真夜中の森のとかげのしっぽ

雨世界

1 真夜中の森の中で会いましょう。

 真夜中の森のとかげのしっぽ


 プロローグ

 

 真夜中の森の中で会いましょう。

 真っ暗な森で会いましょう。

 出会ったら、手をとりましょう。

 そして、永遠に一緒にいましょう。


 本編


 ……愛しているって、言ってください。


 ある日、みみは村の掟を破って森の中に足を踏み入れた。それはみみのお母さんを助けるための行動だった。

 みみのお母さんは病気になった。

 その病気を治すためには、月夜の森の中に住んでいるという、とかげのしっぽが必要だと、森の中に住んでいる魔女、ききにみみは言われた。(ききはみみと同い年の女の子の魔女で、みみは村のみんなとは内緒で、森の中でききに命を助けてもらったときから、ききと友達になっていた)


 だからみみはそのとかげのしっぽを取りに、真夜中の月夜の森の中に足を踏み入れたのだった。


 それは、とてもとても深い森だった。

 それは、とてもとても暗い、真っ暗な夜だった。


 月夜の森は、その名前の通りに、大きな白い月の明かりが差し込む、比較的夜でも明るい森だった。


 でも、今夜の月夜の森は違った。

 空に大きな白い月は見えなかった。

 空は暗く、真っ暗で、星の光はない。

 森は、完全な闇の中に包まれ、静かに沈黙していた。


 そんな中でみみは魔女からもらった地図を便りに森の中でとかげを探した。黒い体をしたとかげ。真っ暗な闇の中に同化するようにして、そのとかげは、森の中にある湖の近くの寝床に確かに、いた。


 ……いた。とかげだ。


 みみは思った。


 闇の中に慣れてきたみみの目にはかろうじて、その大きなとかげの体を見つけることができた。

 そのとかげはどうやら木の木陰で静かに眠りについているようだった。(今夜の、月夜の森と同じように)


 ごくん。

 唾を飲み込んでから、みみは身を隠していた草むらから出て行った。

 そうして、『正面からとかげにしっぽをください』と頼むことが、一番安全な方法だとききに言われたからだった。

 みみはそのききの言葉通りに行動をした。(みみはききを信じていた。村のみんなは誰も、魔女であるききのことを信じていはいなかったけど)


『誰だ?』

 とかげが言った。

 そう言ってから、大きな黒い体をした(まるで影が一人で動き回っているようだった)とかげがのっそりと、その巨大な体を起こして、みみを見た。


 目を開けた、とかげの目は、『真っ赤』だった。

 夜の中に二つの赤い瞳が浮かんでいる。(それは恐ろしい出来事が起こることを告げるような、星の光のようだった)その赤い目が確かにみみの小さな体をしっかりと夜の中で、捉えていた。


 ……とかげは、まるで物語の中で読んだことのある龍(ドラゴン)のようだった。


 あるいは、それは悪魔のような存在にも見えた。


「お願いがあります」

 震える体と震える声で、みみは言った。


『ほう、願い? 人間のお前が私に願いとは、なんだ? 言ってみろ』ととかげは言った。

 とかげの声はどこかに苛立ちのようなものが感じられた。あるいはみみに夜の眠りを妨げられたことで、とかげは怒っているのかもしれなかった。

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