうか?


 そんなことを、みみは思う。


 するととかげは、予想外のことをみみに言った。

 それはみみの命でも、魂でもなくて、みみに『ある行動を約束させる』ものだった。

 その行動とは、『これから満月のたびに、この月夜の森の湖の湖畔にある、私の寝床にやってきて、私の話し相手になること』という不思議な願いだった。


「話し相手、ですか?」みみは言った。

『そうだ。話はなんでもいい。そうだな。たとえば、お前の普段の暮らしの話がいいな。今と同じ真夜中の時間にお前はここまでやってきて、それから、そんな話を夜の間、私とする。そしてお前は森が明るくなる朝の時間になって、この月夜の森から出て、村に帰る。それを私のしっぽが、元に戻るまで繰り返す。それが私の願いだ』ととかげは言った。


「しっぽはどれくらいで元に戻るんですか?」みみは言う。


『十年』とかげは言う。


「……わかりました。あなたの願いを私は受け入れます」みみは言った。

 するととかげは『魔法の契約はなった』といい、自分のしっぽをみみの目の前で引きちぎって見せた。(みみは、その光景を見て、とても驚いた)

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真夜中の森のとかげのしっぽ 雨世界 @amesekai

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