最終章 9月20日 金曜日

 三者面談が終わったその日のうちに、真田さん父子は警察へ出頭した。レコーダーは買わなかったらしい。

 その後の調べで、実際に塗人くんが殺したのは、3人目から5人目の3人であることがわかった。1人目と2人目は別の殺人事件だったが、2週に渡って、真田さんが休日出勤をしたことで、閃いたらしい。と。恐ろしい話だ。

 真田さんが、3人目から5人目の犯行時間、息子と一緒にいたと嘘をついていたのは、自身が離婚をし、息子を預かった時にした約束「パチンコに行かない」ことを破っていたことの後ろめたさからだった。

 皮肉なことだ。パチンコに行ったことを咎められると、それを隠すために嘘をつき、そのアリバイを利用して息子は人を殺していたのだから。

 本日付で、真田さんは警察を辞めた。


 俺が犯人だと思っていた伽藍洞さんが俺がいるときだけめっちゃお化粧を頑張っていたのは、別の課にいるイケメンの刑事が土曜出勤で、そのためにお化粧を頑張っていただけらしかった。あーはいはい。俺が土曜日、休日で出勤していない時の伽藍洞さんのメイクを見ないと、それは「確定情報」にはならないよな。


 一応、俺のクビは免れた。

 俺の本当の名は厭生探偵事務所に在籍する千里せんり疾斗はやと。門崎さんの正体は厭生弗篤で、門崎さんが完全週休二日制を取るためには誰かが代わりに厭生探偵をしないといけない。殺人事件が休日に起きると捜査一課に休日出勤しなければいけなかったからだ。ということで、たまたま先の事件で弟子入り志願をしていた俺に白羽の矢が立った。

 ただのフリーターなら選ばれることもなかったと思うが、俺は推理力の優れた瞬間記憶能力者だったから、門崎さんがいない時の報告書作りに一役買っていた。それもかなり文句を言われるけれど。

「今回の事件は、悲しい事件でしたね」

「そうかしら。頭のおかしい人が起こした事件ってだけでしょう。何にしても、人を殺す人が悪いってだけだわ」

「まぁ、そうなんですけどね」

「あなたも、瞬間記憶能力者なんだったら、事件の匂いを学習して、人が殺される前に察知して、事件を防ぐみたいなことしなさいよ」

「そうしたら、探偵の仕事減っちゃいますけど、いいんですか?」

「良いに決まってるでしょう」

 事務所のソファに寝転がりながら、ブランケットに包まり、門崎さんは答える。

「私は完全週休二日制がモットーなんだから。それも、最低よ。本当は、週7で寝転がりたいんだから。事件なんて、無い方がいいの」

「週7で寝転がっていたら、ご飯食べられませんよ」

「生きるために探偵をやっているあなたと一緒にしないでくれる。私にとって、事件を解く快感とか、探偵としての矜持なんてないんだから。ただ生きてるの。仕事なんて煩わしい。あるだけ無駄だわ」

 わかったようなわかってないような、ケムにまくような言い方をする。今の情報の中の、「確定情報」はなんだろう。

「さ、じゃ、私は家に戻るから。依頼のメールチェックして、精査して、『確定情報』だけを送ること。『俺はこう思う』の類を見つけたら1つにつき100円、給料から差っ引くからそのつもりでね」

「1つにつき100円! ちょっと多くないですか?」

「女性は恐ろしいって書いてあったもの。なら、その確定情報を確定させないと」

 俺の報告書の揚げ足取りをしていた。めったなことを書くものでは無いな。

 本当に、女性は恐ろしい。いや、これは確定情報ではない。

 頭の中のファイルをそっと書き換えた。

 我が事務所の所長、門崎紫外は恐ろしい。


『フライデー・マーダー』 完。

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フライデー・マーダー ぎざ @gizazig

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